[083] 原発危機で九州・宮崎に疎開5日目。はたして危機は終息するのか? |
2011年 3月 18日(金曜日) 22:30 |
3月14日(月)午後6時前、羽田空港第二ターミナルに入ると、節電のため中は照明が落ちて薄暗かった。カウンターに行き、宮崎行きのチケットがあるかと聞くと、18時55分発の全日空便があるという。すぐに購入して、チェックインした。こうして、東京を離れ、宮崎に来てもう5日が過ぎた。 現在、福島原発の状況は、そのときよりも悪化している。昨日、17日は、自衛隊ヘリによる空からの給水も行われた。しかし、焼け石に水としか思えない。事態はますます予断を許さなくなってきた。 「できるなら東京を離れたほうがいい」 そう長年の友人が電話で言ってきたのは、羽田を発つ前日、13日のことだった。この前日の12日夜に、1号機が水素爆発を起こしていた。地震発生からわずか1日あまりで、日本の危機の焦点は地震そのものから原発のメルトダウンに移ったのを、この電話で初めて私は知った。彼はすでに東京を離れていた。 私には科学的な知識はない。友人もそうだが、彼の知人には原発の専門家や物理学者がいる。彼らの警告を無視はできない。 また、民主党政府の発表の仕方はおざなりで、事態の説明はしても、上がってきた情報をスピンして伝えているだけ。しかも遅い。私のなかでも、政府への不信感が募っていた。長年マスコミで仕事をしてきたので、そうした発表の裏側でなにが起こっているのかは、だいたいの想像がついた。 それでも、東京を離れるべきか一晩悩んだ。情報を持っていると思える何人かの親しい人間に電話した。
3号機の水素爆発を見て疎開を決めた
「やはり東京を離れるべきだ」 そう決めたのは、14日の午後。3号機の水素爆発が起こってからだ。この事故で、原発の作業員と自衛隊員のあわせて11人が負傷した。この映像を見て腹を決めた。「人体への影響はありません」などと、発表する枝野官房長官が、いまだに与えられた資料を読み上げているのを見て、いっそう腹がすわった。 そう決めて、親戚や仕事仲間、知人に東京を離れると伝え、打ち合わせ、取材などのスケジュールをすべてキャンセルした。 「えっ、もうそんな状態?」と、誰もがまさかという反応だった。「心配しすぎではないか」「疎開するなんて、いま、できっこない」「政府はまだなにも言っていないでは」と、私の決断を疑う声ばかりだった。
3号機の水素爆発(NHKの画面から) そんななか、いちばん信頼し仕事をしてきた人間が「このまま東京にいる。どうせ1人身だし、酒でも飲んでいる。もしそうなったら諦める」と言ったのは、ショックだった。彼とはこの2日間連絡がついていない。 もちろん、出版業界の仲間のなかで、私と同じ14日に東京を離れた人間が1人いる。彼は、その日の新幹線で妻と名古屋まで行った。東京は福島原発から240キロ離れている。政府が危険範囲を30キロ圏としたのは15日以降だから、14日の時点での疎開は、まだ一般の人間にとっては想像外のことと言えた。
最悪の事態は祈るだけでは防げない
宮崎は平和だ。この2日間は3月半ばなのに異例の冷え込みだが、それ以外は人も街ものんびりとしている。大淀川河畔では、朝日を浴びてジョギングをしている人がいる。ただ、地震発生以来、韓国人、中国人、台湾人観光客は姿を消した。(宮崎空港は、韓国、台湾との乗り入れ便がある) 昨日、ホームセンターに行ったら、懐中電灯やバッテリーが売り切れ状態だった。「入荷しないうえ、在庫はみななくなった。東京に送ると買いにきた人が買い占めたんです」という。しかし、東京への宅配便を出そうとすると「いつ着くかわかりません」という。 ガソリンがなくなり、コンビニからものがなくなった首都圏とは雲泥の差がある。原発事故も、ここでは切迫感がない。宮崎は原発からは1000キロ以上離れている。 原発に関しては、やっとテレビではキャスターやコメンテーターが「最悪の状態が起こったら」と言うようになったが、そうなったときどうすべきか、誰も明確なコメントはしていない。メルトダウンの水蒸気爆発が起こったら、首都圏でなにが起こるのか?「そうならないことを願います」「現場で必死に作業をなさっている方に本当に感謝します」「祈るばかりです」などと言っても、なんの意味もない。 すでにネットでは「天皇は皇居にいない」「あのビデオメッセージは京都御所から」などという流言が飛び交っている。
政府による「人災」としか思えない経過
こちらに来て以来、毎日、電話、ネットを駆使して情報を集めている。デジタル時代だから、現場取材以外はすべて東京にいるのと同じことができる。そうしていま、ここまでの状況を整理して思うのは、地震そのものは別として、それ以後のことは“人災”だ」ということだ。 原発事故発生以来、官邸の中でなにが起こっていたのか、菅首相以下がなにをしてきたのかは、『週刊文春』(3月24日号)を読めばいいので、ここで書く必要はない。一言書き添えれば、彼が首相でいるかぎり、日本は救われないということだ。 私が首都圏を脱出して以来、多くのことが起こった。いまや世界のメディアの報道の焦点は、地震の被害、復興ではなく、原発問題に集中している。外国メディアは、これまでは東京をスルーして北京、上海ばかりだったが、今回は主力を送り込んでカバーしている。なかでも、CNNや『ニューヨーク・タイムズ』など米メディアは最大限のスペースを割いている。 『ニューヨーク・タイムズ』の報道は、当初は日本に好意的だった。アメリカ人は日本の高度な技術を信頼してきたから、「日本がこの危機を防げなければ誰が防げるのか」というような論調だった。しかし、政府の対応のまずさや、判断の遅さ、各組織内の連携が取れていないことが明るみになると、論調も変わった。 それでも、3月16日の記事では、現場で作業に当たる人々に敬意を表していた。 「日本を核の大惨事から救う最後の頼みの綱」と称したこの記事は、〈彼らは迷宮のように機器が入り組み、停電で真っ暗になった施設内を、懐中電灯だけを頼りに、防護服とマスクに身を包んではいずり回り、海水注入などの作業にあたっている〉と、その献身ぶりを伝えていた。
しかし、その一方で、厚生省が緊急作業時にかぎり、放射線の被曝限度を現行の100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げたことも書き、〈暗黙のうちに自分を犠牲にすることを求められた人々だ〉として、暗に日本政府の措置を批判していた。
どなるだけでは人は動かない
当然、このような人命軽視の措置は菅首相の決断だが、その首相自身はなにをしていたのか? 3月15日の『読売新聞』によると、次のようなことだった。 〈放射能漏れの可能性があり国民への一刻も早い周知が求められたにもかかわらず、菅首相は東京電力の技術者を官邸に呼びつけると、どなりちらしたという。「これから記者会見なのに、これじゃあ説明出来ないじゃないか!」 結局、首相が記者団の前に姿を現したのは、爆発から約5時間がたった午後8時半。「20キロメートル圏の皆さんに退避をお願いする」と述べたが、こうした指示はすでに首相官邸ホームページなどで公表済みだった。〉 その東電も一時は、現場職員の総引き上げを申し出たという。じつは、東電は当事者であっても、それは原発の管理・運営の当事者で、このような事故に対処するためには、本来の設計者、原発をつくった製造メーカーなどの見解と協力が不可欠となる。 福島原発の1号機~6号機までの製造メーカーは次のとおりである。 1号機: GE製
日本人は天皇の命令以外では動かない
本来、支持率20%以下の首相が未曾有の危機の指揮を執ること自体に無理があった。しかも、菅首相はそれに気がつかなったかうえ、頭ごなしに権力を行使しようとした。たとえ首相でも、国民に命がけの任務を命じるのなら、頭を下げてお願いするか、あるいは土下座をしてでも、自衛隊などの組織を動かさなければならない。それをしないで、ただどなるなど、この人に日本のリーダーである資格はない。 そうしたなか、3月16日、天皇陛下はビデオで、国民の向けのメッセージを発表した。その映像が全国に流れてから、原発事故への対応が変化した。 陛下のメッセージは、首都圏では16時半ごろ、NHK総合のほか日本テレビ、TBSなどの民放各局が数分前後していっせいに放映した。 「一人でも多くの人の無事が確認されることを」 「地震や津波による死者の数は日を追って増加し、犠牲者が何人になるのかもわかりません。一人でも多くの人の無事が確認されることを願っています」などのメッセージ後、陛下は原発問題も深く憂慮していることを述べた。 自衛隊のヘリによる放水、警視庁、消防庁などによる消防車の放水作戦が始まったのは、この天皇陛下のメッセージ以後のことだ。 結局、日本人は天皇の命令以外では、命を懸けるようなことはしない。日本はそういう国であることを、この事実経過が物語っている。つまり、菅首相に命を捧げる日本人などいないのだ。
あまりに空虚な首相の言葉
3月17日からは米軍も動き出した。それと同時に、米国大使館 は50マイル(80キロ)圏内を設定し、圏内から米国人の退去を勧告した。今後、米国は、三陸沖に展開中の米原子力空母「ロナルド・レーガン」も、沖縄の海兵隊もグアムの空軍も積極的に投入する準備に入るだろう。 北沢防衛相は16日、首相官邸で記者団に対し、福島第1原発への散水について、東京電力職員が米軍横田基地で、放水車の操作方法の指導を受けたことを明らかにした。
もはや、原発問題の解決は日本独自では不可能だ。とくに菅政権では事態は悪化するばかりだ。この政権はいまだに「原子力災害対策本部」と、政府、東京電力の「統合連絡本部」の2つを併存させ、未曾有の事態と言いながら、ばらばらに動いている。 18日夜、菅首相は国民に対してメッセージを送ったが、要約すれば「戦後最大の危機にくじけているわけにはいかない。一緒に頑張ろう」というだけ。これほど空虚な言葉を私はいままで聞いたことがない。
最終ディフェンスラインも復興プランもない
今日まで私の知り合いの多くの外国人が日本を去った。外資系企業の人間たちは家族を帰国させた。座間、横田、横須賀などの基地の米兵も、家族をどんどん帰国させている。世界はいま、日本がどのようにこの危機を乗り切るのか固唾を飲んで見つめている。 私が今日まで取材してどうしてもわからないのが、この政府に日本を復興させるプランがあるのかどうかということ。原発に関して言えば、最悪の事態になったときの最終ディフェンスラインを政府はどこに置いているのかということ。これは、多くの関係者に聞いたが、誰からも明確な答えはなかった。 つまり、驚くべきことに、どうやらそれはないらしい。 たとえば、原発が水蒸気爆発して放射能が東京まで及んだら、この政府は首都機能をどこに移すのか?首都圏の住民をどうやって避難させるのか?あるいは、被曝した人々をどのようにケアしていくのか?天皇家はどうするのか?など、具体的なプランを持っていない。 今後、原発がどうなろうと、日本はさらなる試練に見舞われる。空前の円高はいまだけのことで、やがてすごい勢いで円安に向かうだろう。国力が衰えるのだから、これは当然だ。そんななか、復興に向けた大規模なマネタリーイージングをした反動で、必ずインフレがやってくる。貿易赤字が顕在化すれば、エネルギーから食料までみな値上がりするに違いない。 いずれにせよ、そんな先の話はまだいい。ともかく、原発だ。これをセトルダウンさせないことには、復興は始まらない。電力バックアップが一刻も早く回復することを祈るしかない。いまこの時点では、これ以上のことは言えない。 |
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