[137] 楽天「Kobo」の迷走が止まらない。ついにウィキペディア電子書籍を断念! なにが起こっているのか? 印刷
2012年 9月 22日(土曜日) 12:08

楽天の電子書籍ビジネスの迷走が止まらない。この会社は、出版、書籍というものに対して理解している人間がいないのではないか、としか思えない。今回の騒動は、「Koboイーブックストア」で、「Wikipedia」の日本語コンテンツを1冊の電子書籍として配信したことから始まった。この水増し電子書籍は9月20日までに500タイトルほどまで増えたが、このほど突如、撤去されたのだ。

  「Wikipedia」電子書籍というのは「Wikipedia」の人物項目、たとえば夏目漱石などの一人分を1冊にまとめたもの。これを楽天は1冊としてカウントし、これまで「タイトル数の公約はどうなっているんだ」とされてきた問題を解消しようとしたようだ。「当初3万点、8月いっぱいに6万点。年内に20万点」が、これまで楽天がアナウンスしてきた“公約”だった。

   

  しかし、「Wikipedia」電子書籍には、二つの大きな問題があった。一つ目は、そもそもそんなものが書籍なのかということ。もう一つは、この書籍に楽天はISBNコードをつけ、しかもDRMまで施していたから、それが「Wikipedia」の著作権解放の方針に反するのではということ。

 

ピントがずれていた三木谷社長のツイート

 

  三木谷浩史社長は「Wikipedia」電子書籍に関しては、こんなツイートをしていた。

  「koboイーブックストアでウィキペディアの作家さん情報約500件の配信を順次始めました。作家さんの情報や、作品の時代背景などに関する理解も深めていただき、本選びの参考にぜひご活用ください。読書の楽しみがさらに増しますね。Koboで、より充実した読書をお楽しみ下さい!」

  このツィートが本当に読者に向けたものかどうかは別として、これで「充実した読書をお楽しみ下さい」というのは、どこかピンとがずれている。楽天としては、読者サービスのつもりかもしれないが、そうならないからだ。

 

そもそもWikipedia」は間違いと偏向が多すぎ本にならない

 

  なぜなら、「Wikipedia」は、そもそもフロー情報であって、書籍のようなストック情報ではない。そういう情報を書籍としてストックすること自体が、書籍がなにかわかっていない証拠だ。

  ともかく、Wikipedia」は間違いと偏向が多すぎて、現在のところ事典としては不完全。それで、日々、書き替えられていて、いまも発展途上にある。これを事典として考えているのは、知恵の足りない人々だけ。だから、こんなものを「書籍です」と配信すること自体が間違っているのだ。

 

「ISBN」としていた項目を「商品番号」に変更してはみたが

 

  さらにDRMを施すと、「著作権のフェアユース」を前提にしているWikipediaの「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」(CC BY-SA)に反することになる。また、これにISBNをつけたことも問題にされた。書籍を管理する番号の国際規格であるISBNは、数字の割り振り方に決まりがある。しかし、「koboイーブックストア」の番号は これに適応していなかったからだ。

  こうした指摘を受けて、「koboイーブックストア」はあわてて「ISBN」としていた項目を「商品番号」に変更した。しかし、それでもほかの問題は解消できなかった。この後、DRMを外すぐらいでは批判は収まらない。そう判断したのか、ついに「Wikipedia」書籍を諦めたというのが、今回の騒動の顛末だ。

 

ありえない「1日1000点増える。年内に20万点」宣言

 

  しかし、なぜ、楽天はここまでの迷走を繰り返すのだろうか?

  今年7月、電子書籍リーダー「Kobo」を発売し、電子書籍ストア「koboイーブックストア」をスタートさせた時点で、楽天は、タイトル数を「3万点」とした。しかし、そこには青空文庫が大量に含まれていたので、「話が違う」と批判された。ここから、迷走劇は始まっている。

  電子書籍の現状を知っていれば、三木谷社長が当時言った「1日1000点増える。年内に20万点」などはありえなかった。それなのに、つじつまを合わせようという作業が始まった。ともかく点数ありきで、「ギター譜1曲分も電子書籍1冊扱い」「画像1枚が1冊扱い」とやってしまった。

 

電子書籍はまだまだ始まったばかりの「試行錯誤」商品

 

さらに、ブクログのパブーからセルフパブリッシング(電子自費出版)コンテンツの提供も獲得した。そのあげくの今回の「Wikipedia」書籍だった。

 電子書籍は「読者サービス」によって普及する。その決め手はタイトル数の多さだが、それだけではない。しかし、楽天はタイトル数にこだわり過ぎて、これまで書籍とは呼べないものを無理やり書籍としてきた。さらに、世界共通の ISBNコードを勝手に自社のものしてしまう、などという勇み足までしてしまった。

こうなると、この会社は読者の方向を見ておらず、違う方向を見ているとしか思えなくなる。「三木谷社長に恥をかかせられない」、あるいは、「われわれのすることに間違いはあってはならない」というような、そんな企業内論理が垣間見える。本当に残念だ。

 電子書籍はまだまだ始まったばかり。アメリカでも試行錯誤が繰り返されている。だから、失敗や間違いがあってもかまわない。それを認め、どんどん改善していけばいいだけだ。なのに、楽天はなぜかメンツにこだわっている。

 楽天の電子書籍ビジネス参入は、業界も読者も期待していただけに、落胆は大きい。