[103] やがて「その日」(ドゥームズデイ)=財政破綻は必ずやってくる。しかし、政府にも国民にも危機感がないのはなぜなのか? |
2011年 9月 26日(月曜日) 03:15 |
台風15号とともに残暑が去り、秋がやってきた。この2、3日、本当にそれを実感する。じつは、7月初めに家内が癌だとわかり、8月半ばに手術のため東京女子医大に入院。先日退院するまでほとんどつきっきりだったため、季節の移ろい、時局の流れなどを気にかける時間がなかった。 このサイトの更新も、自宅ではなく、家内の病室からしていた。手術後、ベッドでほとんど眠り続ける家内のかたわらで、PCのキーボードを叩くのは、とてつもなく虚しかった。 ときどき、病室の窓から、ぼんやりと新宿副都心にそびえる高層ビル群のスカイラインを眺めていた。そうしていると、これまでの人生であったいろいろなことが、心に浮かんでは消えた。そして、そのたびに漠然と、今後どうなるのだろうかと考えては、それ以上考えるのを止めていた。 8月半ばから今日まで、台風が2回やってきた。大震災後の混乱が続くなか、首相が交代したが、この国はますます悪い方向に向かい出した。そして、世界は経済的な混迷を深め、今後どうなるのかまったくわからない状況になった。
「まさか」と驚いた五十嵐文彦財務副大臣の発言
この1カ月の間で、私が大きな衝撃を受けたのは、9月18日の五十嵐文彦財務副大臣のテレビ出演での発言だった。このとき、五十嵐副大臣は、日本銀行が20日に発表する6月末の統計で、国と地方自治体の借金の総額が、国内の個人の金融純資産額を初めて上回る可能性があるという見通しを表明した。五十嵐氏は「今年の(個人)金融資産は伸びていない」と指摘し、双方の数字が「クロスする可能性がある」と述べたのである。これを聞いて、正直私はびっくりした。「ついにその日がやってきたのか」と、思った。 莫大な個人金融資産があるから、日本政府はこれまで野放図に国債を発行してきた。言い換えれば、個人金融資産を担保に、国は借金を重ねてきた。もちろん、個人金融資産以外に、企業が貯め込んできた資産もある。いずれにせよ、それらを担保に、積み重なった債務が、民間の金融資産の総額を上回るときに、日本は財政破綻する。そう、多くのエコノミスト、専門家が、これまで発言してきた。そして、その日(ドゥームズデイ)は、まだ3、4年先と見られていた。
予測は幸いにも外れたが、いずれ「その日」はやってくる
しかし、この日、五十嵐氏が指摘したのは、日銀が発表する2011年4~6月期の資金循環統計(速報値)で、個人の金融資産から負債を引いた「純資産」と、国・地方の中長期債務残高に政府短期証券などを加えた「借金の総額」(公的債務)についてだった。個人金融資産は総額では1500兆円近くあり、この総額のほうを公的債務が上回るのは、やはり、まだ3、4年はかかりそうだ。 確かに、ここまで、個人金融純資産と国・地方の借金の差は縮まってきている。この3月末時点で、個人の金融純資産は約1110兆円だった。これに対して、中長期債務残高の約894兆円に、政府短期証券などを加えた公的債務の合計は約1045兆円だった。したがって、五十嵐氏の指摘通り、今回、それがクロスする可能性は十分あった。 しかし、20日になって発表された日銀の統計は、政府の負債額が約1076兆円だったのに対し、家計純資産は約1138兆円。五十嵐副大臣の見通しは幸いにも外れた。 ちなみに、6月末の家計の金融資産残高は1490兆8593億円で、前年同月末比で1.2%増加。プラスは5四半期月ぶり。このうち、現金・預金は、大震災の影響で手元資金を確保する動きが強まったのを反映し、同1.9%増の828兆5155億円となり、1997年12月末以降で最高を更新した。 日銀は記者説明で、家計の金融資産が潤沢にあり、ほとんどが預金に回され国債に充てられている構造に変化ないと述べた。とはいえ、これでひと安心とはいかない。現状が続けば、前述した「ドゥームズデイ」はいずれやってくる。
増税、政府資産売却、歳出削減、なにをやっても解決できない
財政破綻を増税で回避するなら、消費税は10%ではとても足りず、それこそ向こう30年間、30〜40%を続ける必要がある。そうなれば、経済はとことん疲弊し、国民生活はどん底に落ちるだろう。 そこで、現在、民主党は政府資産を売却することも検討している。NTT、JT、日本郵政などの政府保有株を処分するというのだが、そんなものは焼け石に水だ。捕らぬ狸の皮算用で、買い叩かれるのがおちだ。となると、大幅な歳出削減をするしかない。つまり、年金や医療の削減だが、これを国民が受け入れるはずがない。公務員の人件費削減もあるが、現在の野田政権が官僚支配政権である以上、これもできないだろう。もはや、日本は八方塞がりと言っていい。
財務省を批判した五十嵐氏が財務副大臣という皮肉
「どじょう演説」ぐらいしかない能のない野田首相の国連演説は、とことん外務省ペーパーで、各国代表にほとんど無視された。あんな演説でお茶を濁して、いいのだろうか? これなら、席を立つ人間が続出した、イランのアフマデネジャドのアメリカ陰謀論演説のほうが、よほど面白い。 いまから5年前、光文社ペーパーバックスの編集長していたとき、私は落選中だった五十嵐氏に『財務省支配の復活』という本を書いてもらった。この本は、小泉政権下で行われた郵政改革の舞台裏を描きながら、小泉退陣後に始まる「大増税」と「福祉の大幅カット」を見越したものだったが、日本の真の支配者、“財務官僚”たちを告発する本ににもなっていた。 池袋のホテルで会って打ち合わせしたとき、五十嵐氏は日本の行く末を本当に憂いていた。五十嵐氏は、かつて民主党きっての論客とされ、「財政金融分離」論者だった。その五十嵐氏がいまや財務副大臣である。歴史は皮肉だ。また、本のタイトル『財務省支配の復活』も、本当に歴史の皮肉と言うしかない。まさに、現政権は、政治家と官僚が仲良く談合した財務省支配政権である。 こんな現政権では、いくら五十嵐氏でも改革はできないだろう。
デフォルトに備えて「資産フライト」は加速中
じつは日本は、明治以降、これまで2回、事実上の財政破綻(デフォルト)をしている。1回目は日露戦争後、2回目は第二次世界大戦後だ。国債の償還期限がきても国債を償還できなかった、つまり借金を返せなくなったという事態は、歴史上2回起こっている。これを回避する手立ては、ともかく経済成長するしかない。増税では回避できない。そんな例は歴史上、一度もないいのに、無理やり増税しようとする現政権は、歴史にすら学んでいない。 そこで、やがてくる3回目に備えて、すでに、富裕層から一般層まで、敏感な人たちは、資産を海外に移している。ところが、多くの国民にその危機感がない。野田どじょう首相もまた、危機感など持っていないように見受けられる。 もういい加減、政府も政治家も本当のところを真摯に語るべきだ。泥臭くやるというなら、本当にそうすべきだろう。 ところで、私はこれまで、富裕層を中心に、海外に資産を移す実態を取材してきた。このことを、私は「キャピタルフライト」(資本逃避)をもじって「アセットフライト」(資産逃避)と呼んできた。そして、それをこのほど一冊の本にまとめた。本のタイトルは、ずばり『資産フライト』。文春新書から10月20日に発売される。
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