[182] アマゾンが始める「Kindle MatchBook」は日本の出版崩壊を加速させる 印刷
2013年 9月 15日(日曜日) 01:42

アマゾンが、この10月から、紙版の書籍を購入すると同じ書籍の Kindle版(電子版)を格安、あるいは無料でダウンロードできる新サービス「Kindle MatchBook」を始める。発表によると、電子版の価格は出版社や著者によって異なり、無料か、0.99~2.99ドルになるというから、このサービスは衝撃的だ。

 この発表を受けて、米出版界は大揺れになり、いまのところ、どこの出版社が参加するかは判明していない。ただ、大手ではハーパーコリンズが、既刊本の一部を対象として限定的に参加すると伝えられている。また、先日の「Publishers Weekly」の記事によると、多くの出版社が拒否する可能性があるという。

 さて、問題は、このサービスは今後日本でも導入されるはずだから、そうなったらどうなるか?である。

 

■ユーザーにとっては「いいこと」だらけに見える

 

 すでに、電子書籍を専門に取材しているライターの鷹野凌氏が自身のサイト「見て歩く者 by 鷹野凌」で「AmazonのKindle MatchBookは書店には悪夢を、出版社には福音をもたらすか?」という記事を書いているが、私の見方は、鷹野氏とほとんど同じだ。

 結論から言うと、このサービスが始まれば、まず、日本の電子書店もリアル書店もさらに衰退し、アマゾンの紙と電子における市場寡占化が進むだろう。

 アメリカで始まるサービスは、「Amazonが書籍販売を開始した1995年からこれまでに購入した本」すべてが対象になる。ただし、このプログラムに参加する出版社のものだけである。つまり、アマゾンのユーザーには、過去の購入歴から、2.99ドル以下で入手できる電子書籍のリストが送られてくる。なかにはタダのものもあるから、グッドニュースだ。これで紙版の書籍の置き場所に困っていたユーザーは整理が可能になるし、今後、ちょっとしたプレミアムで紙も電子も手に入るのだから、大歓迎だろう。

 一方、出版社も電子版のプレミアム分の新たな需要により、プラスアルファの売上が見込める可能性がある。

 

■電子版は紙版の「おまけ」なのか?

 

   しかし、以上のメリットは、以下のデメリットを生む。

 まず、2.99ドル以下という価格が電子書籍の商品としての価値を下げる。これでは、電子版はまるで紙版の「おまけ」だからだ。とはいえ、アメリカは国土が広く、日本のようにリアル書店が数多く存在しないから、それでもユーザーは、両方を手に入れられて満足だろう。

 ところが、日本はそうはいかない。まず、リアル書店と提携していない電子書店は電子版のみの販売だから、売上が落ちるものと考えられる。さらに、リアル書店で紙版を買っても電子版は別に買わなければならないので、紙版もアマゾンでの購入が進むことになる。そうなると、日本のリアル書店の衰退は加速化するだろう。

 

■リアル書店はアマゾンのショーウインドウ

 

 現在、日本のリアル書店の件数はどんどん減っている。それに比例して、紙版の書籍の売上もどんどん落ちている。当然、その影響は出版社にもおよび、出版社自体の売上も落ちている。この悪循環から、いまや出版社は、すぐ売れる本(売れると考えられる本)しか出さなくなった。

 現在、アマゾンをはじめとするネット通販は、すべてのリアル店舗の敵である。家電量販店やスーパーなどのリアル店舗は、単なるショーウインドウと化し、ユーザーはネット通販に流れている。

 これと同じことが、今後、「Kindle MatchBook」が始まれば、リアル書店においても加速する。すでに、リアル店舗よりアマゾンで紙版を購入するユーザーのほうが優勢になりつつある。

 

■紙と電子の両方でアマゾンの寡占化が進む

 

 最近、業界の各方面から聞いた話では、電子書籍市場はほぼアマゾンの一人勝ちになっている。ある出版社では、電子の売上の90%をアマゾンが占めたという。アップルが「App Store」での単体アプリ本を認めなくなった今年の3月以来、売上を落とした電子書籍のインデペンデント業者は、もう立ちいかなくなったところも出ている。そういうところでは、あわててアマゾン「Kindle Store」に移項したが、市場の変化に追いつけていない。

 大手出版社の電子担当者も「ここまでアマゾンが強いとは、予想を超えている」と言う。

 こうして見ると、日本で「Kindle MatchBook」が始まれば、間違いなく紙と電子の両方でアマゾンの寡占化が進むだろう。そうなると、リアル書店も出版社もますます苦しくなり、それがまわりまわってユーザー(読者)にも影響する。

 電子化は、セルフパブリッシングを栄えさせるだけで、既存の出版ビジネスにとって、おそらくいいことは一つもない。最近、本当にそう思えるようになってきた。