メディアの未来[015]2009年の出版業倒産件数は平成最悪に |
「メディアNEWS」のほうに、最近のメディア業界の動向を書き続けてきたので、この連載は1カ月以上も間があいてしまった。その間に、前回書いた「アップル・タブレット」は、どうやら来春から来秋に発売が延期されるという見方が出てきている。 しかし、そんなニュースに反応する出版業界人は少なく、その間にも日本の出版界の崩壊は加速している。最近聞くのは、「新書がさっぱり売れなくなった」という話である。それもそうだろう、いまや大手から中小まで20社以上の出版社が新書を発売しているのだから、この市場はもう飽和点をとっくに超えてしまっているのだ。 と、もうこんな細かい数字は私としてはどうでもいい感じで、昔、こういう数字に一喜一憂したことがただ懐かしい。
今年は平成最多だった1992年を上回るペースで倒産が続いている
出版営業で書店や出版社をまわっている人たちから聞こえてくるのは、「○○社が危ない。年内持たないかもしれない」という話ばかりである。そこで、今回は、出版社の倒産状況についてまとめておくことにした。
東京商工リサーチが10月26日に公表した今年1月〜9月の「出版業の倒産状況」によると、倒産件数は前年同期比19.6%増の61件。年次(1月〜12月)べースで平成最多だった1992年の67件を上回るペースで推移していることがわかった。 今年1月~9月までの負債総額は、同37.7%増の224億2500万円で、200億円を上回ったのは1992年(年次べースで240億9600万円)以来のこと。負債10億円以上の大型倒産は、同2件増の6件(負債総額1168億5300万円)発生し、総額を押し上げている。もっとも負債が大きかったのは、今年3月に民事再生手続開始を申し立てた「ユーリーグ」(本社・東京、黒坂勉社長)の65億円だ。
倒産しても再生ができないところがほとんど
では、倒産の形態は、どうか? 破綻した出版社のうち、破産が全体の8割超を占める50件、再建型の民事再生法はわずか3件である。再生をはかるところが、これだけ少ないということは、もはや出版業が斜陽産業であるというこの証明であろう。 ちなみに、過去5年間の出版業倒産件数は、次のとおり。
[過去5年間の倒産件数]
2004年――54件 2005年――44件 2006年――61件 2007年――66件 2008年――64件
また、この2年間(2008年1月~現在)で倒産、破綻、廃業した主な出版社は、以下のとおり。
[2008年 倒産した主な出版社] ●エム・ピー・シー[2009年8月]自己破産申請 ●草の根出版会[2009年8月]自己破産申請 ●社会保険新報社[2009年8月]自己破産申請 ●雄鳥社[2009年4月]自己破産 ●ユーリーグ[2009年3月]民事再生法の適用を申請 ●メディア・クライス(旧・バウハウス)[2009年3月自己破産] ●詩学社[2008年9月倒産] ●マガジンファイブ[2008年8月?解散?] ●雁書館[2008年7月末]廃業 ●九天社[2008年6月10日]営業停止 ●彌生書房[2008年5月30日]営業休止 ●歴史春秋出版[2008年5月]民事再生法の適用を申請 ●アーカイブス出版[2008年4月]民事再生法の適用を申請 ●大阪書籍[2008年4月]民事再生法の適用を申請 ●アスコム[2008年3月]民事再生法の適用を申請 ●はまの出版[2008年1月]自己破産申請 ●草思社[2008年1月]民事再生法の適用を申請(その後文芸社の傘下にて営業再開) ●新風舎[2008年1月]民事再生法の適用を申請
2009年は出版科学研究所の調査開始以来、ここ最大の落ち込み
さらに以下、先ごろ公表された2008年の出版産業のデータを記しておく。 出版科学研究所が推計した2008年の出版物販売金額は、前年比3.23%減の2兆0177億円。4年連続で前年を下回った。 内訳は、「書籍」が同1.6%減の8878億円、「雑誌」が同4.5%減の1兆1299億円(11年連続で前年比減)。とくに月刊誌の販売部数は同6.5%(16億1141万冊)減で、同研究所が調査を開始した1953年以来、過去最大の落ち込みである。 となれば、今年はさらに数字は悪化し、現在ささやかれているように、何社かの出版社が破綻するのは確実だ。出版社の資金繰りを一気に悪化させるのは、返本率である。返本率が高まれば、銀行などからの借入金が増加し、経営は一気に悪化する。
雑誌より、付録がほしくて買う読者が増え た女性ファッション誌
最後に、最近の女性ファッション誌について書いておきたい。 数年前から、女性ファッション誌には付録が付くようになった。最初は、本当に「オマケ」程度だったが、最近はブランド各社やメーカーとのコラボレートにより、アイテムの種類は増え、クオリティも高くなるいっぽうだ。ポーチやミラーはもちろんのこと、トートバッグ、タイツ、ビーチサンダルと、いまやファッション用品なら、なんでも付録になっている。 こうなると、雑誌より、付録がほしくて買う読者が増える。 実際、宝島社の女性ファッション誌は、付録効果で部数を伸ばしてきた。なんと、1冊に3つも付録が付いていても珍しくない。
「sweet」は付録で部数が大幅にアップした
そこで、こんなことが起こるようになった。「本はいらない。付録だけをゲットしたい」という人間向けに、ネットオークションで付録が売られるようになったのだ。付録によってはプレミアムもつく。ヤフオクより、モバオクのほうが安いなどという情報も、ネットで流れるようになった。 また、裏技として、「コンビニや書店では本を返本する際、付録は返さなくていいから、それを売ってもらえ」という情報も流れている。しかし、例外もあるが。 さらに驚くのは、こうした現象は日本ばかりではないことだ。先日、娘が台北に行ったら、日本の女性誌の付録が、雑誌別に整理され、堂々と単独売られていたという。 もうこうなると、雑誌は、情報発信媒体としての自らの価値をなくしているとしか言いようがない。紙メディアの衰退は、この現象を見ても、もう止めようがないだろう。
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