[189] 日本の「就活」は壮大な無駄!現在に適応すると未来を失う! 印刷
2013年 10月 27日(日曜日) 14:31

All About News Dig」にブログ記事が掲載されるようになってから、編集部から、ブログのテーマに関して「こういうテーマで持論を展開していただけませんか?」というメールが来る。

 今回は、就活の季節になったので、「就活」である。そこで、以下、私が日頃考えてきたことを述べてみたい。

 まず、結論から書くと、現在の日本の就活は若者の将来を奪うばかりか、企業の将来も危うくしている。つまり、壮大な無駄だ。それは、日本の就活が、職に就く(「就職」)のが目的ではなく、とにかく会社に入ること(「就社」)が目的になっているからだ。

 

■日本の学生の目標は「会社に入りたい」だけ

 

 これは、リンクアンドモチベーションが93日に発表した「アジアトップ校学生モチベーション調査」でも明らかだ。この調査によると、就職活動で、日本人学生はどの会社に入るかを重視する「就社」意識が高く、アジアトップ校学生はどの「仕事」をするのかを重視する「就職」意識が高い。学生の意識としては、アジアトップ校学生は、自分が目指す職業に関して「明確な目標がある」67.3%と「漠然とした目標がある」24.4%の計91.7%で、なんらかの目標を持っている。これに対して、日本人学生はそこまでの目標がない。

 あるのは、ただ「会社に入りたい」という目標だけだ。

 これには、日本の大学教育が教養教育に偏り職業教育を軽視してきたこと、また、勉強しなくとも簡単に卒業できることなどに原因があるが、労働市場が国内で完結していて、しかも相変わらず終身雇用が生き残っていることが大きい。日本は、世界的にありえない「正社員を新卒一括採用する」というシステムを採用している。しかし、このシステムで「就社」すると、入社後は「社畜」化するしかなくなる。

 

■実力通りの採用をしない人事部

 

 私も昔サラリーマンをしていたとき、多くの学生を面接した。そのとき思ったのは、試験を通って面接に残った学生に大きな差はないということ。それでは、なにが差があるかというと、「やる気」だ。だから、みな「御社のためにこれほど頑張れます」ということをアピールする。こんなのは、本当の就活ではない。

 しかし、頭の固い採用担当者は、「やる気」を前面に出した学生を歓迎する。

 それからもう一つ。日本の会社は実力通りの採用をしない。もし実力通りの評価で人材を採用したら、社員は女性ばかりになる。試験でも面接でも、成績上位はみな女子だからだ。それで、私は素直に成績上位の女子ばかりに○を付けたが、実際に採用されたのは実力が劣る男子だった。

 こんなインチキな採用はない。男子にゲタをはかせているのだ。

 もし、本当に実力通りの採用をしていれば、安倍政権が「女性の活用」を言い出すはるか前に、日本企業の従業員は半数以上が女性になっていただろう。

 

■「学歴不問」なんて単なるタテマエ

 

 このように、日本の就活には問題が山積みである。そういう点をさらに挙げると、まず「学歴不問」をうたいながら、そんなことをやっている企業はほぼないこと。実際には、一流企業、トップ企業は、以下に示すA、Bランクの学生しか興味はない。 

 だから、下位大学の学生は、エントリーシートをいくら着飾ってみても無駄だ。採用試験にも進めない。

 

A:旧帝大(東京、京都、東北、九州、北海道、大阪、名古屋の7大学)、一ツ橋、早稲田、慶応、上智、津田塾、国際基督教、お茶ノ水、芸大など。 

B:MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)、関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)、筑波、東京外語、東京工大、神戸大、横浜国大、千葉大、金沢大、埼玉大、広島大、奈良女子、名古屋市大、首都東京大、学芸大、日本女子、青山学院、学習院など。 

C:日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)、産近甲龍(京都産業、近畿、甲南、龍谷)、大東文化、国学院、帝京、亜細亜、群馬大、徳島大、宇都宮大など。 

D:その他、新興大学など。

 

 こうしたランキングがあるのに、このことはあまり公には言われない。そうすると、下から一発逆転、這い上がって来る学生がいなくなってしまうので、そういった学生も少しは必要だから、誰も口にしない。学歴不問といって実際は学歴順に採用し、一部、下からの這い上がり組を入れる。それが名だたる一流企業、トップ企業のやり方だ。

 

■就活に勝つノウハウはないし、勝っても無駄

 

 それなのに、メディアでは「内定を勝ちとるノウハウ」などが、企業の人事部、大学の就職課、リクルート企業、先輩社員、専門家などによって、「ああでもないこうでもない」と語られている。全部、間違っている。

  最近の風潮は、「親子で勝ち取る内定」などと言って、子供だけにまかせていたらダメと、親を就活に引きずり出す。

 冗談ではない。親が子供を助けられるのは、みのもんた氏を見ていてもわかるようにコネしかなく、子供といっしょに面接練習などをしてもなんの効果もない。

 また、相も変わらずリクルートスーツという黒尽くめのユニフォームで面接に行くことになっている。なぜ、全員が同じ服装をして個性を殺してしまうのだろうか?

 じつは、私の娘も数年前に「就活」をし、リクルートスーツを買った。しかし、内定を得たのは、リクルートスーツを着ていかなかった会社だった。

 さらに、日本の会社はグローバル採用をうたいながら、優秀な学生をペテンにかける。娘の友達はボストンのキャリアフォーラムで、日本の大手流通企業に採用された。「海外の店舗展開でマーケティングをやってもらう」ということだったが、入ってみる地方の店舗に行かされ、現場でパート主婦といっしょに働かされた。

 そこで、「あんた英語が話せるからっていったて、ここではそんなこと通用しないのよ」とイジメられ、ついに耐えきれずに辞めた。採用担当者は「3年我慢しろ」と言ったそうだが、若いときに3年もキャリアを無駄にする意味はない。

 

■ありのままの自分で就活する

 

 このような無意味な就活に、将来を賭ける学生たちは本当にかわいそうだ。

 誰もが同じ行動を取る、こんな決まりきったシステムのなかで、就職しても将来はない。前記したように、一流大学生以外は、ほぼ9割が志望企業に行けないのだから、いくら就職できても不満だらけの社会人生活が始まる。

 たとえ志望企業に行けても、最初は「丁稚」「見習い」扱いで、仕事はマニュアル労働から始まるケースが多い。こうして、「3年以内に3割が辞める」という現象が起こる。これは、学生にとっても企業にとっても、不幸なことであり、壮大な無駄だ。

 グローバル化は否応なしで進展している。今後、サラリーマンになって一生を送るという人生は、成立すらできなくなる。それなのに、30社も40社も受けるなどナンセンスだ。

 どうせ、30社も40社も落ちるなら、面接の練習などせず、リクルートスーツなんか着ないで、気軽にありのままの自分で「就活」に望んだほうが、よほどマシだと思うが、どうだろうか?

 

■現在に適応すると、未来を失う

 

 日本人は、「過剰適応」し過ぎだ。それも、目の前の現実に適応しようとする。周りがそうしているからと、同じ時期に就活を始め、同じテキストで試験勉強し、同じ服装で面接に望み、同じような答を繰り返す。

 しかし、現在の「就活」に過剰適応すると、未来を失う。適応しなければいけないのは、現在でなく未来だからだ。

 現代の就活学生にとって、必須な本が2冊ある。それは、MITのエリック・ブラインジョルフソン教授とアンドリュー・マカフィー教授の共著『機械との競争』と、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授の著書『ワークシフト』だ。

 前者は、イノベーションが進むと、機械の生産性が人間の生産性を上回り、人間の価値が下がる。そのため経営者は労働者よりも、機械を選ぶ。その結果、単純な労働はなくなり、そういう労働者は職を失うということが述べられている。

 つまり、就活学生のライバルは、同じように就活をしている学生ではなく、新しい機械だ。

 後者では、今後、人間の働き方の常識を「シフト」させていく必要があることが説かれている。その仕事とは、サラリーマンのようなジェネラルなものでなく、専門的なものである。その意味で、単に「会社に入る」という時代は終わったのだ。

 さて、話を戻して、冒頭のアンケート調査の対象とされた「アジアトップ校」というのは、以下の大学である。

 

 中国(清華大学、北京理工大学、北京外国語大学、西安交通大学、上海外国語大学、西南財経大学)、香港(香港大学、香港中文大学、香港科技大学)、インドネシア(バンドン工科大学、インドネシア大学、ガジャ・マダ大学)、シンガポール(シンガポール国立大学、南洋理工大学)、ベトナム(ベトナム国家大学、貿易大学、国民経済大学)。 

 

 いずれも、その国のトップ校。日本なら東大、京大クラスの大学だ。これらの大学を出て、明確な目標を持っていても、いまは就職が難しくなっている。こうした現実をふまえ、将来を展望したうえで、開き直って就活をすべきだろう。