[151]円安で富裕層30万人が消滅、富裕層の「サヨナラ日本」現象が加速! 印刷
2013年 3月 03日(日曜日) 23:03

アベノミクスによる円安が続いている。

  2012年11月から始まった円安は、2013年3月の時点で、円はドルに対して約20%も切り下がったことになる。世界の経済指標はすべてドルベースだから、こうなると、統計数字も大きく変わらざるをえない。

 その一つが、富裕層(HNWI :high-net-worth individual)の数である。

  富裕層の動向に関しては、キャップジェミニとRBCウェルス・マネジメントが毎年発表する「ワールド・ウェルス・レポート」がもっともよく使われているが、その2012 年版によると、世界の富裕層人口は約1100万人。このうち日本人は約182万人で、アメリカの約306万人に次いで第2位となっている。

 

 しかし、今回の円安で、日本人約182万人のうち、なんと約30万人が富裕層でなくなる可能性が出てきた。

 どういうことかというと、富裕層の定義が、主な居住用不動産、収集品、消費財、および耐久消費財を除き100万ドル以上の投資可能資産を所有する資産家とされているからだ。100万ドルとは、ワンミリオンダラー。つまち、単純にミリオン(100万ドル)を超える資産があれば、ミリオネアー、富裕層と称されるわけだ。

 このミリオネアーは、ドルなら資産額に変化はない。しかし、円だと、円高、円安で、資産額が変化してしまうのである。

 現在のミリオネアーは、円に換算すれば9000万円台である。しかし、1ドルが78円台だった昨年半ばは7800万円ということになる。そこで、1ドルが100円台だった当時、2008年のリーマンショック以前を見ると、日本の富裕層は約150万人だった。

  つまり、この先、アベノミクスで円安が100円台までいくとすると、日本の富裕層人口は約30万人減ってしまうのである。

 

 

日本の富裕層が世界と大きく違う3つの点

 

 30万人も富裕層人口が減るといっても、富裕層人口では日本は依然として世界第二位の富裕層大国である。しかし、その富裕層の実態を見ると、世界の富裕層とは大きく違う点がある。

 私はここ数年、富裕層取材を続けているが、日本の富裕層が世界と大きく違う点は3つある。

 それは、(1)富裕層の大半が高齢者であること、(2)超富裕層が少ないこと、(3)富裕層が国内でおカネをほとんど使わないこと、である。

 日本は資産のほとんどを老人が所有している国で、富裕層と定義される資産100万ドル以上を持つ人口のうち、30歳以下の人口はわずか1%しかいない。さらに、その富裕層の内訳を見ると、超富裕層と言われる層は世界に比べると、大幅に少ないのだ。

 

日本のビリオネア(百億円)世帯数は推定で200世帯

 

  富裕層調査の別のレポート、クレディ・スイス(世界の富裕層数ランキング、2012年10月発表)のレポートによると、純資産100万ドル以上を持つ富裕層数がもっとも多い国はアメリカの約1100万人。日本は2位の約360万人となっている。3位はフランス(約230万人)、4位はイギリス(約160万人)である。

  これは、先のキャップジェミニのレポートと変わらない。

  しかし、このレポートには、純資産500万ドル以上を持つ超富裕層数のランキングもあり、それによると、第1位は、はアメリカ(約3万8000人)で、断トツの数を誇っている。続いて、中国(約4700人)、ドイツ(約4000人)、日本(約3400人)、イギリス(約3200人)となり、日本は順位を大きく落としている。

 

 さらに、ボストンコンサルティングの「ワールド・ウェルス・レポート」(2012)によると、資産1億ドル以上を持つ層(ビリオネア)を「超富裕層」としていて、この世帯数となると、日本は世界で15位にも入らない。

 みちろん、ここでも第1位はアメリカで2928世帯、第2位はイギリスの1128世帯で、ランキング外の日本は推定で200世帯と考えられる。

 

日本の富裕層数は、じょじょに減少している

 

 日本の富裕層の実態がどのようなものか?日本には、正確な調査レポートがない。

  民間シンクタンクとして知られている野村総合研究所が2005年に金融資産の保有額別のマーケティングを行い、2006年にその推計を発表したレポートがある。その後、このレポートは2年ごとに更新されている。これが、いまのところもっともよく使われており、正確ではないかと思われる。

  このレポートでは、 純金融資産の保有総額で富裕層の各世帯を分類している。そうして、富裕層を、超富裕層(純金融資産5億円以上)、富裕層(1億円以上)、準富裕層(5000万円以上)、アッパーマス層(3000万円以上)、マス層(1000万円以上)に区分している。 

  このレポートでの富裕層の定義は、不動産による資産とは別の金融資産のみで、負債を差し引いた預貯金や株式、投資信託、債券などの純金融資産の所持総額が1億円以上を富裕層、5億円以上を超富裕層としている。

  では、この野村のレポートでの富裕層数はどれくらいだろうか?

  資産5億円以上の超富裕層は、2011年にはその規模44兆円で、5.0万世帯となっている。一方、富裕層(資産1億円以上)に区分されている層は、2005年には167兆円で81.3万世帯だったが、2011年には144兆円で76.0万世帯となっている。

    

        

  日本の富裕層数が、じょじょに減少しているのがわかるだろう。

 

首都圏で約10万人が富裕層マーケットを形成している

 

 ところで、私は富裕層取材の過程で、富裕層クラブ「YUCASEE」を運営するアブラハムホールディング(株)の高岡壮一郎氏と、メイドサービスの会社(株) シェヴの社長の柳基善氏と、首都圏の富裕層の数に関して話し合ったことがある。

  「富裕層といっても、資産を持っているだけで、アクティブでない方は、私たちのサービスの顧客になりません。そこで、そういう方がどれくらいいるか、いろいろ調べたんですが、首都圏で10万人前後ではないですか?」と高岡氏。

  「YUCASEE」は入会資格を資産1億円としているので、だいたい、この数字は正しいだろう。

  柳氏も、「港区、世田谷区を中心にメイドを派遣していますが、マーケットには限界があり、その限界は約3万世帯。人口では10万人ぐらいですね」と言った。

 この10万人がアクティブな富裕層だろう。

  彼らは、企業オーナー、病院経営者、貸しビル経営者、起業家などで、好奇心が強く、海外投資にも積極的で、海外にもセカンドハウスや投資物件を持っているという特徴がある。とくに、この富裕層中の最大のシェアを占めるのは中小企業経営者で、とくに「ニッチ製造業」に富裕層が多い。日本企業のサラリーマン社長、重役は、このカテゴリーには入らない。

 

富裕層が海外に出ていくので住民税収入が減少

 

  富裕層というと、一般には「年収1000万円以上」もしくは「純金融資産3000万円以上」の層を指す。 少なくとも、一般庶民は、こうした人々を「お金持ち」と言っている。

  そこで、この層を見ると、年収1000万以上の者は280万人、金融資産3000万以上は1000万人存在すると言われているが、その実に85%が東京国税局管内(東京・神奈川・埼玉・千葉等)に在住している。

 

 こうしたプチ富裕層で、最近ブームなのが「資産フライト」と「海外移住」である。すでに、本当の富裕層(超富裕層)が資産の海外移転を終えた後のいま、最後に残ったこうした層が積極的に動き出している。この動きは、アベノミクスによってさらに加速している。

この先の日本はインフレになり、増税は必至。鎖国状態も変わりそうもない。となると、いくら働いても報われないのだから、日本で暮らす意味はないと、彼らは考えているようだ。

 2月の最終週の経済週刊誌の特集でもっとも注目を集めたのは『週刊エコノミスト』の「金持ちの鉄則」。この特集の巻頭記事は、「富裕層は続々海外へ 東京・港区の税収にも影響」だ。港区では資産数億円、数十億円の富裕層が出ていくたびに、住民税が大きく減少する。すでに、この現象が起き始めていて、住民税収入は減少しているという。

  アベノミクスによる円安とインフレで、日本はますます貧しい国になろうとしている。