[243] とうとう本当に崩壊し始めた中国経済 「日本の失われた20年」の再来か? 印刷
2016年 1月 15日(金曜日) 14:58
ここ数年、私は中国に対する興味をすっかり失ってしまった。とくに『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP研究所)という本で、中国の環境汚染(水、油、空気)を描き、「こんな国には住めない。経済がいくら発展してもこれを放置していたら大国などなれない」と結論してからは、1度も足を運ばなくなった。

 今年も北京のPM2.5汚染はひどいが、すでに私はこれを数年前に体験して「もう北京に来るのはやめよう」と思ったものだ。

 そんな中国経済は、どうやら本当に衰退期に入ったようだ。年初から上海株の暴落が続き、それに伴う世界同時株安が続いてきた。いわゆるチャイナショックで、世界経済は大揺れである。

 111日に、上海株は3000ポイントの大台を割り込み、香港のハンセン指数も2万ポイントを割り込んでしまった。

■ドルにペッグした緩和人民元がバブルを生んだ 

 

 いま思うと、中国経済がピークだったのは、2008年の北京オリンピックの頃であり、その後は緩和バブルで見せかけの成長、バブル経済となってきたことがわかる。2008年のリーマンショック後、アメリカのFRBは量的緩和(QE)政策をとったが、人民元はドルにペッグしているから、中国もまた金融緩和で人民元を刷ってきたのである。この緩和マネーが、不動産と株のバブルを生んだ。

 昨年の夏、じつはもう中国経済に成長余力がないことが明らかになったが、それでもまだエコノミストたちは、一時的なものだと判断していた。北京が言う7%成長は嘘だとしても、45%ぐらいは成長できるだろうと考えていた。

 しかし、この年初の上海株の暴落ぶりを見ると、バブル崩壊は本番に入ったと思うしかない。

 実体経済を見れば、貿易量が減少し、貨物輸送量も減少し、不動産は上らず、国有企業は軒並み赤字という状況だから、そう捉えるしかない。

 

■人口オーナス期とバブル崩壊が重なってやって来た

 

 昨年の1月、私は自身のメルマガで、「今年は中国の転落元年。人口ボーナスの終焉で高度経済成長は終わり」(No.137 2015120日)という記事を配信した。これは、中国の人口ボーナス期が終わるから、もう成長は難しいという予測で、今回のバブル崩壊による経済衰退突入とは意味合いが違う。

 しかし、バブル崩壊と人口ボーナス期の終わり(=オーナス期突入)が重なってやって来た以上、中国のこれ以上の成長はありえないだろう。

 中国はすでに「中所得国の罠」に陥っている。これは、1人当たりのGDP1万ドル台に達したところで伸び悩んでしまうという現象だが、バブルが崩壊すれば、これは決定的になる。

 上海株の暴落以前から、中国からは資金が怒涛のように流失している。それが今回の上海株の暴落で止まらなくなった。株式市場からも資金が流失しているため、株価はどこまで下がるかわからなくなり、で、4日と7日には、導入したばかりのサーキット・ブレーカーが発動されて、取引できない状況に陥った。

 

■昨年、中国から約60兆円の資金が流出した

 

 このような中国の状況を見て思うのは、金融緩和は必ず後遺症、つまりバブルの崩壊を招くということだ。1980年台後半の日本のバブル景気も、日銀による金融緩和の結果だった。それが、一気に崩れたため、日本は長期低迷「失われた20年」に陥った。

 ここ数年、中国経済はバブルではないかとしきり言われてきたが、その見方は間違いなかったわけだ。

 中国バブルをつくったのは、前記したように人民元の膨張である。しかし、昨年、ペッグ先のドルは量的緩和の手仕舞いに入った。そして、FRB12月に利上げに踏み切った。こうなると、中国は人民元をもう刷れない。そのため、昨年8月、中国は人民元の一時的な切り下げを行った。しかし、その結果、資本流出が起こり人民元はさらに安くなった。

 もともと、中国経済は過剰生産だった。ここ数年、在庫が積み上がっていた。そこに資源安が襲ってきて、国有企業の赤字は膨らむ一方になり、それを国有銀行が懸命に支えてきた。つまり、中国の銀行には不良債権が山ほど溜まっている。

 これでは株式市場から資金が逃げ出すのは当然だ。昨年度、中国から逃避した資本総額は5127億ドル(60兆円)とされている。

 

■ロンドンで安く買って上海で高く売る裁定取引

 

  資本流出とともに人民元安は進む。いまや人民元は国際通貨だから、中国以外の市場、ロンドンなどでも取引され、そこでは人民銀行のコントロールは効かない。そのため、上海とロンドンでは人民元の価格の乖離が進んだ。

 こうなると、ロンドンで人民元を安く購入して上海で高く売ればそれだけでサヤ取りできるので、金融機関はこぞってこの裁定取引に参入した。

 人民銀行はこの裁定取引に悲鳴を上げ、「利益をむさぼる投機筋が実態経済と関係なく人民元相場の異常な変動を引き起こしている」と非難声明を出したが、人民元を国際通貨にしようと画策してきたのは当の中国だけに、避難しても自業自得である。

 

■日本のバブル崩壊より重症の可能性が高い

 

 人民銀行は元買いドル売りを繰り返して懸命に人民元の防衛を行っているが、そのために外貨準備が急速に減少しつつある。中国の外貨準備高は、日本と違って海外からの借金も含まれているので、これ以上人民元安が続くと、いくら豊富と言っても底を突く可能性もある。そうなると、金融システムまでおかしくなる。

 おそらく、このままの状況が続けば、不良債権のある金融機関の淘汰が進むだろう。それは、1990年代の日本と同じだ。日本も住専処理が行われ、銀行倒産・再編が起こった。

 中国の場合は金融機関ばかりか、赤字の国有企業の淘汰もしなければならないから、日本より重症かもしれない。

 *この記事はメルマガ 「201」(1 月14日配信)の再録です。