[001] 「電子渡航認証システム (ESTA)」導入の意味 |
2009年1月12日 アメリカに行くならネット登録が必要
ビザなしで短期滞在でアメリカに入国する際、事前にインターネットで申請して承認を受ける「電子渡航認証システム (ESTA:Electronic System for Travel Authorization)」が今日から導入された。 このESTAに関しては、すでに昨年の7月に米政府が発表していたが、日本では認識が薄く、直前になって新聞にも記事が出て、旅行会社も航空会社もあわてて告知する始末。一般旅行客のなかには、まったく知らなかった人もいて、相当な混乱を招いたようだ。 ESTAの対象はビザを持たない90日以内の短期滞在者。専用のインターネットのサイトに住所、名前、逮捕歴の有無などを記して申請し、問題がないと判断されれば承認されるシステム。9.11テロを受けて制定された米国法に基づき導入されたものだ。 ESTAは、1度認証されると2年間(ただし、2年以内にパスポートの期限が切れる場合は、パスポートの有効期限日まで)有効となり、その期間内は何度でも米国への渡航が可能となる。もちろん、申請に関し、料金は無料で、仮に申請が拒否された場合は、最寄りの米国大使館・総領事館で査証申請を行う必要が生じる。 ESTA:Electronic System for Travel Authorization
アメリカの狙いは人類すべての個人情報を握ること?
というわけで、アメリカに行くなら、今後はネットでの事前登録が必要となったのだが、じつは、これはかなり大変な出来事である。いまは、金融危機の報道ばかりで、ほとんどのメディアがこのことを取り上げていないが、ESTA導入の意味は、今後の私たちの暮らしを大きく変えていく可能性があるからだ。 大げさに言えば、私たちはいずれ「プライバシー・ゼロ」社会で暮らすようになるということだ。 9.11テロ以来、アメリカでは移民や外国人の流入を制限する動きが盛んになった。それは、空港での厳重なボディサーチ、イミグレーションでの生体認証などに現れているが、ESTAはさらに一歩進んだもので、これにより、年間約3億人というアメリカ訪問者は、すべてデータベース化されることになった。 これまで、アメリカ国土安全保障省は、150億ドルの予算をかけて、アメリカに入国した外国人の個人情報を調べ上げ、監視体制をつくる動きを強化してきた。入国の際に事前登録させ、チェックするのは当然として、入国後もクレジットカードの使用歴、通信網の使用歴などのすべての情報を統合して、「二度とテロリストに狙われない」体制をつくろうとしてきた。 しかし、これは、明らかに人権とプライバシーの侵害である。 しかも、こうした監視システム網は、外国人ばかりかアメリカ国民にも適用されている。アメリカ人はみな、ソーシャルセキュリテリナンバー(SSN:社会保障番号)で管理されていると言ってもいいからだ。
人類がみなデータベース化されるとどうなるのか?
映画などではよく、未来の人類が監視社会で暮らしていることが描かれる。しかし、もはやそれは未来の話ではなく、現実化している。 たとえば、これまで私は数十回アメリカに行っている。その記録は、すべて残っているはずであり、当局が私をマークすれば即座にわかるだろう。アメリカに銀行口座持っているし、クレジットカードも使っているから、どこでなにをしていたかもわかるはずだ。また、ケイタイやPCを調べればさらに詳しい情報も手に入るだろう。私の娘の場合はさらにひどい。SSNを持っているから、とっくにデータベース化されているはずだ。 人間がデータベース化され、すべての行動が記録されるとどうなるだろうか? もちろん、プライバシーなどは、なくなる。すでにグーグルは、「ストリートビュー」を見てもわかるように、「今後は人間のプライバシーなどなくなる」と考えているようだ。 人権やプライバシーは、個人が主体の近代社会を成立させた重要な概念だが、もはや成り立たなくなっており、その意味で過去の遺物となっていくに違いない。ネットの発達によるヴァーチャル社会の成立は、それを加速させていく。 たとえば、いまから100年後となれば、どんな人間の記録も3世代以上は必ずさかのぼって調べられるはずだ。生まれたときから死ぬまで、どこに住み、なにを買い、どんな仕事をし、誰とつき合い、どんな行動を取ってきたかなど、文字と映像で記録されているはずだから、隠し事などできなくなる。 未来の恋人たちは、出会った時点で、相手のデータはすべて手に入れられるだろうし、相手の両親、祖父母の記録まで、もしアプローチが可能なら手に入れられるだろう。 こうなると、恋愛は可能だろうか?
まだ人類データべスは完成していないのか?
やや、話がそれたが、人類がすべてデータベース化された社会では、伝説や寓話は生まれにくい。また、ウソも簡単に暴かれるし、作り話などすぐに見破られる。ただ、誰もがデータにアクセスできるとは限らないから、情報が入手できるかできないかで、人生は大きく変わることになるだろう。 話をアメリカに戻して、2003年、国土安全保障省が監視システムづくりにやっきになっていたとき、漫画のような事件が起こった。 米当局が、フランスからアメリカに向かった飛行機にテロ関係者が3人乗っているとして、フランス当局に、飛行機の着陸を禁止した。ところが、米当局が指摘した名前の該当者は、なんと3歳の子供と中国系の老婆などで、どこをどう考えてもテロリストではなかった。そこで、フランス当局はこのことを米当局に伝えたが、その返事は「いずれにせよ、アメリカの領空に入れない」の一点張りだった。 プライバシー・ゼロの監視社会というと、恐ろしいイメージになりがちだが、データ自体が信用できなければ成り立たない。日本の年金問題を見てもわかるように、データそのものが間違っていれば、結果は滑稽だ。 年金記録を改ざんされた人は不幸というしかないが、はたしてこの世に完璧なデータというものがあるのかどうかは疑問だ。 |
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