[169] 哀しいアベノミクス。総理も野党も専門家もみな的外れ。目に見えない「日本崩壊」が続いている 印刷
2013年 6月 09日(日曜日) 21:51

アベノミクスが「哀しい」展開になってきた。

  前回のこのブログで成長戦略の中身のなさに「哀しい」と書いたが、民主党の海江田万里代表が、最近、アベノミクスを「それ見たことか」と批判している姿は、本当に見苦しいし哀しい。5月23日の株価暴落以後、「アベノミクスの危うさが表れている」「株高、円安だけに頼ったのでは持続可能性がない」などと述べ、「三本の矢」を「毒矢」と言ったのには情けなさを通り越して、本当に「哀れ」に思えた。

  安倍総理のその後の発言もさらに哀しい。「成長戦略第3弾」で出てきた「国民総所得(GNI)150万円増」を、どうやら自身で理解できていないようだからだ。読売新聞記事は、総理がこれを「年収」と述べたほか、「平均年収」「1年間の収入」「国民の平均の所得」「みなさんの所得」と、その言い方がコロコロと変わったことを伝えている。

  つまり、一生懸命頑張っているとはいえ、官僚やブレーンに吹き込まれたことを話しているだけなのだ。日本経済を復活させるという使命感はあっても、総理自身がその道筋が理解できていないのでは、日本は本当に危ないのではないだろうか?

 

■一時活気づいた経済評論家、エコノミストも哀しい


 アベノミクスになって活気づいた経済評論家、エコノミストと言われる人々も、本当に「哀しい」。株価の乱高下、長期金利の上昇、円安から一転して円高などが起こり、その事態に右往左往している。

  ただ、私はそれを批判する気はない。未来は誰にもわからないのだから、それは仕方ないことだ。しかし、専門家のプライドがあるなら、もう少し慎重に現実を見るべきだったのではとは言いたい。

  もちろん、これまで「財政破綻はない」「デフレは悪だ」「日本経済は最強だ」などと言ってきた人たちは、論外だ。この人たちは、ここで素直に日本と日本国民のために、“本当のこと”を言うべきだと思う。そうして、もっと現実と向き合うべきだろう。そうしないと、以下にあげるような本は、今後の日本と日本人にとって“害”になるだけだ。

  それこそ、海江田万里氏が言う“毒矢”になってしまうのではないだろうか。

 

■「経済エンタメ本」「癒し系経済書」はなぜ出版されるのか?


『日本大復活の真相』『だから、日本経済が世界最強というこれだけの理由』『日本経済は、中国がなくてもまったく心配ない』『アベノミクスで超大国日本が復活する!』『経済の自虐主義を排す 日本の成長を妨げたい人たち』『日本は「国債破綻」しない!』『アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる』『国債を刷れ!国の借金は税金で返せのウソ』

   これらの本は、書店に行くと「経済書」「ビジネス書」のコーナーに並んでいる。しかし、どう見ても「経済書」「ビジネス書」ではない。私と業界の仲間は、こうした本を「経済エンタメ書」「経済妄想本」「経済オモシロ読本」と呼んでいる。

  もっと言うと「癒し系経済書」である。なぜなら、読んでみて「ああ、日本はやはりすごい。安心していいんだ」と、心が癒される効果しかないからだ。

   かつて私は出版社で、ビジネス書、経済書の編集者をやっていた(現在もフリーでやっている)から、こうした本がなぜ大量に出版されるのか、よくわかる。最大の理由は、そのほうが売れるからだ。

  読者の知的水準を無視すれば、日本経済の厳しい現実、やがて破綻するかもしれない国家財政などを描けば描くほど、読者は少なくなる。

こうした現実も、じつは「哀しい」ことの一つだ。

 

■百貨店、スーパー、コンビニ、みな売上は落ちたまま

 

  民主党は最悪だったが、自民党も結局、グローバル化が進む新しい時代には対応できていないようだ。もはや一国の金融・財政政策では、経済成長も雇用創出もできないのに、いまだに国民経済を国家がコントロールできると思っている。どちらも、官僚体制の上に乗っかった「大きな政府」しか目指そうとしない。

  日本経済を復活させたいなら、徹底して規制緩和して、あとは民間にまかせてしまえばいい。格差は広がるかもしれないが、政府が介入しなければならない理由はない。また、国民は必ず助け合うだろう。

 すでに「アベノミクス不況」になっているという見方が出てきている。街を歩き、業界関係者の声を聞き、アベノミクスで過小報道されているニュースを拾っていくと、日本経済はよくなっていない。

 例えば消費だが、4月の百貨店の全体売上は対前年同月比0.5%減となり、4カ月ぶりにマイナスへと逆戻りした。高級品は売れても、一般向けの商品は相変わらず売上を落としているのだ。

 スーパーの売上も落ちている。全国スーパーの既存店売上は、4月で同1.9%減。前月の3月を除いて13カ月連続の対前年同月比割れだ。さらに、コンビニも2.6%減で、こちらは11カ月連続の前年割れである。

 

■国民に「自分自身の力で生きていく」ことを訴えないのか?

 

  こういう状況を見ていて思うのは、ただ一つ。結局、日本では「小さな政府」はできないということ。このまま「大きな政府」を続けていけば、政府債務がどんどん民間経済を圧迫し、社会福祉に依存する国民が増えていくだけだ。だから、この流れを「痛み」覚悟で逆回転させ、「小さな政府」にすべきなのだ。そうすれば、景気は底を打ち、復活もあるだろう。

  なのに、憲法改正、国土強靭化などをやろうとしている。なぜ、そんなことより、国民に「自分自身の力で生きていく」ことを訴えないのか? といっても、その答は明確だ。「痛み」を強いたら、選挙で票が入らないと、政治家が考えているからだ。

  これは、彼らが国民をバカにしていることと同義だろう。私たちは、本当に、そこまでバカだろうか?

  アベノミクスでお札を刷れば、景気が良くなる。国債はいくら発行しても国は潰れない。そんなことを信じるほど、私たち日本人はバカなのだろうか? 耳に甘い言葉を聞いてそれで安心する。あとは、国や会社に人生丸投げ。そんなバカな国民ばかりだろうか?

   国家や企業に依存するより、「独立自尊」で生きるほうが、人間はよほど幸せだ。

  だから、アベノミクスがどうなるかに関係なく、富裕層をはじめわかっている人間たち、将来に敏感な若者たちから、「そんなにバカにするなら」と、いま続々と日本を出ている。

  これは、目に見えない「日本崩壊」である。