[145] 今後、電子出版、紙出版はどうなるのか? 2012年の状況を総括してみると…… 印刷
2012年 12月 21日(金曜日) 00:09
12月19日の 読売新聞に、文化部の多葉田聡記者の「出版回顧2012」という記事が載っていたので、もう回顧の時期になったのだと知った。いまや、12月も半ばを過ぎた。

  本当にあっという間の1年だったと思う。

 メディアの業界にいると、なにもかもがあわただしいから、「今年は?」といきなり言われても、どんな年だったかすぐに思い浮かばない。しかし、多葉田記者の記事で、この1年がまとまって思い出せた。

 

「電子書籍元年」と言われた2010年以上のにぎわい

 

  記事はまず、《楽天や米アマゾンが電子書籍に参入し、本格的な普及に期待が高まった1年だった。》で始まり、主に電子出版の動きを振り返っている。

 私には、もうはるか前のことにしか思えないが、4月に「出版デジタル機構」が発足した。これは出版社連合のかたちをとっていたので、電子書籍に対する業界の期待は高まった。

  その後、7月になると、楽天が電子書籍専用端末「コボ」を発売、9月にはグーグルがタブレット型端末「ネクサス7」を発売した。そうして11月、アマゾンがついに日本に「Kindle」を投入し、「Kindleストア」をオープンさせた。さらに、今月、凸版印刷系のブックライブが「リディオ」を発売した。

  これほど、次々に新しい端末が発売され、電子出版関連の話題が続いた年はなかった。その意味で、今年はの「電子書籍元年」と言われた2010年を話題で上回ったと言える。

 

またしてもまともな電子書籍市場はできなかった

 

 それでは、電子書籍は、紙の書籍のように身近になっただろうか? 専用端末は売れたのだろうか? 

  専用端末の価格は6000~8000円台と一気に下がったが、これまで「売れた」と言えるものはない。「Kindle」でさえ、実際には売れていないようだ。その結果、電子書籍市場は、相変わらず、エロ系中心の漫画コンテンツが主流だ。紙と同じような市場はできあがっていない。

  読売記事はこの点を、次のように書いている。

  《残る課題は作品数。各端末とも5万~10万点程度で、楽天が過大表示で行政指導を受けるなど、まだ不足している。大手出版社などが出資して4 月に 発足した出版デジタル機構は経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」の補助金を活用するなど、電子化まで手が回らない中小出版社の支援に力を注ぐが、著作者からの許諾に手間取り、作品数は思うように増えていない。

 著作者の理解を得るためには、海賊版対策が欠かせない。超党派の国会議員らでつくる勉強会が、出版社に著作隣接権を与える著作権法改正の骨子案を作り、法制化の動きが加速した。》

 

いまだに「壁」があり、価格設定やフォーマットも課題

 

 新聞記事だから短くまとめなければならないが、ここに要点は出尽くしている。端末もサービスも出そろったが、著作権処理が煩雑なこと、制作に手間がかかることなど、日本の電子出版にはまだ越えられない「壁」が存在し、それによって電子書籍は思うように普及していない。

 というか、スマホの普及で、ガラケー主体だった日本の電子書籍市場は、実際には、売上が落ち出している。つまり、今年が事実上の電子書籍元年としたら、それはテイクオフするための元年ではなかったかもしれないのだ。

 アマゾンの上陸で、価格設定において、エージェンシーモデルとホールセールモデルが並存する状況が生まれたことも、今後の状況を難しくしている。さらに、技術的な面でEPUB3が事実上のデフォルトとなったので、日本独自のフォーマット、XMDFやドットブックがどうなるかも、今後の課題だ。また、出版社に著作隣接権が本当に与えられるのかによっても、状況は変わるだろう。

 

専用端末の時代は終わったのか? 今後、販売台数が減少

 

  前記したように、電子書籍の普及には専用端末の普及が欠かせない。しかし、アマゾンがようやく「Kindle」を日本に投入したものの、もう時代は専用端末の時代ではなくなってきた。つい先ごろ、アメリカのIHSアイサプライがまとめた推計によると、専用端末の市場は、早くも衰退に向かっているという。

  同社によると、今年の専用端末の年間出荷台数は1490万台となり、昨年の2320万台から、なんと36%減少すると見ている。また来年になるとさらに27%減少し、4年後の2016年には710万台にまで落ち込むと予測しているのだ。

  日本のアイティメディアが行ったアンケート調査でも、専用端末の人気は低い。電子書籍を読む端末としてユーザーに期待されているのは、アップルの「iPad mini」がもっと多く、その割合は33.6%。これに続くのがグーグルの「ネクサス」(14.9%)、「Kindle ペーパーホワイト」(14.2%)、フルサイズの「iPad」(12.3%)、「kindle Fire」(12.3%)。  「Kindle ペーパーホワイト」が3位に食い込むのがやっとなのだから、他の端末は、ユーザーからはまったく期待されていないとみていいのだ。

 

フェイスブックも頭打ちで、「電子書籍の墓場」は続く?

 

 また、電子書籍の普及にはソーシャルメディアの進展も後押しも必要だ。英語圏では、電子書籍の普及とフェイスブックやツイッターの普及はパラレルだった。

  しかし、ここ日本では、早くもフェイスブックは失速している。毎月加入者数を増やしてきたが、最近はその伸びが止まったという。

  私は今日まで「日本は電子書籍の墓場」と言ってきた。この状況は、来年もまた続くのだろうか?

  ただ、電子書籍がいくら普及しようと、紙の書籍、プリント出版の衰退は止まらない。これは、電子書籍も影響もあるが、もっとも大きな原因は日本が少子化による人口減社会になったからである。

 

1日に1店のペースで書店がなくなっている

 

  紙の書籍に目を転じると、100万部のミリオンセラーが阿川佐和子さんの『聞く力』(文春新書)1冊だけと、話題に乏しい1年だった。しかも、ベストセラー上位には、ダイエットなどの実用本が多い。返品率も高止まりしたままだから、制作された約半分が破棄されるという、本当にもったいないことになっている。

  1~10月の書籍推定販売金額は 6815億円で、前年同期比では2.3%減。市場は少しずつだが縮小を続けている。それにともない、書店も少しずつ減っていく。アルメディアによると、5月現在の全国の書店数は1万4696店で、前年同期より365店減少した。これは1日に1店なくなっていくペースである。