特別記事(1)「世界からズレている日本の大学教育」
特別記事(1)「世界からズレている日本の大学教育」 - 6,「リベラル・アーツ」がすべての学問の基礎 |
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「リベラル・アーツ」がすべての学問の基礎ここで、西洋世界の学術・学問の基礎とされている「リベラル・アーツ」liberal artsについても触れておきたい。これを日本では「教養学」と訳しているようで、大学では「一般教養」として学部名になっているところもある。欧米の高 等教育では、このリベラル・アーツがすべてのヒューマニティーズ、サイエンスの「入り口」(gateway)、「基礎」(fundamentals)と考 えられており、これらの科目を履修した後にメジャー(専攻)を決めるシステムになっている。 また、リベラル・アーツに特化した少人数のリベラル・アーツ・カレッジは、いまでも名門総合大学より高い評価を得ている。しかし、日 本には、西洋から輸入した教養はあっても、元のリベラル・アーツ自体がないから、大学教育、大学院教育の位置付け、あるいは学位認定が混乱するのだ。 リベラル・アーツの起源は、古代ギリシアまでさかのぼる。プラトンは、哲学の予備学として、文芸や幾何学の必要性を説き、これを人間 としての教養と考えた。この場合の人間は非奴隷ということだから、自由人(つまり市民citizen)には、こうした教養が要求されたのである。ローマ時 代になると、自由人に必要な諸技術は「アルテース・リーベラーレース」(artes liberales)と呼ばれ、これが英語で言うところの「リベラル・アーツ」となった。 ローマ時代の末期、この自由人の技術は7つの科目に整理され、これはいまでも、「セブン・リベラル・アーツ」(seven liberal arts、「自由7科」)として、欧米の大学教育では重視されている。 「セブン・リベラル・アーツ」は、主に言語にかかわる3科目の「三学」 (トリウィウム、Trivium) と、主に数学に関わる4科目の「四科」 (クワードリウィウム、Quadrivium) の2つに分けられる。Trivium(三学)が「文法」(Grammar)、「修辞学」(Rhetoric)、「弁証法(論理学)」(Logic)であ り、Quadrivium(四科)が「算術」(Arithmetic)、「幾何」(Geometry)、「天文」(Astronomy)、「音楽」 (Music)である。 この上に哲学があり、さらにその上に神学があるというのが、この時代の学術・学問大系だった。 その後、中世のヨーロッパで大学が誕生した際、この自由7科は、学問の科目として公式に定められた。この伝統は西欧の大学ではいまも生きており、さらに、西欧の体系をそのまま引き継いだオーストラリア、カナダなどでは、独立した哲学部を持つところもある。 米国のニューイングランドに多いリベラル・アーツ・カレッジに行くと、講堂(オディトリアム)の高みを、ぐるりと7体の女神像(goddess)が取り囲んでいるということがある。この女神は、それぞれ7つの学科の「守り神」を表している。 娘が留学した東部のリベラル・アーツ・カレッジ 2001年9月、私は、この7体の女神像のある講堂のなかを、妻と娘と3人で歩いていた。それは、娘の「New Student Orientation」(新入生オリエンテーション)の前日で、私たちはキャンパスにある建物を全部見て回っていたのだ。 娘を東部のリベラル・アーツ・カレッジに行かせるのは、私の昔から夢であり、その期待に応えて娘は、メイン州のベイツカレッジ (Bates College)というリベラル・アーツ・カレッジに合格し、このときは、「Convocation」(コンヴァケーション:入学のセレモニー)を控えて いた。 *Bates College www.bates.edu/ 「親が子どもの大学の入学式に着いて行くなんてどうかしている」とも言われたが、それは、日本だけで通用する常識に過ぎない。いまだ に、大学の入学式に親が出席するのは過保護だという人がいるが、私には信じがたい。アメリカでは、入学ウィークに親が来ないとなると、なによりも子どもの 肩身が狭くなる。親が来ないというのは、全額スカラーシップでまかなうような貧困層の子だけだからだ。 アメリカの場合、とくにリベラル・アーツのような小規模の大学では、コンヴァケーションのある入学ウィークには、必ず親がやって来る。これは、留学生の親とて例外ではなく、ヨーロッパ、中東、アジア、アフリカからも親たちは来ていた。 こうして、ほかの親や子どもたち、大学職員や教授たちとパーティなどで親交を深め、子どもの入る寮(ハウス)の部屋を整えて帰っていく。この間、1週間近くも大学で過ごす親もいる。私たちもそうだった。大学近くのモーテルに泊まり、毎日、キャンパスに通った。 リベラル・アーツ・カレッジがいいのは、なによりも少人数で、学生同士、教職員と学生、また親同士もみな親しくつき合え、そのなか で、子どもたちが育っていくことだ。たいていのリベラル・アーツ・カレッジでは学生と教師の比率が20対1以下で、日本のようなマンモス授業などありえな い。また、学生たちは、ほぼ全員寮に入るので、共同生活のなかで社会秩序や規律も学ぶ。 |
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