[242]希望の国ベトナム:ホーチミン市2区タオディエンを歩く 印刷
2015年 12月 29日(火曜日) 11:04

1221日から、ベトナムのホーチミン市に行っていた。私のような世代にとっては、ホーチミンと言うより、やはり「サイゴン」と言ったほうがピンと来る。地元の人たちも「ここはホーチミンではなくサイゴンです」と言い、随所にサイゴンの名前が残っている。

 そんなサイゴンの市街はバイクで溢れていて、どこの通りでも主役はバイクだ。2人乗り、3人乗りも珍しくなく、信号が赤になれば、たちまち大量のバイクが交差点を埋め尽くす。この光景を目にするたびに思うのは、この国が希望あふれる「若い国」だということ。バイクに乗っている通勤労働者たち、街を行き交う人々は、みな若くて生き生きとしている。

 世界でもまれに見る高齢都市(シルバーシティ)となった東京とは大違いである。

 

 現在、サイゴンには多くの日本企業が進出している。昨年は空港近くにイオンモールができた。日本では次々に地方のSCをクローズしているが、ここベトナムでは逆である。先月にはハノイにもイオンモールがオープンしている。

 サイゴンで日本人駐在員、日本人観光客が集中しているのは、中心街のレタントン通り。ここには、居酒屋、ラーメン店など、日系の飲食店が数多くある。

 しかし、私はそうした市の中心街にはほとんど行かず、新しいサイゴンを感じるところばかり歩いた。そのなかでも、もっとも新しい息吹と将来性を感じたのは2区のタオディエン(Thao Dien)だ。

 

  

 (左)タオディエンのメインストリート、向こうに建設中のコンドが見える 

 (右)サイゴン川は船が行き交う 

 

 現在、ホーチミン市は新都心開発を進めている。そのなかでも目立っているのが2区である。2区のタオディエンは、市の中心部の1区からは車で20分ほど。大きく蛇行するサイゴン川にかかるサイゴン橋(Cau Sai Gon)を渡った先に位置する。

 タオディエンは元々の高級住宅地。欧米人向けのビラ(洋館)や高級マンションが立ち並ぶなか、ベトナム風の商店とともに、在住欧米人や近年増えた観光客向けのお洒落なカフェやレストラン、スパ、ブテックホテルなどが点在している。

 

「あそこはサイゴンでも別格の場所です。サイゴンのビバリーヒルズと呼ぶ人もいます。ベトナムの人気スターたちも住んでいますからね。日本で言えば田園調布でしょう。ただ、日本人はほとんどいませんよ」

 と、日系企業の人間が言っていたとおり、3日間いたが在住の日本人家族を一組見かけただけだった。

 タオディエンには、ブリテッシュインターナショナルスクール(BIS)、オーストレーリアンインターナショナルスクール(AIS)などのインター(国際学校)があり、そこを中心に欧米風の街並みができている(といっても小さなタウン)。日本人学校は7区にあるので、やはりここは日本人とは縁遠い街のようだ。

 

 だからタオディエンは、日本のベトナム旅行ガイドブックにはほとんど紹介されていない。『CREA』(文藝春秋)が以前、「お洒落なスポットが続々、ホーチミン2区が熱い!」という記事で、人気レストランなどを紹介していた程度だ。ネットでもいくつかの記事があるが、いずれも「サイゴンの喧騒から離れてラグジュアリーなひと時を過ごそう」というようなガイド記事である。

 もちろん、ここに観光で来る価値は十分にある。お仕着せのパックツアーでも、サイゴンの名所・旧跡を訪れた後に余裕があれば、「もう一つのベトナム」が味わえる。サイゴン川のリバーサイドのカフェでテータイムを楽しみ、プールで泳ぎ、スパを体験すれば、南国リゾート気分に浸れる。しかし、私がタオディエンを歩いたのは、この街の可能性を確かめたかったからだ。

 

   

  (左)インターナショナルスクール「AIS」(右)IB WORLD SCHOOL

 

 現在、世界の投資家がもっとも注目しているアジアの投資先の一つがベトナムである。

 それには、いくつかの理由がある。まずは、2016年からASEANが発展してAEC(アジア経済共同体)がスタートすること。次に、いずれ成立するTPPにおいてもっとも恩恵を受ける国がベトナムだと考えられていること。さらに、ベトナム政府が積極的な外資導入政策を次々に打ち出していることだ。

 なかでも、20157月に住宅法が改正され、不動産の外国人所有が解禁されたこと、9月に銀行などを除く上場会社の外資出資比率の上限を完全撤廃、100%外資系企業の進出が可能になったことは、ベトナムに劇的な変化をもたらしている。

 

 こうした動きを見据えて、日本の不動産投資家も動き出した。サイゴンに物件を所有して投資リターンを得ようというのだ。なぜなら、住宅法の改正で賃貸が完全自由化され、外国人でも物件を購入した後にレントすることが可能になったからだ。最近では、ベトナム不動産投資セミナーも開催され、視察ツアーも行われるようになった。

 その目玉は、ホーチミン市の1区に建設されている高層コンドミニアム「Vinhomes Central Park」である。ここの平米単価は18002000米ドル。バンコクにある同じような物件と比べると約4分の1だから、投資家たちにとっては魅力十分である。

 

 しかし、そんな市の中心部より、タオディエンのほうがはるかに魅力的だ。私がここに来る直前に、この地区の入り口の高速脇に「ビンコム・メガモール・タオディエン」(不動産開発大手のビングループ:VICが開発)という巨大な商業施設が一部オープンしている。このメガモールは面積10万㎡という巨大な敷地内に、スーパーマーケットのほか映画館、レストランエリア、ゲームセンター、マンション(約3000戸)などが併設され、地区のランドマークになる見込みだ。テナントのなかには、マクドナルドなどと並んで日本の「ダイソー」もあった。

 

 

  ビンコム・メガモール・タオディエンの完成図 (c)vietnamunet 

 

 このメガモールのマンション以外にも、タオディエンには、多くのマンション(高級コンド)の建設が進んでいて、なかには販売が開始されたところもある。聞くと、購入予定者はほとんどがベトナム人。「しかし、今後、外国人の購入が増えるでしょう」と言う。

 すでに、高級コンドとしては、Thao Dien Pearl(タオディエンパール)、River Side (リバーサイド)Somerset Vista(サマーセットビスタ)River Garden(リバーガーデン)などがあり、ベトナム人富裕層、欧米人などが住んでいる。

  

 なぜ、タオディエンに開発ラッシュが起こっているのか?

 それは、前記したように、ここが新都心開発地区であるとともに、その一環として建設されるメトロの沿線になるからだ。サイゴンのメトロは、中心部のベンタイン駅〜スオイティエン駅をつなぐ全長19.7km14駅で建設が進んでおり、タオディエンはその中間点に位置する。なお、このメトロの区間の一部は日本の清水建設と前田建設のJVが受注している。

 完成は、当初2018年とされたが、現在の予定では2020年になるという。

 

 先ごろ、経済協力開発機構(OECD)から加盟34カ国の1人当たりのGDPが発表されたが、日本は36230ドルで上から20番目とまたも順位を下げた。IMFや世界銀行の統計では、シンガポールや香港よりも低く、G7ではイタリアとほぼ同じである。

 もちろん、ベトナムは2051ドル(IMF2014年)とまだまだ低く、「中進国」のレベルにも達していない。しかし、サイゴンで実感するのは、この国が本当に豊かになってきたことだ。

 ベトナムの人口は約9000万人、その平均年齢は29.2歳で、日本の46.1歳と比較すると、本当に若い。現在、中流層は約800万人と推測されているが、2020年には倍増するという。ベトナムはリーマンショック以後、経済成長率を56%台に落としたが、前記したように開放政策をさらに進めているので、今後はもっと高い成長率を維持できる可能性がある。

 125日、ベトナムのブイ・クアン・ビン計画投資相は「ベトナム開発パートナーシップフォーラム」で、2020年までの経済成長率が「6.57.0%に加速する」と述べた。これにより、2020年の1人当たりのGDP32003500ドルになるという。

 

 残念ながら、私たちの国日本は、すでに世界では成長が止まった衰退する国と見られている。東京オリンピックという一時的なカンフル剤はあっても、その後はさらに衰退していくだろうということが、定説化している。しかし、東南アジアは違う。なかでもベトナムはもっとも可能性がある「希望の国」の一つである。それを感じながら、帰路に着いた。

 

 以下、日本ではほとんど紹介されていないタオディエン地区の観光的ガイドをまとめておく。

 

《タオディエン地区観光ガイド》

 

 

(c)BrightHome Vietnam.com 

 

■ビンコム・メガモール・タオディエン

 着々と開発されるタオディエン地区の巨大モール。スーパーマーケットのほか映画館、レストランエリア、ゲームセンター、マンションなどが併設され、観光客にとってはタオディエンのゲートウエイになる。

■アンナム・グルメ・マーケット

 サイゴンでもっともオシャレとされる富裕層向け食料品マート。輸入食品が中心で、チーズ、ハム、ワイン、有機栽培のフルーツや野菜が揃っている。

 

Lubu(ルブ)

 オーストラリア人がオーナーのレストラン。店は外壁から内装まで純白で統一。フレンチがメインだが、イタリアン、スペイン料理もある。高級感が漂っているが、短パン姿の欧米人も多い。

The Deck Saigon(ザ・デッキ・サイゴン)

 この地区でもっとも人気があるカフェ&レストラン。竹林風のエントランスを入ると、楕円形のバーがあり、その向こうにサイゴン川にせり出したウッドデッキがあるレストランエリアがある。サイゴン川の景色を見ながらの夕暮れ時のディナーは格別だ。

  

Tha Dien Villege(タオディエン・ビレッジ)

 スパ、レストラン、ブテックホテルが併設している複合施設。スパでは、プールサイドでチェアに寝そべって本を読んでいるという欧米人特有のリゾートスタイルが見られる。料理は、ベトナム料理、イタリアンまで各種あり、木陰の芝生の上のオープン席でも楽しめる。

   

Villa Song Saigon(ヴィラソング・サイゴン)

 タオディエン地区でもっとも高級なブテックホテル。白亜の洋館スタイルで、タオディエン・ビレッジに隣接。館内のフレンチレストラン「La Villa」は南仏プロヴァンス料理が好評。フランス人オーナーシェフが、その日の自慢の食材を厳選したランチセットを食べに来るレジレントが多い。

 

Decosy(デコシー)

 ガレージ風の造りの家具や食器を扱う店。南国風のチェアやカラフルな食器、透かし彫りのキャンドルホルダーなど、見るだけで楽しい。

100% Alimentation Générale de Qualité

 オーガニック食材店。洗練された店内には、各種のオーガニック・スパイスがずらり。ブラックペッパーは有名なフーコック産と、ハノイ産など各種揃っている。

The Closet(ザ・クローセット)

 オリジナルのリゾートドレス、タウンウエアなどを揃えたブテック。バッグやアクセサリーも豊富。

 

 

*なお、「ベトナムナビ」のサイトには、タオディエンの紹介動画がアップされている。

http://vietnam.navi.com/special/5053532