[241]2016年の経済予測ははたして当たるのだろうか? 印刷
2015年 12月 21日(月曜日) 19:05

年末になったので、「来年はどんな年になるのか?」という予測記事が続々と出るようになった。テレビを見ていても、コメンテーターがいろいろなことを言っている。

 そこで、経済の予測、株価や為替の予測に絞ってみると、「楽観論」と「悲観論」が交錯しており、いったいどうなるのか皆目わからない。

 

 今月は、注目すべきことが二つあった。一つは、FRBがついに利上げに踏み切ったこと。もう一つは、日銀が本当に小幅ながら追加緩和(補完措置)を発表したことだ。

 FRBの利上げは予測されたことだから、これを受けてどうなるかは書くまでもない。アメリカはともかく、これ以上緩和を続けることはできないと、当たり前のことをしただけだ。すでにエネルギー輸出国に転じたアメリカは、中東も必要としなくなったし、新興国経済が減速しようと自国だけで経済を回していけると自信を深めている。そういうことではないだろうか?

 

 しかし、日本は違う。アメリカ経済や新興国経済の影響をモロに受ける。エネルギー価格の急落と円安で一息ついているだけだから、金融緩和に出口はない。だから、小幅追加緩和を小幡績氏(慶應義塾大学准教授)は、「頓死!黒田日銀は進退窮まり詰んでしまった」と激しく批判している(『東洋経済オンライン』1219日)。これはそのとおりだろう。

 

 ただ、この小幡氏は『週刊ポスト』(18日号)の「2016年、もしかしたら日本の景気は21世紀最高になるかもしれない」という座談会記事では、山口正洋氏(ぐっちーさん)、吉崎達彦氏(双日総研チーフエコノミスト)とともに、「楽観論」を述べている。この3人の方々は、安倍政権の政策(GDP600兆円、地方創生など)を「頭が古い」と批判しながらも、世界のなかで日本の経済状況は「近年まれに見るほどよい」としている。

 

 しかし、『週刊現代』(1226日号)で国際ジャーナリストの大野和基氏によるポール・クルーグマン氏のインタビュー記事を読むと、この“流動性の罠学者”は、なぜか完全に悲観論者になっている。

 まず、FRBの利上げは間違っていると述べ、さらに「日銀のクロダは臆病だ」と批判し、「緩和を続けろ」と主張している。「実際に2%のインフレ率を達成するには、私は『4%のインフレ目標』を掲げるべきだと考えます」などと言っている。

 彼は、完全な机上経済学者で、毎回、データと理論で市場を判断している。だから、自国経済にも懐疑的で、欧州、中国、日本とみなよくないことを述べ、「アメリカも中国も、ヨーロッパも日本も、正しい政策が実行されなければ、さらに状況が悪化していきます。われわれはそんなリスクに直面しているのです。2016年は、世界中がもがき苦しむ年になりそうです」と言うのだ。

 

 そんななか、日本を支える大企業の崩壊が進んでいる。今日は、東芝が5500億円の記録的な最終赤字になることが発表された。東芝はすでに約1万人をリストラすると発表しているが、この年末、この人たちは来年をどう迎えるのか本当に気になる。また、シャープも液晶事業の身売りが決定的だから、こうしたことを思うと「悲観論」に傾く。

 

 安倍政権は「地方創生」でバラマキを続け、かえって地方経済をダメにしそうだし、低所得者向けに3万円を配るなどというとんでもないバラマキまでやるのだから、この先が心配だ。

 それなのに、「補正予算をもっと組め」「インフラ整備をもっとやれ」などと主張する“お花畑エコノミスト”(あえて名前を挙げない)がいるのには呆れる。

 

 ともかく、いまの世界には不確定要素が多い。続発するテロ、ISとの戦争、難民問題による欧州経済の減速、中国のバブル崩壊の懸念など、挙げていったらキリがない。

 そうしたことを踏まえて、あーでもない、こうでもないと予測するのが、専門家の仕事だが、それを見聞きするたびに、同情を禁じえない。なぜなら、彼らはその予測のために、もっともらしい理屈を探さなければならないからだ。

 

 たとえば、「日経平均はこれ以上上がらない。名目GDP2割までが適正ですから、2016年平均で18000円ぐらいでしょう」「追加緩和はもうないでしょうから、円は1ドル110円ぐらいの妥当なところで推移する」「FRBが利上げしたので、2016年の米経済成長率は1%程度まで鈍化すると思われます。つまり、NY株価は下落します。またこれまで、アメリカが利上げしたときは円高になりましたから、円安も終わるでしょう」などなどだ。

 はたして、これらの予測は的中するのだろうか?

 

 ここからは、現在の世界経済を左右する根本的なことを二つ書き留めておきたい。

 一つは、アメリカを中心とするグローバル資本主義は、この先もずっと続いていくということだ。かつて「資本主義は終焉する」などと言っていた人がいたが、そんなことは起こらない。なぜなら、資本主義というのは、単純に「富や産業が政府ではなく個人によって所有されるシステム」のことだからだ。

 これがなくなるということは、国家が富や産業を所有してしまうということである。グローバル化で国境が無意味になり、デジタルエコノミーが拡大しているというのに、そんな話になるわけがない。

 

 そして、もう一つは、これは日本の政策担当者や専門家が誤解していることだが、バブルを起こすのは、市場心理ではなく、政府や中央銀行の政策であるということだ。政府や中央銀行が、経済に介入すればするほどバブルが起きて、やがてそれが弾ける。

 現在の世界経済は、資本主義の自由な市場からかけ離れた経済で、それは各国政府が人為的な金融緩和を行った結果だ。景気対策と称して、財政出動というバラマキや量的緩和というマネーの氾濫を行ったために、いまの市場は歪んでいる。

 アベノミクスは、その最たるもので、いくら株価が上がり円安になろうと「実感なき景気回復」でしかない。

 

 こんななかで、経済予測、まして株価や為替を予測できるわけがない。短期的な予測にはほとんど意味がなくなっている。

 私は、経済やビジネスの現場を取材して、これまで多くの予測記事や本を書いてきたが、それらはすべて長期予測に基づいている。長期なら、企業業績の推移や人口動態の推移などから、確実に未来が見えてくるが、1年間などいう短期ではなにが起こるかなど予測できない。

 

 アメリカは利上げにより、緩和から緊縮に転じたが、日本と欧州は緩和から降りられない。2016年もこれが続く。そうなると、相場はますます実体経済とかい離していくだろう。そうして、人々が「これはおかしい」と気づいたとき、政府はさらに経済に介入して、自由市場を破壊させる。

 いまの日本は、緩和バブルと重税で経済を疲弊させている。政府は、国民を信頼し、民間の自由にさせればいいのに、次々となにかを打ち出してバラマキを行っている。

 日本経済は世界でもまれに見る強力な経済だが、これ以上やると、2020年の東京オリンピックまでに、競争力を大きく低下させるかもしれない。