[037]やはり景気は2番底に向かう、アメリカは立ち直れない! 印刷

2009年10月23日(米国時間)


 久しぶりにアメリカに来て1週間が過ぎた。私用があってサンフランシスコに行き、その後ハワイに来た。もうすぐ帰国するが、アメリカに来てみて実感するのは、やはり不況が相当に深刻だということだ。

 ハワイは観光地という特殊な事情もあるが、昨年比で17%も観光客が減った。『ホノルル・アドバタイザー』紙には、「ワイキキのリテイル(小売り)の落ち込みは深刻」という記事が載っている。この記事によると、ブランド品の売り上げは軒並み落ちて、好調なのはディスカウントセールをしているABCストアだけという。ほぼ日本人だけを相手にし、「デューティフリー」として知られるDFSでは、売上げ減から去年は130人の従業員をレイオフしたという。

(このハワイの状況については、帰国してから書くことにし、今回は、アメリカの不況全般について書き留めておきたい)


株価上昇は政府発表のアナウンス効果にすぎない


 リーマンショック後の「100年に1度の危機」突入から1年余りが過ぎ、景気はようやく回復してきた-------と、アメリカのメディアは、ここのところずっと報じている。日本のメディアも、同じような報道をくり返している。しかし、それは本当だろうか?
「ドクター・ドゥーム」と呼ばれ、悲観論で有名なNY大学のあのルビーニ教授が、「米国経済は2009年の終盤から回復するだろう」と述べたのは、今年の夏のこと。以来、株価は下がることはなく、この10月22日に、ダウは一時にせよ、ついに1万ドルの大台を回復した。
 また、日本株は、すでに6月12日に日経平均が1万円台を回復し、その後、は大きく下がっていない。

  こうした株価から見れば、「景気は底を打った、回復傾向にある」といっても間違いではなかろう。しかし、アメリカにいても日本にいても、私には景気回復の実感はない。まず、「100年に1度」の危機が、こんなに簡単に克服されてしまうはずがないと思う。また、景気回復は、アメリカ政府のアナウンスに過ぎないと思う。
 政府のアナウンスを大メディアは垂れ流し報道しているにすぎない。実際、街を歩き、人々の暮らしを見聞きし、話を聞けば、実体経済がまだどん底にあることがわかる。このままdouble dip(2番底)に向かう可能性のほうが大きいと思う。


サンフランシスコのジャパンタウンの衰退


 サンフランシスコに行くと必ず立ち寄るのが、ジャパンタウンだ。日本人だから仕方がないが、この街のさびれ方を見るにつけ、日本のアメリカでの存在感がどんどん薄れていくことにもの哀しさを感じる。
 ジャパンタウンが急速にさびれたのは、2006年に近鉄がショッピングモールやホテル事業を手放し、ジャパンタウンから撤退してしまったからだ。このときは、地元紙の『サンフランシスコ・クロニクル』に「ジャパンタウンを救え」という記事が載った。しかし、いまや、そんなことを言い出す雰囲気すらない。リーマンショック以後のジャパンタウンのさびれ方は深刻だ。
 紀伊国屋ビルの2階の日本レストラン「いずみや」はまだやっているが、ほかの店の多くはオーナーがコリアンやチャイニーズに代わってしまっている。

 日本の存在感が薄れ、その代わりに韓国や中国の存在感が増すのは、リーマンショック以後とくに顕著になった。ロサンゼルスのリトルトーキョーのさびれ方も、サンフランシスコのジャパンタウンと同じくひどい。数年前から、街のあちらこちらにハングルが目につくようになった。


中国がナンシー・ペロシ下院議長に大量献金


 今回アメリカに来る前に、ロサンゼルスから鶴亀彰氏が来日したので、お会いしたおりに、そんな話もした。
「中国のアメリカでのパワーはどんどん強くなっていますね。これまでは反中国的な言動が目立ったあのナンシー・ペロシさんも最近はそうした発言はしなくなりました。これは、中国系の団体が彼女に大量に政治献金をしたためです」と、鶴亀氏。
 たしかに、あれほど中国の労働者の待遇問題を非難していた彼女の発言は、最近ピタリと治まっている。

 日系人は昔から政治献金に積極的ではないが、最近はまったくしていない。日本政府も日系人を使ってロビーイングをすることに積極的ではない。それなのに、普天間基地の移転問題で、アメリカに対して突っ張ってみても効果などあるわけがないと、私は思う。
 ちなみに、ナンシー・ペロシ下院議長はサンフランシスコを選挙区とし、「サンフランシスコ・リベラル」の代表的存在だ。スタンフォード留学生でサンフランシスコと縁が深い鳩山首相だけに、西海岸の日系社会をもっと活性化してもいいと思う。それは、日本の国益に必ずかなう。


インターネットを駆使した日本の情報発信


 鶴亀彰氏は、68歳。普通なら現役をとうの昔に引退していいはずが、ここ数年は太平洋戦争で戦死された父親の足跡を追ったノンフィクション2冊(『日英欄奇跡の出会いー海に眠る父を求めて』『伊—六六潜水艦 鎮魂の絆』)を書き、いまはインターネットテレビという新しい事業を始めている。この事業は、ネットとおして日系社会を活性化させ、海外に住む日本人のネットワークを強化していきたいという鶴亀氏の願いが込められている。
                                     http://www.yugobi.com/yugobi_tv.html

 「日本は米国に次ぐ世界第2の経済大国として、政治・外交・軍事的には弱いものの、それなりの誇りとまた評価を得てきました。しかし、その地位はもうすぐ中国に譲ることになります。そうした時代を見据えて、いったいなにができるか。私は日本のよさ、たとえば誇り高い美意識などをもっと世界に広めていきたい」
 と、鶴亀氏。そのために、故郷である鹿児島、薩摩(satuma-spirit:薩摩精神)をまず情報発信していきたいと言う。

 鶴亀氏は、旅行会社の社員として渡米し、その後、日本のアメリカ進出企業のサポート業に転じ、1980年代からハイテク分野の企業コンサルティングを中心に日本企業のカリフォルニアやメキシコへの進出を支援してきた。シリコンバレーの人脈も広く、そのせいか起業家精神はいささかも衰えていない。
 68歳という年齢で、私などよりはるかにITや新メディアを駆使しているのには、本当に頭が下がる。

      

  鶴亀彰氏(右、外国人記者クラブで)            鶴亀氏が書かれた2冊の本

 

いまの株価は、実際の景気を反映していない


 話を戻して、アメリカ経済だが、株価の回復だけでは、経済全般が回復したことにはならない。というのは、公的資金の注入で金融だけが危機を脱したにすぎず、ほかの産業はなにも変っていないからだ。
 金融とIT。この2つ分野で、アメリカはこれまで世界をリードしてきた。じつは金融とITは必要不可分で、IT技術が金融工学を発展させ、いまのアメリカ経済をつくり出した。

 1994年頃からモルガンスタンレーは、大量の大学院卒のエンジニアを採用し、デリバティブ商品をつくりあげた。その結果、ヘッジファンドの大活躍が始まって、以後ファンド資本主義が大発展した。これが、崩壊したのが去年のリーマンショックである。モルガンスタンレーはバブル崩壊が読めたので先に手仕舞いしたが、最後までやり続けたのがリーマンだった。
 リーマンは潰れたが、モルガンやゴールドマンサックスは逃げ切り、政府援助も懐にして、いままたファンド資本主義は息を吹き返し、株価が戻っただけである。

 つまり、いまの株価というのは、IT技術と金融に支えられているだけで実際の人々の経済とはほとんど関係ない。一般の人の生活を反映する景気と、株価がつくり出す景気は別物と言っていい。
 それなのになぜ、多くのメディアはこのことを無視してしまうのだろうか? とくに日本のメディアは株が上がれば、それだけで景気回復という、単純思考にはまり過ぎている。

 それから、ここで書いておきたいのは、日本の金融は文系の人間がやっているということ。これに対し、欧米の金融はエンジニアリングを学んだ理工系の最優秀の人間がやっているということだ。したがって、日本は金融では永遠に勝てない。郵政を民営化しようと、元に戻そうと、エンジニアリング人材がいない金融組織では、いまの資本主義についてはいけない。


アメリカの失業率は発表数字よりはるかに悪い


 さて、カリフォルニア州は、今年2月に財政破綻した。そのせいもあり、いまのカリフォルニア経済は最悪の状態にある。サンフランシスコでもロスでもホームレスの姿がやたらに目につく。
 カリフォルニア州の失業率は全米平均をはるかに超え、12%近い。しかし、これすら実態より低くカウントされているという。
 
 アメリカでは、今年前半まで経済的なデクラインがあまりにも深かったので、失業率の計算モデルが現実と合致していなかったとされるからだ。労働省は、自ら、雇用総数は発表された統計より84万人少なく、失業者数は3万〜4万人も過小評価されている恐れがあると発表した。ということは、実際の失業率はゆうに10%を超えているということだ。カリフォルニア州では15%に達していると見られている。


2012年になると、食糧暴動、税金不払いなど起こる


 先頃、デトロイトでは市役所が市民の生活費を補助する新事業を開始したところ、申請書をもらうために前夜から行列ができ、警備員とのいさかいで暴動が起こりかけている。「いまは一時的な見せかけの回復にすぎない。いずれ、2番底が来て、本当に暴動が起こる」という専門家もいる。未来学者のジェラルド・セレンは、2012年になると、食糧暴動、税金不払い運動、農民一揆、学生反乱、ホームレス蜂起などが、次々と起こると警告している。

 もともとサンフランシスコはホームレスが多い。街を歩けば必ずホームレスに出くわし、「any spare change?」(小銭ある?)と、声をかけられる。メインストリートのMarket Streetを歩けば、Fourth StreetからVan Ness Avenueの間で必ずこういう経験をする。この間が、ホームレスの溜まり場という。
 カリフォルニアは気候がいいから、ホームレスが集まってくる。州都サクラメントでは今年3月、ホームレスシティ(テント村)ができ、メディアに大きく取り上げられた。


無能のシュワルツネッガー知事がしたのは増税だけ


 シュワルツネッガー知事は、いまでは無能知事として誰からも相手にされていない。「政治家をやめて早く俳優に戻ってほしい」と、タクシーの運転手ですら言う。「財政難を理由に、あいつがやっていることは、増税だけだ」と、怒りを露にする者もいた。
 彼がこれまでに実行したことといえば、環境グリーン政策くらいである。ほぼ、すべての分野で雇用を減らしてきた。リーマンショックが起こる前からすでにカリフォルニア州は大不況になっていて、2000年から2007年までに、40万人の製造業の雇用が失われている。これでは、庶民が怒るのも無理はない。

 「最近は、金持ちから州を出て行く。ビジネスをしている人間はとくにそう。重税を嫌って、テキサスに行った人間もいる。なにしろ、同じ建物つくると、ここではテキサスの3倍のコストと3倍の時間がかかるからね」
 「気候がいいなら、フロリダも同じ。金持ちは、いまやフロリダに逃げ出した。向こうに行けば税金は半分だ」
 このような声を聞くと、カリフォルニア・ドリーミングはもう終わってしまったのかと思う。


弱ったアメリカを見捨てる行動はよくない


 日本は、民主党政権になって、確実にアメリカ離れが進んでいる。東アジア共同体に大きく進路を切り替え、今後は日中韓の結びつきがますます強くなるだろう。
 すでに、英国の『エコノミスト』誌などは、「日中同盟」の可能性まで指摘している。「世界第2位と3位の経済規模の日中が組めば世界最強の勢力となる」と、恐れを全面に打ち出しているメディアもある。

 もちろん、経済の面からアジア回帰は仕方がないし、東アジア共同体も構想としては間違っていない。アメリカでも、「それは仕方がない。日本はアジアの国だ」と容認する向きも多い。しかし、弱ったアメリカを見捨てるようなかたちでのアジア回帰は、アメリカの怒りを買うことを忘れてはいけないと思う。

 というのは、アメリカ以上に日本経済は、この20年でズタズタだからだ。概算要求で95兆円も積み上げ、税収以上の国債を発行すれば、いつか国債暴落からインフレが起こる。  
 カリフォルニア州の財政破綻は、そのまま日本の明日の姿だ。