[141] 9月の経常収支が赤字転落。「経常収支赤字化で国債暴落が起こる」説を検証する 印刷
2012年 11月 09日(金曜日) 00:35

アメリカ大統領選挙でオバマ大統領が再選されたニュースに消えてしまったが、11月8日に、日本の将来を占ううえでの重大なニュースがあった。この日、財務省が発表した2012年度上半期(4~9月期)の国際収支速報で、経常収支が上期としては現行の統計を開始した1985年以来の最少を記録したことだ。その額は、2兆7214億円の黒字。前年同期から、なんと41.3%減である。

  黒字だからまだいいという見方もできる。しかし、同時に発表された9月単月の経常収支は赤字だ。記録上は5036億円の黒字だが、月による特殊要因を除いた季節調整済みでは1420億円の赤字となってしまったのだ。これは、第2次石油ショックの影響で輸入額が拡大した1981年3月以来、31年半ぶりのことだという。

 

すでに貿易収支は赤字で「貿易立国」ではない日本

 

 経常収支は、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す指標で、これが赤字になると、日本は海外から借金しなければやっていけない国に転落する。

 経常収支の黒字幅がここまで低くなり、単月で赤字も記録するということは、当然ながら、貿易収支のほうは赤字になる。すでに、日本は「貿易赤字国」に転落している。このブログでも、「すでに日本は貿易立国ではない」と書いてきたが、今年の赤字幅は月ごとに拡大していて、前半期で2兆6191億円。

 これは、年度半期ベースとしては1985年以来で最大だ。

 

「所得収支」の黒字が増える傾向にあるので心配ない

 

 経常収支の落ち込みを伝える日経新聞記事(8日付)は、次のように書いている。

 《日本政府が心配するのは、財政運営への影響だ。日本はこれまで、政府の借金である国債の95%を、国内の投資家に買ってもらっていた。そうした結果、財政が悪化しても国債の金利は低いままで保たれ、ギリシャのような債務危機に発展しなかった。

  だが、経常赤字が続いて国内の貯蓄が減れば、国内投資家だけでは国債を買い支えることができなくなる。海外の投資家がもつ国債が増えると、世界経済が悪くなったときに国債が売られやすくなる。国債は値下がりした分、金利が上がるので、政府は高い金利をつけて国債を発行しなければならないようになるおそれがある。

  だが、市場では「経常赤字が定着するとは思えない」(大手銀行)との見方が大勢だ。今のところ、海外への投資から得られる「所得収支」の黒字が増える傾向にあり、貿易赤字を穴埋めすることができると期待されているからだ。》

  要するに「いますぐ心配する必要はない」という解説なのだが、もし、経常赤字が定着したら、予測は外れる。国債金利は上昇し、財政は破綻状況になる可能性がある。

 

海外からお金を借りると国債が暴落して財政破綻

 

 今年の3月にも同じようなことがあった。

 3月9日に、財務省が経常収支の1月分が3年ぶりに赤字になったと発表しとときだ。赤字幅4373億円は過去最大だったが、日経新聞はやはり「市場は冷静」と書いた。つまり、今回もまた同じことが繰り返されているのだが、はたしてこの先もそうなのか?ここで整理しておきたい。

 

 経常収支の赤字化→海外から借金の必要→国債金利の上昇(暴落)→財政破綻(中央銀行の国債直接引き受けで貨幣価値の低下)=ハイパーインフレ

 

  というような図式が、経常収支を問題化する向きにはある。私も、このように考えている。しかし、このように単純に言えるものではない。海外からお金を借りる国が国債暴落で即座に破綻状況になるとは言い切れないからだ。

 

昨年、日本は6兆円も海外から借金したがなにも起きず

 

 海外からお金を借りると、経常収支は赤字になり、資本収支は黒字になる。資本収支の場合、黒字が借りること、赤字が貸すことを意味するからややこしいが、2011年の日本の資本収支は、速報値で約6兆円(5兆9975億円)の黒字である。つまり、昨年、日本は海外からお金を借りているのだ。

  長いスパンで見ると、日本は2010年までは毎年、巨額のお金を海外に貸してきた。つまり、資本収支は赤字だった。それが、2011年に6兆円ものお金を借りる状態になったのである。これは、超円高で政府が為替介入してドル買いをしたことの影響と思われる。

  ただ、ではそれで国債が暴落したかというと、そうではなかった。よって、「経常収支が赤字化すると、日本は海外からお金を借りなければならなくなり、国債の信用が低下し、いずれ暴落する」という論理は正しいとは言えないのだ。

 

この先の日本について間違いなく言える「6つの問題」

 

 しかし、だからといって、日本国債の暴落も、日本の財政破綻も起きないとは言えない。この辺がややこしいところだが、ともかく、一つの現象を短絡的に捉えてはいけないということだ。

 ただ、ここからが大事なことだが、いまの日本を見るかぎり、次のようなことだけは言えるだろう。このことに、「それは違う」と反論する人はいないと思う。

 1、     今後とも日本国の運営は借金をしないとできない(赤字国債はこの先も発行され続ける)。

 2、     今後どんな政権が誕生しようとも、現在の歳出を大幅に削減することは不可能。累積債務も削減できない。

 3、     現行の社会保障制度を続ける限り、歳出は膨張を続ける。

 4、     消費税増税では支出の削減、債務の圧縮はできない。短期的な効果はあるが、中長期的な効果はない。

 5、     消費税以外にも、資産税、相続税などの税目で増税を行なっても、多額の税収は期待できない。

 6、     日銀に対する政府の圧力は強まり、国債の直接引き受け(国債の貨幣化)が行われる可能性が増す。やがて、毎年の新規国債発行額のすべてを日銀が引き受ける可能性も。

 

すでに政府は日銀に圧力をかけお金を引き出している

 

 この6番目のことは、すでに、「言うだけ番長」の前原誠司経済財政相が始めている。日銀は「番長」の圧力に屈し、9、10月に2カ月連続で追加緩和を決めている。しかも、政府と一体となって早期デフレ脱却に取り組むことを約束した白川方明総裁、城島光力財務相、前原誠司経済財政担当相の連名の「共同文書」まで出している。

  8日付の「ロイター」で、みずほ証券・チーフ債券ストラテジストの三浦哲也氏は次のようにコメントしている。

  「輸入増は特殊要因が影響しているため、輸入額をもう少し長いスパンで均してみる必要がある。また、輸出の競争力低下が懸念されるが、一方で所得収支は安定している。早期に経常収支が赤字化し、日本国債を支えるマネーフローに影響を及ぼすとの判断はしにくい。」