[165]どう考えてもソニー株が買えない、これだけの理由 |
2013年 5月 22日(水曜日) 18:16 |
なにかがおかしい。連日株価は上がり、ついに1万5000円台まで来たが、この上昇に見合う業績を上げている企業は、実際のところないからだ。アベノミクスで企業業績は上向いていると報道されている。しかし、それは「円安効果」であって、企業業績が本当に回復しているのかといえば、「そうではない」と、冷静な市場関係者、アナリストなら答えるだろう。 しかし、アベノミクスの上げ潮ムードに逆らって、あえてそうした見方を表明する人間は少なくなった。 私は投資家ではないし、エコノミストでもない。ただ、ジャーナリストとして、経済を取材・ウオッチングしているだけだが、それでも、いまの相場の動きは常軌を逸し始めたと思う。 そこで、ここでは、日本を代表する電機産業の雄、ソニーを例にとって考えてみたい。 ■米ヘッジファンドによる分社化提案
5月22日、ソニーは経営方針説明会で、2014年度に連結売上高8.5兆円、営業利益率5%以上の計画を維持すると表明した。2014年度にエレクトロニクス事業の売上高6兆円、営業利益率5%の達成を目指す計画も維持すると表明した。 と同時に、エンターテインメント部門の一部売却を求める米ヘッジファンド、サード・ポイントのダニエル・ローブ氏の提案を、取締役会で議題とする方針だと伝えられた。 ローブ氏の提案というのは、映画・音楽などのエンターテインメント部門を分離して上場し、その株式の最大20%を市場で売却して必要な資金を調達。そうして、低迷が続くエレクトロニクス事業に集中するというものだ。 つまり、簡単に言えば、分社化して、赤字部門(エレクトロニクス事業)を切り離せということだ。分社化して、エンターテインメント部門をNY株式市場に上場するということである。
■アベノミクスが始まってから株価は3倍に このローブ提案をソニーが受け入れるかもしれないという観測が出ると、22日、株価は 一時前日比12%高まで買われ、2300円台と2年強ぶりの高値を付けた。 約1年前、2012年6月4日、ソニーの株価は32年ぶりに節目の1000円を割り込んで、当時大きな話題になった。そして、アベノミクスが始まる前、衆院解散前日の11月15日には、ついに772円まで下落していた。 しかし、アベノミクスで円安が始まると、すぐに1000円台を回復、2013年2月7日は1500円台に乗り、安値の約2倍になった。そして、現在は約3倍までになった。 ソニーは日本を代表する企業、日本の高度成長を象徴する企業だった。だから、日本が成長している時代は、株価もウナギ登りに上がってきた。ソニーの株価がピークを付けたのは2000年3月1日、この日、上場来最高値である3万3700円を付けている。 これは、ちょうどITバブルのピーク時と重なるが、このときを境に株価は下がり続けた。昨年暮れの700円台は、ピーク時から比べると、なんと30分の1以下に下落してしまったことになる。
■ソニーの決算内容からなにが見えるか?
では、ソニーの業績は、昨年暮れから回復しているのだろうか? 今後、大きく改善している要素があるのだろうか? 以下が、先日発表された決算である。
これらの数字を見れば、映画・金融部門を除いて、いずれの部門も売上を落としているのがわかると思う。つまり、ソニーは営業利益に不動産売買益、株式売買益を入れて営業利益をかさ上げしただけなのだ。医療情報サービス会社エムスリーの株式売却1222億円、ニューヨークの米国本社ビル売却655億円、自社ビル「ソニーシティ大崎」423億円など、資産売却に伴う利益がなければ、どうなっていただろうか?
■ソニーが資産の売却という“手品の種”が尽きる?
ソニーに限らず、日本の電機産業の苦境は続いている。シャープはもはや銀行管理会社の様相となり、従業員のリストラ、資産売却を進めている。パナソニックの決算は、純損益が7542億円で、過去最悪だった12年3月期の7721億円に続く巨額赤字を計上した。 ソニーの決算について、私がまともに報道したと思うのは、『週刊ダイヤモンド』誌(4月24日発売号)ぐらいだ。その記事の結論は、「ソニーが資産の売却という“手品の種”が尽きるまでに、本業で回復できるヒット商品が生み出せるかどうかがカギ」となっていたが、確かにそのとおりではないだろうか? だから、これでどうして株価が上がるのか、私にわからない。こうしたことに対する合理的な答はないのだから、「アベノミクスのバブル」と答えるしかない。
■アベノミクスで確かに輸出は増えているが……
各種報道では、アベノミクスによる円安・株高に乗って、日本企業、とくに輸出企業の業績は大幅に改善しているという。日本の輸出産業といえば、電機業界が真っ先に来る。しかし、日本の電機産業はその恩恵を受けているとは言いがたい。 しかも、輸出産業が本当に恩恵を受けているのかというと、そうも言いがたい現実がある。 それは、発表された4月の貿易統計を見ると明らかだ。すでに日本は貿易赤字国になっているが、財務省が5月22日に発表した貿易統計(速報、通関ベース)は、輸出から輸入を差し引いた貿易収支が8799億円の赤字。これは10カ月連続で、比較可能な1979年以降で4月としては最大の赤字額である。 メディアはその原因を相変わらず、「火力発電に使う液化天然ガスなどの輸入額が円安で膨らんだ」と解説し、そのうえで、アベノミクス効果で「輸出は自動車などが堅調で、前年同月比3.8%増の5兆7774億円と2カ月連続の増加。輸入も9.4%増の6兆6573億円と6カ月連続で増加した」と報道している。 財務省発表を受けて、日銀も実質輸出入速報値(季節調整済み)を発表。それによると、実質輸出は前月比2.1%上昇の97.4となり、2カ月連続の上昇となっている。
■「株価は企業の業績を反映する」は死語
しかし、ここでの問題は、少しだが増えてきた輸出の内容だ。円安だから、当然、金額ベースでは輸出は増加する。しかし、数量が増えなければ本当に増えたことにならない。それで、数量ベースではどうかというと、これは-5.3%である。 為替レートは16.6%円安になっているので、数量が同じなら金額ベースで16.6%増となるはずなのに、財務省発表数字ではわずか3.8%しか増加しないのだ。ではなぜ、これほどわずかしか増えないのだろうか? それは、自動車以外の製造業が不振だからと言うしかない。日本はもはや国内にある製造業を中心とした輸出産業では稼げない国になっているのだ。となると、この先、さらに円安が進んでいくと、輸入原材料のコスト高から、製造業はさらに苦境に陥るだろう。 「株価は企業の業績を反映する」と言われている。しかし、アベノミクス相場では、この言葉は“死語”だ。 |