19/05/03●独立系書店は書店を変えるのか?日本と米国の取り組み |
2019年 5月 03日(金曜日) 11:02 |
もう出版不況という言葉は聞き飽きたが、そんななかで、最近、書店が大きく変わってきている。一時は書店はいずれなくなるだろうと思ったが、最近は、そうはならないと思うようになった。私のような世代はもちろんだが、人はみな本が好きなのだろう。 書店の変化をいちばん感じたのは、昨年、日販が六本木の青山ブックセンターを改装してオープンした「文喫(ぶんきつ)だ。なんと入るのに1500円の入場料を取られる。入場はドリンク付きで、店内では書架から選んだ本を自由に読めるが、入場料を払って来る人間がいるのかと、私は当初きわめて懐疑的だった。 しかし、百聞は一見にしかずと行ってみたら、ほぼ満員だった。
先月初め、『NEWSポストセブン』に「若者の本離れ」もどこ吹く風 全国で続々登場の個性派書店』という記事が載った。 https://www.news-postseven.com/archives/20190407_1346571.html この記事は、まず「文喫」を取り上げていて、「文喫」が六本木という地域の立地にあったコンセプトで成功していると述べている。その後、全国各地の「個性的」な書店を紹介している。以下、そのいくつかを列記する。
「Title」:荻窪駅から青梅街道沿いに10分ほど歩いたところにあり、2階はギャラリーになっていて、様々な展示や催しが行われている。店の奥には小さなカフェスペースも。 「定有堂書店」:鳥取市中心部の若桜街道商店街にある。猫の置物があったりして、きわめて個性的な造り。 「町家古本はんのき」:京都の四条河原町にある古い町家を利用した書店。古本祭りも開催。 「パン屋の本屋」:荒川区西日暮里のスーパーの隣にあり、カフェも併設。「ひぐらしベーカリー」というパン屋と一体になったユニークな書店。
記事の中で、『東京こだわりブックショップ地図』(交通新聞社)の著者で、数多くの書店を取材している屋敷直子氏は、こう述べている。 「実際、書店の経営は非常に厳しく、従来のやり方では当然ながら生き残ることはできません。新刊本はどこで買っても同じ値段です。経営者たちはカフェや雑貨店などの併設やギャラリーなどとしての貸し出しなど、いろいろな本の楽しみ方を提案することで、本に新しい付加価値をつけて差別化しようとする。店主が自分の目利きで本を“選ぶ”こと、つまりもっとオリジナリティを出したい場合は、出版社との直取引も始めています」 アマゾンによる書籍販売と電子書籍が進展するなか、紙の書籍・雑誌の出版流通は、年々縮小、いまは崩壊寸前ところまで追い込まれている。そんななか、出版社との直取引などができるようになり、いまでは小さな書店でも売れ筋の新刊本も揃えられるようになってきた。
いま書店業界最大の話題は、台湾の人気書店「誠品書店」が、今秋オープンする日本橋「コレド室町テラス」に日本1号店を出すこと(有隣堂のライセンス獲得による出店)だろう。「誠品書店」は台湾をはじめ、香港、中国・蘇州など46店舗を展開しているが、日本にはない。 なんで、台湾の一書店がここまで人気なのか、私も台北に行ったときは必ず行ってみるが、そこはいわゆる書店ではない。
店内のカフェでは若者たちが本を開いてコーヒーやワインを飲み、地下にある音楽ショップではCDを視聴している。ギャラリーもあって、そこでは地元のアーティストの作品展が開かれている。もちろん、雑貨や文具のコーナーもある。また、ワインのコーナーもあり、そこでは誠品セレクトのワインが販売されている。 つまり、「誠品書店」というのは、本を売っている書店ではなく、「本を中心にして人が集まる場所」と思ったほうがいい。
アメリカでは、この4月27日に、書店がゼロになったNYブロンクスに、独立系書店(Indie Bookstore)の「The Lit. Bar」がオープンした。店主はブロンクスで生まれ育ったノエル・サントスさんという女性。開店資金はクラウドファンディングで17万ドルを集めた。
NYでは、1990年代、バーンズ&ノーブル(B&N)、ボーダーズなどの大型書店チェーンが次々と支店をつくり、独立系書店を駆逐した。しかし、その後、アマゾンが興隆し、小売りを次々と窮地に追い込み、大型書店もその影響を受けた。ボーダーズは2011年に経営破綻。NY大学の生協から生まれ、グリニッジ・ヴィレッジの小さな書店から発展したB&Nは生き残ったが、何度も経営危機に陥った。 NYではユニオンスケア店、5番街店などは健在だが、最近では小売にも進出したアマゾンブックスに押され気味だ。 ユニオンスケアといえば、さらにブロードウェイを下ると12ストリートの角に人気の「ストランド書店」(Strand Bookstore)がある。私はNY滞在中は、よくユニオンスケアまで散歩するが、そういうとき「B&N」より「ストランド書店」に行く。それは、ここで売られているオリジナル雑貨や文具が楽しいからだ。「ストランド書店」のエコバッグはNY土産として大好評だから、20ドルと高いが、行くと必ずいくつも買って帰る。 「B&N」の業態の変化で驚くのは、なんとレストランを併設するまでになったことだ。 NY郊外のイーストチェスターにあるエンクローズド・モールの中にある「B&N」は、「B&N Kitchen」という看板が掲げられ、中に入ると右がレストランで左が書店になっている。 「B&N Kitchen」は、イーストチェスター店をはじめとして、すでにカリフォルニア州、テキサス州など、全米で5店舗がオープンしている。 https://www.barnesandnoblekitchen.com
もうここまで来ると書店ではないので、旧来の書店らしい独立系書店が、逆に注目されることになったのかもしれない。書籍チェーン以外の独立系書店が加盟するアメリカ小売書店協会(ABA : American Booksellers Association)によると、2009年に1651カ所に1400店舗だった加盟店は2018年には1835店舗、2470カ所に増えている。店舗数が増えているだけでなく売上も増加している。
アメリカの独立系書店の目玉は、なにより本の品揃え。それも、地域の人々のニーズと店主の趣味にそって、どれくらいの本が集められているかだ。いわゆる専門性にあるが、そのためには、その背景に多様な出版文化(紙書籍)が存在していなければならない。アメリカは、デジタル化が進んでも、まだそうした多様性を維持している。
商業出版は「ビッグ5」(ペンギン・ランダムハウス、ハーパーコリンズ、サイモン&シュスター、アシェット、マクミラン)の寡占状態にあるが、「インディーズ」出版も盛んだ。電子書籍は、主に個人作家によるセルフパブリッシングのためのプラットフォームとなったが、それとともに紙のインディーズ出版も盛んになった。
それでは、ブロンクスに開店した独立系書店「The Lit. Bar」の話に戻る。 『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事によると、サントスさんは前から「ブロンクスが携帯電話のチェーン店ばかりになっていく」ことに心を痛め、自ら独立系書店を立ち上げることを決意し、独立系書店で働いて経営を学んで準備したという。 https://www.nytimes.com/2019/04/25/nyregion/bronx-bookstore.html 「The Lit. Bar」が開店したモットヘブン地区は、NYでも有数の貧困地帯。貧困率はNY平均の2倍で、住民の43%がポヴァティライン(貧困ライン)以下の暮らしをしているという。そんな中に書店をつくるというのはマーケティングを無視していると言えるが、サントスさんは「ここから離れるほど成功の証だと考えていた自分が恥ずかしい」と語っている。 “Up to that point I had measured my success by how far I could get away from the Bronx,’’ “I was disappointed in myself for thinking about leaving a community in no better condition that I had found it,’’ サントスさんの希望は「店を知性が光る場所にしたい」ということだそうだ。 |
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