[036]日本開国への第一歩になるか? 羽田ハブ空港化問題 印刷

2009年10月16日

 前原誠司国土交通相が打ち出した羽田空港の国際拠点空港(ハブ空港)化をめぐって、騒動が続いている。この発言があったとき、私はたまたま成田空港にいたので、「やっとか。それにしても遅すぎる」と思った。

 成田に来るたびに思うのは、こんな不便で時代遅れの空港がなぜ存在し続けるのかということ。とくに、海外から帰国したときは、海外の空港の使いやすさや便利さを身をもって体験してきた後だから、そういう思いがよりいっそう強くなる。

 いまどき、首都からこんなにも離れ、しかも、24時間オープンでない国際空港など世界でも珍しい。また、空港内は薄暗く、設備も古い。まるで新興国、発展途上国のローカル空港並みで、到着するたびにがっかりする。


外国人にはわからない「YOKOSO!JAPAN」看板


 海外から日本に初めてやってきた外国人は、この成田空港の悪印象から、日本全体に対する印象も悪くしてしまう。それに輪をかけているのが、ローマ字で書かれた「YOKOSO!JAPAN」とうボードだ。なぜ、こんなわけがわからないボードが、いつまでも掲げられているのだろう。ともかく、このような空港があること自体、日本人として本当に情けなく思う。

 今回は、香港から帰国する親戚の出迎えに行ったが、午後8時過ぎの第2ターミナルの到着ロビーは閑散としている。到着便があるゲートAは出迎えの人や帰国客がいるが、ゲートBは人もまばら。また、2階には、8時以降たった1軒のレストランしか店を開けていない。
 第2ターミナルに着く最後の便は、香港からのキャセイパシフィックである。この便は、9時25分着だが、たいてい9時には着くので、夜10時になると、成田空港はさらに閑散としてしまう。

 欧米の空港はもとより、アジアでもこんな空港は珍しい。北京、香港、シンガポール、バンコク、ソウル(仁川)……どこも、成田よりずっと明るく快適で、なおかつ便利である。そして、言うまでもなく24時間、飛行機は発着し、乗客の姿は絶えることはない。


なぜかどんどん後退していった前原発言



 今回の前原「羽田ハブ化」発言は、来年10月に第4滑走路が完成することを十分に意識していたと思われる。これを機に、羽田をハブ空港化し、24時間態勢で国際便を運航する。そう、彼は決意したのだと、当初、私は思った。
なぜなら、民主党は、選挙時の政策INDEXに「徹底したオープンスカイ政策の推進」を掲げていたからだ。

 しかし、その後、この羽田ハブ化構想は、どんどんトーンが落ちていった。  
 千葉県で、成田市を含む空港周辺9市町の首長らが発言撤回を求めると、前原国交相は森田健作知事と面談し、「国際便の発着を成田から羽田に移すものではない」と、あっさりと前言を撤回してしまった。

 また、大阪の橋下徹知事が「ハブは2つ必要」と関西空港が忘れられていることを訴えると、ついに鳩山総理が、「成田と関空はもう重視しないという発想ではない。若干、言葉が極論に聞こえたのかもしれない」と記者団に語り、前原発言による混乱の沈静化に必死になる始末だった。


国内線と国際線を住み分けること自体が間違い


 なぜ、こんなバカげた事態になってしまったのだろうか? これまでの経過を見ていると、自民党時代と同じような利害調整に追われるだけで、なにも前進しないまま終わるような気がしてならない。「羽田は国内線、成田は国際線」という、時代錯誤の空港行政が覆ることはないのだろうか?

 そもそも、国内線と国際線を住み分けること自体が、間違っている。空港がハブ化して、国内線と国際線が同じ空港にあることが、利用する側にとってはいちばん便利なのだ。それを無視してきたのが、いままでの日本の空港行政であり、そのために、日本はグローバル化のなかで大きく遅れをとってきた。

 アジアに次々にハブ空港ができると、この欠点は顕著になり、仁川や香港などに、国内の地方客まで奪われるようになった。
 そして、さらにバカげたことに、茨城空港や静岡空港など、乗客より飛行機を見物に来る客が多い空港ができてしまった。



元凶は、“空整特会”という赤字補填システム

 

 道路行政もひといが、空港行政はさらにひとどい。その原因は、“空整特会”という赤字補填システムにある。この空整特会については、幻冬社新書『血税空港』(著:森功)に、詳しく書かれている。

 空整特会の原資は、飛行機の着陸料など空港使用料や航空機燃料税である。ガソリン税が道路建設に回されるのと同様に、これまで、空港整備名目で全国の空港にばらまかれてきた。国内だと、1人1回の利用で3000円に相当するという。

 あのホリエモンは、ブログで「成田空港を即刻廃止せよ」と訴えている。彼が言うように、成田空港は無用の長物である。「即刻廃止するべきだ」という彼の意見に、私は大賛成である。


なぜ、不便さと世界から遅れる道を選択するのか?


 しかし、いまの流れを見ていると、結局、成田廃止などできっこないだろうし、落ち着くところに落ち着くように思う。つまり、足して2で割ったようなことになるだろう。

 つまり、羽田と成田の「一体的活用」によって、首都空港としての機能を高めるというような、いままでどおりの決着だ。国際線の拠点を成田とする従来の方針は変えない。ただ、今後増える羽田の昼間の発着枠は、これまでの近距離アジア路線に限るという政策から転換し、ほかの路線にも開放していくということだろう。

 しかし、国内線が集中する羽田にこそ、ほぼすべての国際線が集まらなければ、なんの意味もない。羽田から欧米に飛べなければ、ハブ化など有名無実だ。
 そしてさらに、オープンスカイに踏み込まなければ、日本はますます遅れるだけだろう。なぜ、こうまでして不便さを選択し、世界の流れから取り残される道を選ぶのだろうか? 私には、本当にわからない。


国内航空券代が高いのは、航空会社を保護しているから


 また、今回のJALの破綻回避問題で、前原国交相は、「JALが破綻したりANAと合併したりして国内の大手航空会社が1社だけになると独禁法違反になる」と言って、再建チームを送り込んだ。
 しかし、オープンスカイにすれば、フラッグキャリアなど1社だけで十分である。オープンスカイとは、海外の航空会社に国内路線への相互参入を認めて競争を促進する政策で、アメリカとEU各国、アメリカとアジア各国などで協定が結ばれている。その結果、航空料金はどんどん安くなり、LCCのような格安航空会社がどんどん誕生した。

 ともかく、日本の国内航空券代は高すぎる。私の家内は宮崎県の出身だが、東京宮崎の往復運賃は、まともに買えば5万円以上する。ところが、グアム、ソウル、上海などへは、それ以下の値段で行ける場合が多い。これは、国内で航空会社を保護しすぎたためである。つまり、国外では競争原理が働いて安くせざるを得ないが、国内は保護されているから多少高くてもかまわないことになる。
 日本国民は、はっきり言ってバカにされているのである。


オープンスカイを拒否したせいで観光地が衰退


 国民のことを考えたら、JALなど保護せず、さっさとオープンスカイに参加すればいいのに、なぜ、日本はオープンスカイを拒否してきたのだろうか?
 それは、「羽田や成田が混雑して、開放の余地がない」という理由からだという。国土交通省は、これまでそう述べてきた。
 しかし、関西空港や中部空港の発着枠は埋まっていないし、地方空港にいたってはガラガラである。とすれば、単にLCCに日本の空を飛んでほしくないということにすぎない。まさに、鎖国政策である。

 このような鎖国政策を取り続けるとなにが起こるだろうか? それは、地方の観光地の衰退である。グアムに行くより九州や北海道に行くほうが高いのだから、そこにある観光地が栄えるわけがない。
 宮崎のシーガイヤも長崎のハウステンボスも潰れてしまった。北海道にスキーに行くのは、日本人ではなく、オーストラリアやアジアの富裕層である。本当に、もういい加減に、日本は空だけでも開国してほしいと思う。


2010年は上海万博の年。ますます日本は取り残される
 

 成田と比べると、羽田空港の便利さは格別である。上海に行くなら誰でも、航空券代が多少高くても、羽田—虹橋便を選ぶだろう。羽田空港-虹橋空港が開通したのが2007年9月。たった2年で、この路線はドル箱路線になった。

 そして、来年、2010年は、上海万博がある。上海万博は、史上最大7000万人の入場者数が想定されており、上海市は浦東空港と虹橋空港をどんどん拡張している。
 浦東空港は、当初1本だけだった滑走路が、2005年3月には3本になり、現在は4本目の滑走路の着工が始まっている。将来は、全部で5つの並行する滑走路を持ち、3つのターミナルと2つのサテライトホールを持つ空港になる。

 このような巨大なハブ空港と競争していくには、羽田と成田の「一体的活用」などでは及ぶべくもない。