[039]新聞・出版崩壊が続くなかアップルの新型タブレットは、プリントメディアを救えるか? 印刷

2009年11月1日

 ここにきて、噂の「アップル・タブレット」のニュースが目につくようになった。「アップル・タブレット」というのは、アップルが開発中と噂される新型タブレット・デバイスであり、「Apple Slate」とも呼ばれている。
 これができると、アマゾンの「kindle」を超えたデバイスとなり、新聞・書籍のデジタル化はさらに進むとされている。アメリカのニュースによると、『New York Times』紙のエグゼクティブエディター(編集主幹)Bill Keller氏が、10月26日、社内向けに行った内部関係者スピーチのなかで、この新デバイスを「Apple Slate」と呼んだらしい。

 つまり、ニューヨーク・タイムズ(NYT)としては、このアップル・タブレットに大いに関心を持っていて、コンテンツの提供・開発をすでに進めているようだ。

 

オーストラリアの新聞もアップルがすでにスペック送付と報道

 

 報道によると、Keller氏の発言は次のようなものだったらしい。

「われわれはモバイルプラットフォームおよびデバイスに供給する正しいジャーナリスティックな製品を見つけ出す必要がある。『Times Reader』や『iPhone』向けアプリケーション、Wireless Application Protocol(WAP)、近い将来のアップルのタブレット、それに続いてリリースされる製品はなんであれ、最高のジャーナリズムを配信する取り組みと して、報道機関をより積極的に関与させていきたい」

    アップルタブレットは、単なる書籍リーダーではなく、iPhone iPodnの進化デバイスという

 また、オーストラリアの新聞『Sydney Morning Herald』は、10月27日、アップルが、間もなくリリースすると噂される新型タブレット製品のスペックをオーストラリアのメディア企業各社に送付したと伝えた。
 ということは、すでにアップルは、新型タブレットに興味を持つ新聞社や出版社にプロジェクトへの参加を打診しているものと思われる。もし、アップルが新型デバイスで電子ブック市場に参戦すれば、新聞・書籍・雑誌のデジタル化は一気に進み、市場は活性化すると思われる。

 

アップル・タブレットに向けた準備を進めるべきでは?

 

 すでに、アマゾンは「Kindle」で先行し、サムスンも電子ブックリーダー市場に参戦。ソニーリーダーもアメリカでは健闘中だ。さらに先日、書店チェーン大手の「Barns & Noble」は、電子ブックリーダーの新製品「nook」を発表している。これは、「kinnddle]より進化していて、下の部分にカラーのタッチスクリーン液晶が入った、デュアルスクリーン型になっている。また、Androidを搭載しており、購入した書籍を誰かに貸すことも可能だという。

    ←バーンズ&ノーブルの「nook」

 アメリカのこうした動きを見ていると、いかに日本の新聞社・出版社が遅れているのか痛感される。

 アップルの新型タブレットは、噂通りの製品なら、紙に固執して衰退しつつある新聞・書籍・雑誌を救える可能性がある。もはや、プリントパブリッシングにこだわっている時代ではない。アップルが新型タブレットを出すなら、それに向けた仕様で、パブリッシングをやることを考えるべきときに来た。
 こうした可能性にいちはやく賭けた会社が、次の勝ち組なると私は思っているが、どうだろうか。

 ところで、アメリカにおける新聞・出版の崩壊は驚くべきスピード進んでいる。もちろん、日本も同じだが、アメリカはこの問題に、各メディアが積極的に取り組んでいるだけ、日本より救いがある。

 

全国紙『USAトゥデー』は凋落しオンライン化した『WSJ』が首位に

 
 アメリカの主要新聞の発行部数は、この4月から9月までの6カ月間に大幅に減少したことが、新聞・雑誌発行部数の公査機関であるABCから10月26日に発表された。
 それによると、4〜9月の米国の日刊紙379紙の平日版平均発行部数の減少率は、前年同期比10.6%で、過去10年で最大である。

 もっとも減少率が大きかったのは、メディア大手ハースト・コーポレーション(株式非公開、本社:ニューヨーク)の『サンフランシスコ・クロニクル』紙で26%減、次いでニュージャージー州の地方紙『スターレジャー』の22%減。もはや、新聞の部数崩壊は止まらないと見て間違いないだろう。

 ただし、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙は、新聞と会員制のオンライン購読者を合わせ202万部と、0.6%増加。しかも、全国紙『USAトゥデー』を抜いて平日発行部数では首位に立った。『USAトゥデー』は190万部で、17%の減少。『USAトゥデー』は約10年にわたり首位を維持していたが、ビジネス出張の減少で、ホテルへの販売が減ったことが響いたという。

 アメリカにおける新聞の発行部数は、ここ数十年にわたり緩やかに減少してきたが、その減少ペースは、この1年で加速した。このペースが続けば、2、3年以内に新聞の部数は半減する。(以上、 Dow Jones & Co. Inc. より)
 
 1、ウォール・ストリート・ジャーナル:202万4269部( 0.61%増)
 2、USAトゥデー:190万0116部(17.15%減)
 3、ニューヨーク・タイムズ:92万7851部( 7.28%減)
 4、ロサンゼルス・タイムズ:65万7467部(11.05%減)
 5、ワシントン・ポスト:58万2844部( 6.40%減)
               (増減率は4-9月期での前年対比)

 

『ニューヨーク・タイムズ』の大幅なリストラ

 

 このように新聞崩壊が進んでいるのだから、、ニューヨーク・タイムズ社がアップルの新型タブレットに興味を持つのは当然だ。いま、NYTは本当にどん底の状態に追い込まれており、藁をも使いみたいからだ。

 NYTのウエブサイトが、10月19日に報じたところによると、同社は、1300人いる編集スタッフを今年末までに100人削減する計画だという。コストカットではもはや収益の激減をカバーできず、ついに編集スタッフのクビを切らざるを得ないというのだ。

 NYTは、このクビ切りを早期退職制度を通じて行うという。応募期間は45日間。しかし、退職勧奨に応じる人数が必要数に満たない場合、レイオフ(クビ切り)を実施するという。Bill keller編集主幹が従業員あてのメモで公表した早期退職募集要項によると、労組加盟・非加盟の従業員ともに対象になっている。NYTは、この1年間は資金を借り入れたり、資産を売却したり、配当を停止したりして、なんとかしのいできた。また、他社がレイオフに踏み切るなかで、編集部に手を付けることはしなかった。

 Bill Keller氏は「この数年間、他社のニュース編集室が業務に影響するほどの人員削減を迫られるなかで、なんとかわれわれはそれを回避してきた。NYTは印刷部数の調整や営業面のコスト削減によってジャーナリズムを保護することを選択してきた。編集部自体も経営資源の節約と管理に取り組んでいる。今回の措置があっても当社には米国最大・最強にしてもっとも意欲的な編集スタッフが残る」と書いている。

 

神戸新聞によるデイリースポーツの吸収・合併

 

 このBlogで何度も書いてきたが、こうしたアメリカのメディアの動きは、日本のメディアにとって海の向こうの話ではない。じつは、日本のメディアのなかには、もっとひどい状態になっているところもある。そうした状況になる前に、なんとか手を打たなければ明日はないので、たとえば、次のようなことが起こる。

 10月27日の報道によると、神戸新聞社(神戸市中央区)は2009年10月26日、100%子会社の「デイリースポーツ社」を2010年3月めどに吸収合併すると発表した。2010年2月の両社の株主総会で正式決定するとされ、その後『デイリースポーツ』紙は、神戸新聞社が引き続き発行するという。
 広告収入の減少などで、日本の新聞業界を取り巻く環境は悪化の一途をたどっている。今回の合併も、そうした流れの一環で、目的は合併による経営の効率化なのは言うまでもない。

 今後、 新聞ばかりか、出版界でもリストラ、合併の動きが加速するするだろう。もはや、デジタル化しなければ、生き残れない。それは、最近発表された次のような調査結果でも明らかだ。

 

「書籍読まない」40代男性と30代女性が5割超す

 

 楽天リサーチと楽天が運営するオンライン書店「楽天ブックス」の読書調査が、10月26日に発表された。それによると、書籍・雑誌を1カ月に「ほとんど読まない」人が書籍で42.3%、雑誌で40.2%と、ともに大多数を占めた。
 ようするに、いまや日本人のほぼ半分が、本も雑誌も読んでいないのである。

 調査は、2009年8月31日から9月1日にかけて、楽天リサーチ登録モニター(約170万人)の中から、全国の15〜69歳の男女計1200人を対象に行った。

 書籍を「ほとんど読まない」の回答のうちもっとも多かったのが、男性40代で53.0%。次いで女性30代(52.0%)、男性30代(47.0%)と続いている。
 いっぽう雑誌では、「ほとんど読まない」がもっとも多いのは、男性10代で48.0%。ところが女性10代は28.0%で、男性よりはずっと読んでいるという結果になった。
 また、「書籍・雑誌を読む時間」の変化を聞いたところ、2〜3年前と比べ「減った」(「やや減った」と「かなり減った」の合算)は書籍で 40.6%、雑誌で41.6%と、年々読まなくなっている傾向が強まっているのだ。

 この調査では、なにが原因で、書籍・雑誌離れが進んでいるのかは明らかになっていない。しかし、深まる不況と、デジタル化(携帯、PC)の影響であるのは間違いない。そんなことを改めて書く必要がないほどに、時代は変わったのだ。