15/08/06●電子書籍はなぜ紙書籍より安くなければいけないのか? |
このところ、出版界は大揺れしている。一つは取次の栗田出版販売が民事再生を申請して大阪屋と統合されたことにより、既存の紙の出版流通が危機的状況にあることがはっきりしたこと。もう一つは、アマゾンが出版社6社と手を組んで、110タイトルを期間限定の2割引販売したことに対して、紀伊国屋などの既存業界が激怒したことだ。 どちらの問題も、その背景には、アマゾンが断然リードする電子書籍の販売が、紙書籍の販売を窮地に追いやってきたことがある。 紙と電子は同じ書籍でも、紙が再販制による定価販売に対して、電子は音楽配信などと同じく再販適用外である。だから、いくらでも安くできる、安くすれば売れるということで、既存出版界はプラットフォーム側と常にもめてきた。消費者も、「電子書籍は安いのが当然。紙書籍と同じような価格はおかしい」と言っているので、この問題は解決できない。なぜなら、消費者にとって最も適切な価格とは、常に無料(フリー:タダ)だからだ。 そこで思うのだが、紙書籍と電子書籍は別物であるという観点に立つべきではないだろうか。電子書籍は単なるデジタル情報として扱われているのだから、紙と同じ再販適用など主張せず、情報価値に見合う値段で卸せばいいのだ。つまり、紙よりはるかに高い値段に設定してしまえばいい。そうして、紙のほうを安く(ディスカウント)すれば、同じ内容ならこちらのほうが売れる。 電子書籍の世界はプロとアマが混在する世界で、紙の世界はほぼプロの世界である。電子書籍は誰でも出せるが、紙書籍は誰でも出せるわけではない。ならばなぜ、プロが紙で出した書籍がアマが出した電子書籍と同じ価格帯で戦わなければならないのか。 そんなことを繰り返していたら、クオリティは保てず、プロ世界は崩壊する。優良な作家は駆逐される。スポーツではプロとアマの差はクオリティにおいても収入においても歴然である。 プラットフォーム側の圧力と、ネットの論理にしたがっていけば、おそらく書籍にかぎらず、既存メディアはすべて崩壊してしまうだろう。暴論かもしれないが、電子書籍は紙書籍より常に高くなければいけない。 ただし、そうは言っても、怖くてこんなことをする出版社は現れないだろう。 |