[261]国債金利とはコントロールできるものなのか? これ以上“通貨毀損”を続ければ、円安の歯止めはなくなる 印刷
2016年 10月 11日(火曜日) 09:14
トランプは完全に終わった。第2回のテレビ討論会はひどすぎた。冒頭に女性蔑視発言を突っ込まれると、「家族とアメリカ国民に謝る」と言いながら、「ところでイスラム国は」と話をすり替え、「イスラム国はやっつけなければならない」と言った。支離滅裂だ。

 なんで、こうなるのか?

 もはやウォール街は大統領選挙などどうでもよくなり、FRB11月にも利上げに踏み切るかもしれない。11月がなくとも、大統領選挙で控えていただけだから、12月にはするだろう。そうなれば、ドル高は確実だ。

 

 ところで、日銀の黒田東彦総裁は、10月8日、ワシントンの講演で、マイナス金利の深掘りなどの追加の金融緩和は現時点では必要はないと言ったという。これは、「必要ない」ではなく、「やりたくてもできない」の間違いだろう。

 実際、もう金融緩和は限界で、これだけやっても実体経済はうんともすんとも言わないばかりか、衰退を続けている。日本経済の指標となる数値は、ほとんどが悪化してきた。とくに消費の落ち込みはひどく、アベノミクスになってから1回も上向いていない。

 

 ところが、大手メディアは、この状況を「不況」「景気後退」とは報じない。アベノミクスはまるで効果がないことが判明したのに、そうとは書かない。本当に不思議だ。

 そもそも、国が金融政策と財政政策をいくらしようと、実体経済にはそれほど影響しない。経済は極めて自律的なものだ。ケインズの亡霊を退治しないことには、余計な支出ばかりかさんで、この先、日本経済はもっと悪くなるだろう。

 

 日銀は、921日の金融政策決定会合で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と名付けた、訳のわからない新金融政策を発表した。長期金利の目標数値を決め、10年国債の利回りが現状程度(ゼロ%)で推移するよう、長期国債の買い入れを行うという。

 

 はたして、そんなうまいことが可能だろうか? 金利を中央銀行が決めていた昔ならともかく、いま、そんなことができるのか? できれば、いずれ国債市場というものはなくなってしまうのではなかろうか。

 こうなると、もはや日本は資本主義経済とは言い難い。すでに、クジラの株買いで、市場経済は死んだ。株に公的資金がここまで注ぎ込まれたことはかつてなかった。日本は中国よりももっとひどい社会主義統制経済になってしまっている。

 

 日銀のバランスシートの膨らみかたは、もはや尋常ではない。日銀自身のデータによると、国債保有残高は6月末時点で398兆円に達している。国債全体に占める割合は36%。じきにGDPに匹敵する額になるだろう。

 これはもう完全な財政ファイナンスで、円という貨幣の価値をどんどん毀損している。やがて、誰も止められない円安が訪れるだろう。それがいつになるかはわからないが、このままではそうなることは確実だ。

 

 こんななか、日本の個人投資家たちはなにを考えているのだろか。投資家にとっては、投資によってリターンが得られればいいので、日本経済が衰退していこうと、円安になろうと、じつはどうでもいい。アベノミクスという政策の是非など、投資とはまったく関係のない話だ。世界にはリターンが見込める金融商品はいくらでもある。

 それなのに、日本の経済評論家の多くは、日本経済は復活すると言いまくっている。つまり、日本に投資せよということになるが、そんなことをしたら大怪我をしてしまうだろう。

 

 愛国心と投資とはまったく関係ない。たとえば、競馬なら、凱旋門賞には毎年のように日本馬が出走する。今年もマカヒキが出て人気先行で惨敗した。この人気をつくりあげたのは日本人だが、これを毎年続けていたら、どうなるだろうか?

 いくら日本馬に勝ってほしいと願って投資しても、おカネを失うだけになる。日本で生まれ日本で生きている以上、この国がよくなっていってほしい。しかし、その思いは投資では叶えられない。このジレンマに、多くの個人投資家が悩み、国を憂えている。

 しかし、メディアはそんなことはお構いなしに、政権寄りの報道を続け、経済評論家は“日本経済復活本”“日本は最強本”を出し続ける。今年もまた暮れになれば、そういう本がいっぱい出るだろう。