2016年1月25日●新著『アベノミクスに騙されるな! 嘘だらけの経済報道』(文芸社)発売 |
1月22日に、私の新著『アベノミクスに騙されるな! 嘘だらけの経済報道』(文芸社、1404円)が発売された。私は一貫してアベノミクスの経済政策は日本経済には効果がない、むしろ悪化させると言い続けてきた。しかし、世間はそうは思わず、この政策が成功する、日本経済は復活できると考えてきた。 それは、日本のメディアがここ数年で、著しく右寄り、政府寄りになり、経済報道ですら歪めてきたからだ。 単純な話、政府が経済に介入すればするほど経済は悪化する。アベノミクスはまさに、量的緩和やバラマキによってそれをやっている。本書では、そうした政策を批判し、それを指摘しないメディアを批判している。アベノミクスの経済政策というのは、資本主義ではなく国家社会主義である。 今後、政府はますます大きな政府になり、国民の自由は失われる。そうして、貧しくなった国民は政府を頼るようになり、日本から活気が失われていく。 以下、「アベノミクスに騙されるな! 嘘だらけの経済報道」の目次と、「はじめに」全文を掲載しておく。
■「嘘だらけの経済報道」目次
はじめに 第1章 アベノミクスは国家社会主義 第2章 チャイナショックの正体とは? 第3章 そもそもデフレを悪とした間違い 第4章 インフレになれば景気回復するという嘘 第5章 量的緩和によってなにが起こったのか? 第6章 消費税増税に反対できないメディアの構造 第7章 なぜ給料は上がらなかったのか? 第8章 失業率は改善し雇用は増えたのに消費低迷 第9章 労働法改正に反対するメディアの欺瞞 第10章 格差是正論で絶対語られないこと 第11章 量的緩和でも下落し続ける地価 第12章 東京オリンピック翼賛報道と観光立国 第13章 インフレ税で政府だけが生き延びる おわりに
■「はじめに」全文掲載
2016年の正月は、アベノミクスが始まってから迎えた4度目の正月だった。言うまでもなく、アベノミクスは安倍晋三首相が打ち出した日本経済の再生を目的とした経済政策だが、はたして今日までその成果は上がったのだろうか? 私は横浜在住なので、暮れから正月にかけて、中華街、元町、みなとみらいなどに出かけたが、例年と比べて人の出は驚くほど少なかった。明らかに日本の景気はよくない。そう感じた2016年の正月だった。 それなのに、多くのメディアは、この現実を伝えない。メディアはこの3年間、年頭に当たって「今年はアベノミクスの真価が問われる年になる」と言い続けてきた。しかし、本当に真価を問いたただし、それを検証したメディアはどれほどあっただろうか?
2015年1月12日、政府は2015年度の経済見通しを閣議了承して発表した。それによると、GDP成長率は、物価変動の影響を除いた実質で1.5%程度、景気実感に近いとされる名目で2.7%程度のプラスとなっていた。実質GDP成長率1.5%。これは、アベノミクスの当初の政策目標「実質2%、名目3%」を下回っていたが、それでも「プラス成長」は見込んでいた。 しかし、その結果はどうだったろうか? 2015年は1-3月期こそ実質GDP成長率でプラスとなったものの、その後の4-6月期はマイナス、7-9月期も速報値でマイナスを記録。年間をとおしても経済成長の実力を示す潜在成長率のプラス0.5%を下回わってしまった。実質GDP成長率は2014年もマイナス0.1%を記録しているから、日本経済は2014年、2015年と2年間にわたって、まったく成長していないのだ。一般的に2四半期連続でマイナスを記録すると、「リセッション」(不況)とされる。つまり、いまや日本経済は出口の見えない不況のまった只中にある。アベノミクスは日本経済を再生させるどころか、悪化させてしまったのである。
簡単な話、自由な資本主義市場においては、政府がよけいなことをすればするほど経済は悪化する。大胆な金融緩和とか、バラマキとか、そんなものは一時的なカンフル剤にすぎず、最終的には実体経済を悪くする方向に向かう。 それなのに、なぜメディアは「アベノミクスは失敗だった」と言わないのだろうか? また、多くの国民がアベノミクスによって経済は再生するというシナリオにいまだにすがり続けているだろうか?
それは、記者クラブを通した政府とメディアの馴れ合いが、この国の情報空間を歪めているからだろう。 アベノミクスとは、政府とメディアが合体してつくり出した“経済洗脳”である。もっと端的に言えば“国家詐欺”(それが意図したものであるかどうかは別として)である。この詐欺にメディアが乗ったため、私たちは3年間以上も騙され続け、「日本経済は再生する」「暮らしはよくなる」と信じ込まされてきたのである。 しかし、このままでは、そのような未来は間違いなくやって来ない。やって来るのは、アベノミクス以前よりももっとひどい、悲惨な未来ではないのか。
アベノミクス以前から日本経済は衰退を続けていた。その主原因は、人口減・生産年齢人口減・高齢化、そして日本の産業構造のグローバル経済への不適合にあったのだから、それに見合った縮小均衡政策と大胆な規制緩和を行えば、少なくとも私たちの暮らしはここまで悪化することはなかったはずだ。 それを「異次元の量的緩和」「大規模な財政出動」などというバクチ的な政策に打って出たおかげで、日本経済の衰退は早まってしまったと言うほかない。
それなのに、2015年10月、安倍晋三首相は「アベノミクスは第2ステージに入った」と宣言した。「GDP600兆円」「1億総活躍社会」などという空虚なスローガンを掲げ、第1次ステージの失敗を覆い隠してしまった。 「GDP600兆円」「1億総活躍社会」などに、そこにいたるための具体的な裏付けはまったくない。つまり、ただの言いっぱなしであり、もしこれが会社の事業計画のプレゼンなら、この点をつかれてたちまち立ち往生してしまっただろう。 しかし、メディアはかたちだけの批判をしただけで、深く追及しなかった。そればかりか、「第1ステージ」の検証をしなければならないのに、それも怠って「アベノミクス第2ステージ報道」を続けている。
「人間は考える葦である」というのはパスカルの有名な言葉だが、パスカルは「考えることは疑うことから出発する」とも言っている。アベノミクスが始まってからこれまでのことを思うと、私はこのパスカルの言葉に行き着く。 なぜなら、いまなにが起こっているか? それはなぜか?と、メディアが真っ先に疑い、そのうえで報道していれば、アベノミクスがまったく機能していないことはもっと早い時点でわかっていたはずだからだ。いや、そもそもその出発点からして、アベノミクスの景気回復の効果は疑われていたのである。 デフレは本当に悪なのか? インフレにすれば景気は本当によくなるのか? 量的緩和をすれば経済は回復するのか? -----など、疑ったうえで報道してこなければならなかった。それをしなかったから、安倍晋三首相も政府も、間違いに気づいているはずなのに、口先だけの「アベノミクス第2ステージ」を打ち出してしまった。
今日まで、ほとんどのメディアはアベノミクスを大歓迎し、希望的観測に基づく報道ばかりを繰り返してきた。さらに、政府発表の数値をそのまま垂れ流し、意図的に悪い数値を隠して、偽りの景気回復を政府とともに演出してきた。これは、本来の報道から離れた、明らかな“印象操作”である。大新聞からテレビ、経済誌、週刊誌にいたるまで、一部を除いてアベノミクスに否定的な報道はほとんどなかったと言っていい。
その結果、なにが起こったか? アベノミクスが始まってから今日まで、景気に関する世論調査では常に「景気回復を実感していない」という答えが7割以上に達してきた。株価が上がり、円安で企業業績は回復したが、肝心の給料が上がらなかったからだ。 ところがメディアは、給料までもが上がっているように見せかけてきた。とくに大新聞は、大きなスペースを使って「賃上げ広がる」「ベア過去最高決着」「個人消費に追い風」「経済好循環へ節目」などという見出しで政府発表の数値の速報を報道し、その後、確報で実質賃金がマイナスなるとアリバイ的に小さく伝えただけだった。明らかに政権に擦り寄り、政府と一体となって国民を“洗脳”してきた。
メディアがこのような姿勢では、多くの国民は実際になにが起こっているのかわからなくなる。本当は景気が悪いのに「景気はいい」と誤解する人間まで現れる。緩和マネーによる株価上昇と実際の景気はほぼ関連しないのに、さも景気がいいように報道すれば、株で火傷をする人間も増える。 とくに2015年の前半は、一部経済誌と週刊誌、そして一部エコノミストたちが「株はまだまだ上がる」「2万円は単なる通過点」と煽ったので、それまで株をやらなかった人間が市場に参加するようになった。しかし、2015年8月にチャイナショックの暴落が起こると、多くの個人投資家が資産を失った。老後資金を株に投資した高齢者のなかには、生活が立ちいかなくなる人も出た。
そんななか、じつは政府内部でもアベノミクスの失敗を認めざるをえない状況が出現していた。 2015年9月11日の経済財政諮問会議で、内閣府から提出された資料には「個人消費は総じてみれば底堅い動き」と書かれてはいたものの、「身近な食料品等の物価上昇が相次ぐ中、低所得者層等の消費活動に影響を与える可能性がる」とも追記されていたからだ。これは言葉を換えれば、アベノミクスが標榜してきた「トリクルダウン」(株価などの上昇と企業業績の回復→給料のアップ→消費の拡大)が起こらなかったことを認めるものだった。「2年間で2%の物価目標を達成しデフレマインドを払拭する」という日銀の方針の否定でもあった。
しかし、大新聞は、この政府内部の認識の転換をほとんど報道しなかった。報道したのは、安倍首相が、会議の席上で「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題だ」と述べ、スマートフォンの通信料などの負担を減らす方策を検討するよう指示したこと、年内にも総合的な少子化対策をまとめるように訴えたことなどだった。 実際、このときの日本経済新聞の見出しは「携帯料金引き下げを首相、諮問会議で指示」、朝日新聞の見出しは「少子化対策は社会問題であると同時に経済問題だ 経済財政諮問会議で対策提案」となっていた。 メディアがこの調子だから、安倍首相はメディアを舐めきり、1カ月もたたないうちに、「アベノミクスは第2ステージに入った」「新しい3本の矢を始めます」などと言えたのである。
ふり返ってみれば、大新聞よりテレビのほうが、“印象操作”“偏向報道”はひどかった。もともと、テレビにはジャーナリズムの機能がそれほど備わっていない。世の中の「流行りモノ」や「ブーム」などを取り上げることが多いので、アベノミクスのネガティブな面はこれまでほとんど報道されてこなかった。 しかも、ニュース番組、ワイドショーでは、経済政策を批判する評論家やエコノミストは干され、出番が用意されたのは単なる解説者(コメンテーター)ばかりだった。彼らはアベノミクスが始まると、熱心にトリクルダウンを解説した。 「トリクルダウンというのは、たとえればシャンパンタワーのようなものです。ワイングラスをピラミッド状に積み上げて、いちばん上のグラスからシャンパンを注ぎ続けると、グラスから溢れでたシャンパンが下のグラスに注がれていきます。これをトリクルダウンと言って、最終的にすべてのグラスにシャンパンが満たされ、景気がよくなるわけです」
テレビ朝日の『報道ステーション』が、衆院解散後の2014年11月24日に放送したアベノミクス報道に対し、自民党が圧力をかけていたことが発覚したことがあった。 このとき、自民党は「公平中立な番組作成」を要請する文書を作成し、それをテレビ朝日に送りつけていた。その内容は、「アベノミクスの効果が大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく断定する内容はおかしい」と番組を批判するもので、意見が対立する問題は多角的に報じることを定める放送法4条に触れ、「番組の編集及び解説は十分な意を尽くしているとは言えない」と指摘していた。 こんな文書を政府与党からもらえば、日本のメディアは腰砕けになる。経済報道が偏向してしまったのも無理もない。その後、自民党はテレビ朝日だけではなく、在京のテレビキー局各社に対し、衆院選報道での「公平中立、公正の確保」を求める文書を送っていたことも発覚した。
なぜ、日本のメディアは政府に簡単に懐柔されてしまうのだろうか? それは、メディアの成立基盤が広告収入だということが大きいからだろう。 じつは、安倍首相になってからの政府広報予算は、異常なまでに膨れ上がってきた。2015年度の政府広報予算額は83億400万円で、前年2014年度の65億300万円から18億100万円となんと3割近くも増加した。この予算額は、民主党・野田政権時代の2012年度の40億6900万円の倍以上である。ちなみに、2014年度の65億300万円への増額は、「消費税への国民の理解を深めるため」(政府広報室)というのがその理由だった。 当然だが、この広報予算の大半は、新聞広告やテレビCMのかたちで既存大手メディアの手に渡る。そして、既存大手メディアの幹部たち、たとえば読売新聞の渡邉恒雄会長、フジテレビ日枝久会長などは、安倍首相と頻繁に会食やゴル歓談を重ねて親交を深めてきた。安倍首相は、歴代総理のなかでメディア幹部ともっとも多く会食を重ねてきた。
本書では、アベノミクスの経済報道が、これまでいかに歪められてきたかを明らかにしていく。そして、いままでに、実際にはなにが起こってきたのかを示し、今後のために、メディア報道のどういう点を疑えばいいのか? を指摘してみたい。 そうして、アベノミクスによる景気回復は、政府とメディアがつくりあげた“幻想”、“ファンタンタジー”、“詐欺”だったことを明らかにしてみたい。 私たちは、政府とメディアによる詐欺に踊らされ続けてきたのである。この状況から一刻も早く抜け出さないと、私たちはもっと貧しくなり、資産を失い、その結果、未来を大きく誤るだろう。
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