[157]アメリカでは電子書籍市場の拡大が一段落、価格はさらに下がる可能性が 印刷
2013年 4月 18日(木曜日) 23:19

アメリカでは、年末のホリディシーズン(12月)が、これまで電子書籍市場の拡大に大いに貢献してきた。しかし、昨年末のホリディシーズンの伸び率はかなり鈍化しており、年間を通しても電子書籍市場がある一定レベルに留まるのではないか思える動きになっている。

 それを物語っているのが、この4月11日に米国出版社協会(AAP)から発表された1200社対象の統計数字(StatShot)だ。2012年の電子書籍の売上は書籍総売上の23%を占め、2011年の17%から比べて伸びてはいるものの、その成長は鈍化している。

(参照記事:Ebooks Account for 23% of Publisher Revenue in 2012, Even as Growth Levels、http://www.digitalbookworld.com

 

電子書籍専用端末が売れ、それとともに電子書籍も売れる好循環の終わり

 

 では、2012年の電子書籍の売上の内訳はどうなっているのか?最も大きな成長を見せたのは児童書で、なんと120%増の2億3300万ドル。続いて成年向けが33%増で13億ドル、宗教書が20%増の5700万ドルとなっている。3分野の合計では、41%増の15億4000万ドル。しかし、12月だけを見ると、成年向けで前年同月比20%、児童書は同21%のマイナスなのだ。

  これまでアメリカの電子書籍市場は電子書籍専用端末が売れる、それとともに電子書籍(コンテンツ)も売れるという好循環のなかで成長してきた。しかし、「Kindle」に代表される電子書籍専用端末の売上が急速に落ち出し、この好循環は終わりつつある。

 ただし、成長がマイナスになるとは考えられず、タブレット端末、スマホの普及で、今後はゆるやかに拡大していくもののと思われる。

 

日本で今後期待できるのは、スマホとタブレット端末による拡大だけ

 

 これに対して日本は、電子書籍専用端末がまったく売れず、これまでは、ガラケーによる電子書籍市場がゆるやかに成長してきただけだった。また、その市場規模も書籍総売上の5%ほどにとどまってきた。しかも、現在、ガラケーユーザーはスマホにシフトしている最中なので、電子書籍市場の成長は止まっている。

 こうしたなかで、日本の今後の電子書籍市場を展望するとどうなるか?

 おそらく、アメリカ型の電子書籍専用端末による市場の拡大はまったく期待できず、今後期待できるのは、スマホとタブレット端末による拡大だけになるだろう。

 

 電子書籍市場は主にスマホがリードしていくと考えるのが妥当

 

 電子書籍専用端末もタブレット端末もない時代は、電子書籍はパソコンで読むことを目的としてつくられていた。しかし、いまやパソコンの時代は急速に終わりつつあり、パソコンによる電子書籍市場の拡大はありえなくなった。

  米調査会社IDCによると、2013年1~3月の世界のパソコン出荷台数は前年同期比13.9%減の7629万台となり、1994年の調査開始以降で最大の下落率となっている。また、日本の電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、2013年1月中、64万8000台のパソコンが販売されたが、この数字は昨年同期比で13.4%の落ち込みである。この調査は2007年から行われているが、これほど低い数字は初めてという。

  こうなると、日米ともに、今後の電子書籍市場は主にスマホがリードしていくと考えるのが妥当だろう。

 

 世界最大の出版社が誕生も電子書籍の値下げ競争を助長

 

 そこで、次に見なければならないのが、電子書籍の価格である。紙の書籍と違って、スマホなどの電子端末で売る以上、その価格はほかのアプリなどの価格との兼ね合いも大事になる。ここが、電子書籍が紙の書籍と徹底して違うところである。

 アメリカの電子書籍市場では、これまで各社が激しい価格競争をしてきた。

 紙でベストセラーになるような書籍は、売り伸ばしのため、常に価格の下方圧力がかかる。たとえば、ベストセラーの電子書籍の平均売価は、昨年10月に12ドルほどだったが、その後、ホリディシーズンに向かって下降線をたどり、7ドル台まで下落した。

(参照記事:・Ebook Prices on the Rise Again? ・Discounting Begins for Macmillan Ebooks、Digital Book World)

  次のグラフは、「Digital Book World」が毎週公表しているベストセラー・トップ25冊の電子書籍の平均売価の推移である。これを見ると、電子書籍の価格は今後も下がる可能性があると思える。 もちろん、ベストセラー以外の電子書籍の価格は、もっと下がるだろう。新刊でなければ、1ドル~3ドルぐらいの価格帯で売られることが、いまや当たり前になっている。

 

 こうした価格競争は、アップルと大手出版社の談合を米司法省が提訴し、その後、大手出版社が司法省と和解したことが大きい。これにより、アマゾンなどの電子書店は価格を自由に設定できるようになった。また、ランダムハウスとペンギングループの合併で世界最大の出版社が誕生することになったことも、今後の電子書籍の値下げ競争を助長するだろう。