[135] トーハンが電子書籍をリアル書店で店頭販売というニュースに??? 印刷
2012年 9月 02日(日曜日) 18:18

朝日新聞9月2日付紙面に「リアル書店も電子書籍販売」という記事が出ている。この記事は、「出版取次大手のトーハン(本社・東京都)は、取引がある全国の書店のうち約3千店で、電子書籍を店頭販売できるシステムを年内に立ち上げる方針を固めた。棚から棚へと本を探し、立ち読みした上で買える書店の便利さを、電子書籍販売 でも生かすのが狙い」と伝えている。

 

  トーハンがつくる店頭販売システムは「c-self」と言い、電子書籍のデータベースと代金決済システム。これを導入した書店では、ユーザーは実際に次のように電子書籍を買うのだという。

  書店に行く→電子書籍の「買い物カード」が陳列された電子書籍コーナーで立ち読み→カードを持ってレジに行き代金を払う→ダウンロード引換券をもらう→スマホ、PCでサイトにアクセス、引換券のQRコードや引き変えナンバーを打ち込んで、電子書籍をダウンロード

 

  トーハンでは、この計画を「電子書店にとっては本好きの人が集まるリアル書店の力を借りることで新たな客を獲得できる」「客にとっては内容が十分にわからないまま買う不安から解消され、クレジットカードを使わなくて、現金や図書カードで買える利点がある」とみているという。

  正直???である。どう考えても信じがたい。はたして、こんな面倒なことをするユーザーがいるだろうか? リアル書店では紙の本を買う。端末では電子書籍を買う。それをいっしょにすることに意味があるのだろうか?ただ1点、クレジットカードがない未成年にとっては、現金や図書カードでもエロ系コンテンツが買えるので、これを狙ったのかとも思える。「パソコンとカラープリンターがあればコストはかかない」(トーハン)のは確かだが、はたして利用客はいるのか?

 

トーハンはこの6月に、「トーハンの皇帝」と呼ばれた上瀧博正氏の横暴から社長人事が迷走。それによって、長年にわたる経営の旧態依然による弊害が明るみ出た。結局、上瀧氏は追放されたが、丸善書店の売上トップ3店舗(丸の内本店、日本橋店、ラゾーナ川崎店)が、 9月1日から日本出版販売(日販)に帳合変更(取引する卸会社を変更することを指す出版業界用語)するという大失態を招いている。

  こうした流れのなかで考えると、トーハンはどうかしてしまったとしか思えない。

 

   現在、私は電子出版の今後を中心としたプリントメディアの未来に関して、単行本(東洋経済新報社から11月初旬に発売予定)を書いていて、その締め切りが迫っている。そうしたなかで、このニュースには驚くというか、あきれてしまった。すでに、日本の書店数は激減している。都市部の大型店以外の地方書店はいずれなくなり、紙の書籍の販売は漸次コンビニなどに移るだろう。このことからも、トーハンの計画は未来が読めていないように思える。

 

  また、紙の書籍は今後もあり続けるが、そうだからといって、紙と同じものが電子書籍でも常に存在するかといったら、そうとは言えない。将来は、リアル書店で紙の書籍を見ても、その電子版はないかもしれない。また、電子書籍は電子書籍で独自に進化し、むしろ紙版をつくらないということも考えられる。

  音楽業界を見ればわかるように、すでに音楽は個人で端末にダウンロードする時代になった。本でも同じことが起きている。ただ、ユーザーが街中の店に出向いてダウンロードするなどということがあるだろうか?