[042]「事業仕分け」をしているうちにデフレに突入!基地移転も国債発行も迷走。もういい加減に目覚めよ! 印刷
2009年11月22日

 どこに行っても「今年の年末は真っ暗だ」という暗い話ばかりのなか、唯一おもしろいのは、連日報道されている「事業仕分け」での仕分け人と官僚とのやり取りだ。パフォーマンスという批判もあるが、見ていて確かにおもしろい。インターネット中継もされているので、リアルタイムで楽しめる。

 しかし、見ているうちに、だんだん暗い気分になってくる。この程度のことでいいのだろうか? と思うようになり、しまいにはバカバカしくなってきた。

 そんななか、『週刊文春』の“新聞・TVが報じない「事業仕分け」の全内幕”という記事を読んだら、ますます気分が悪くなった。このルポを書いているのは、ジャーナリストの若林亜紀さん。彼女とは仕事をいっしょにしたこともあるので、真剣に記事を読んだが、結局、「事業仕分け」は失敗するだろうと思えてきた。失敗は言い過ぎかもしれないが、日本がこれで変るとはとても思えない。

 

雇用・能力開発機構という数ある独法のなかでも最低の独法

 

 若林さんは自ら「霞が関と闘うジャーナリスト」と名乗り、ブログをやっている。最近は、『国破れて霞が関あり——ニッポン崩壊・悪夢のシナリオ』(文芸春秋)という本を出して、テレビでも活躍中だ。

 聡明で正義感が強い彼女は、民主党政権になって、官僚支配が打破されるのをかなり期待していたと思う。が、その期待も裏切られる可能性がある。

 ■「若林亜紀 霞が関と闘うジャーナリストのブログ」 http://wakabayashi.way-nifty.com/

     若林さんと彼女の著書『国破れて霞が関あり』

 今回、彼女が取材しているのは、独立行政法人(独法)の「雇用・能力開発機構」。数ある独法のなかでも最低の独法で、今回の「事業仕分け」では真っ先に「廃止」にしても、なんの問題もない独法である。

 それが、結局は「廃止」でなく、「見直し」となった。これは、自ら「予算をカットしますから続けさせてほしい」と命乞いし、仕分け人がそれを認めてしまったからである。

 

卒業生学生の1割以下しか指導員にならないという大学

 

 雇用・能力開発機構の財源は、雇用保険である。それをこれまで湯水のように使い、ハコモノを建ててはつぶして、税金を食い物にしてきた。たとえば、総工費455億円をかけたリゾート施設「スパウザ小田原」(現在ヒルトン小田原)をわずか8億円で払い下げたのは、この独法である。

 また、いまは、職業能力開発総合大学という卒業したら職業訓練指導員になれるという学校(大学とはとても呼べない)をやっているが、卒業生学生の1割以下しか指導員にならないというバカな教育をしている。そういえば「私のしごと館」などという、まったく役に立たない施設も運営している。

 ともかく、雇用不安が拡大しているというのに、雇用・能力開発機構は、雇用も能力も開発していないのだから、看板倒れもいいところだ。「税金食い物機構」と名乗って、即刻退場すべきであった。

 

国家の在り方を予算全体の組み替えで実現すること

 

 「事業仕分け」は、11月20日に、最初の1週間が終わり、成果として、政府予算のムダ約1.4兆円が指摘された。だが、このうち、恒久財源として期待できる事業廃止分は、たったの約880億円である。

 その大半は、公益法人に積まれた基金などの国庫返納分で1度使うとなくなってしまうという。今後、政府は、仕分けの対象からはずれた事業にも、「予算削減の基準」を適用し、さらなる予算圧縮を目指すというが、その目標額は3兆円である。

 過去最大の約95兆円となった2010年度予算額に対してみたら、じつに小さな数字だ。

 何十億円、何百億円……何兆円となると、庶民には途方もなく大きな数字なので、想像がつかなくなる。しかし、数字は数字。これをきちんと整理してみれば、「事業仕分け」のバカバカしさがわかる。仕分けの目的はムダを削ることだが、そもそもワーキンググループの作業自体がムダではないだろうか?

 問題の本質は、国家の在り方、それを予算全体の組み替えで実現することにあるからだ。そのためには、国家ビジョンが必要なのであって、こんな細かい作業は二の次でいい。

 

アフガン支援の5000億円で高校無償化ができる

 

 では、民主党がマニフェストで掲げた政策に必要とされる費用、現在話題になっている問題にいくらかかるか、費用を見てみよう。

   ガソリン税などの暫定税率の廃止-----------------------2兆5000億円

   高速道路無料化-----------------------------------------------約6000億円

                        (ただし、試験的な実施予算として)

   子ども手当-----------------------------------------------------2兆3345億円

   高校無償化--------------------------------------------------------4501億円

   八ッ場ダム建設総事業費---------------------------------------4600億円

  普天間基地移転費用(辺野古に建設の場合)-----------------約1兆円

   米海兵隊のグアムへの移転費用------------------------------6000億円

       (日本政府は2006年に約60億ドル負担で米政府と合意している)

   アフガン民生支援費用----------------------------------------5000億円

                      *便宜的に1ドル=100円として換算

ざっとこんなところだ。

アフガン民生支援は、先日、オバマ大統領が来日したときに発表されたが、どのメディアも50億ドルと報道した。このようにドルで報道すると、庶民はわからなくなってしまうが、ざっくり5000億円である。まったく、わざとわからなくしているとしか思えないが、高校無償化は約5000億円だから、アフガン支援をやめればできるし、八ッ場ダム建設をやめてもできるわけだ。

このように俯瞰すれば、スーパーコンピューターの技術開発費用(概算要求額約270億円)削減などを議論しているのは、枝葉末節としか思えない。

 

普天間基地の辺野古移設は日本側の都合である

 

 日米同盟に亀裂が入ると、大マスコミが煽る「普天間基地移転問題」も、じつは予算の問題で、そこまで日本政府が負担するかどうかという問題だ。しかも、バカバカしいのは、辺野古に移設する現行計画は、日本側が持ち出したものだ。アメリカはどこでもかまわないのだ。

 普天間基地は、もともと住宅密集地にあるため危険な飛行場であり、アメリカ軍は1980年代から閉鎖を考えていた。しかも、海兵隊が米本土以外に駐留する意味は、軍事的にほとんどない。それで、嘉手納ならすでに用地に余裕があり、早期の移転が可能で費用もほとんどかからない。だから、そうすればよかったのだ。

 それなのに、なぜ辺野古移設を決めたのか?

 これは大マスコミがあえて報道しないようにしているとしか思えないが、まったくの日本側の事情である。そもそも、冷戦終結以後、アメリカは沖縄から撤退を考えていた。冷戦終結以後は、仮想敵(imaginary enemy)は中国とする向きがあって、そうなると有事(wartime)の際に使える港と滑走路が必要なので、まだ駐留を続けているだけだ。それで、滑走路となれば、沖縄本島より下地島の空港のほうが使いやすいので、アメリカはそちらを希望していた。

それもいまとなれば、中国はアメリカの「戦略的パートナー」(strategic partner)である。敵国ではないのだから、沖縄にこだわる意味などないのだ。

 

全世界のアメリカ軍の駐留費用の半分以上を日本が負担

 

 ところが、日本政府の官僚と自民党は、アメリカ軍に出ていってほしくない。出ていかれると、それまでに築き上げた利権がすっ飛ぶ。それで、思いやり予算というのを思いつき、アメリカ側のジャパンハンドと組んで、ワシントンにロビーイングした。

 これは、アメリカにとっても悪い話ではない。ならば、できるだけ日本からおカネを取ろうと要求を上げてきたのが、これまでの経緯だ。つまり、日本はアメリカ軍を買収したのであり、基地移転などはアメリカが要求したことではない。国民の税金を食い物にしているのは、アメリカではなく、そう見せかけている日本の「政・官・業」の癒着体だ。

 軍事関係者なら、アメリカの国防省発表の資料に目を通しているはずだ。それによると、日本は、在日米軍の駐留経費の4分の3を負担している。なんと、その額は44億ドル(4400億円)である。全世界に展開しているアメリカ軍は、年額160億ドルの駐留経費がかかっているが、その半分の85億ドルは駐留先の国が負担している。

 ということは、日本の44億ドルというのは、その半分以上に匹敵するという途方もない額である。空港使用料を払って駐留している国もあることを思えば、日本がやっていることはバカげている。

 

なぜ大マスコミは問題の本質をすり替えてしまうのか?

 

 しかも、普天間の移設先とされる辺野古では、アメリカがほしいとも言っていない滑走路を2本つくるという。1本でいいのに、ゼネコンと族議員が儲かるから2本にしたとしか思えない。海上ヘリポート案というのもあったが、これだと、地元土建業者に1銭も金が落ちないから取りやめたと言われている。

このように、アメリカは沖縄の海兵隊基地などどうでもいいのだ。

 しかし、こういうことにはまったく触れず、日米関係の先行き不安をすべての大マスコミが煽るのは、本当に納得がいかない。「そんなら、赤字にあえぐ関西空港に移設したらどうだ」というプランが出ているが、このほうがよほどマシだ。関西空港といわず、国内線は1本も飛ばないという茨木空港でも、見物人が乗客より多い静岡空港だっていいだろう。アメリカには反対する理由はない。もとより、建設費用は、ほとんどかからない。

 

とうとうデフレスパイラルに突入してしまった日本経済

 

 さて、事業仕分けの騒動が続いているなか、とうとう、日本政府は「デフレ宣言」をするはめになった。11月21日、政府は、日本経済が「デフレ状況にある」と公式に宣言した。

 ここ数年、デフレはなんとかおさまっていたが、今回の「デフレ宣言」は、事態が一段と深刻化してしまったことを物語っている。日本経済は景気悪化と物価下落が同時に進む「デフレスパイラル」の恐怖に、再び直面することになった。

 600円代ジーンズが登場したことを思えば、当然だろう。スーパーに並ぶボジョレヌーボーは、去年は1000円はしたが、今年は700円代まで落ちた。今朝も、新聞に入っているチラシは激安広告のオンパレードだった。

   新聞に入っくるチラシ激安広告のオンパレード

 ついこの前まで、政府は、景気は回復傾向にあると言っていた。実際、内閣府は11月16日、2009年7~9月期の国内総生産(GDP)の1次速報値を発表した。物価変動の影響を除いた実質GDP(季節調整済み)は、前期比1.2% 増、年率換算で4.8%増となり、4~6月期に続き2期連続のプラス成長。プラス幅は景気が拡大していた2007年1~3月期(前期比1.44%増)以来の大きさで、「景気は急速な悪化から持ち直しつつある」と発表したばかりだ。

 しかし、これはトリックではないが、庶民が錯覚する発表の仕方だ。なぜなら、実質GDPよりはるかに名目GDPが重要だからだ。名目GDPは前期比0.1%減、年率換算で0.3%減であり、6期連続のマイナスなのである。

 

名目GDPの推移を見れば日本が貧しくなっているのがわかる

 

 じつは、日本の名目GDPは、ここ10年間、ほとんど伸びていない。ずっと横ばいかダウンターンで、日本はまったく成長していない。つまり、日本経済は実質的に縮小していて、日本は貧しくなっている。そんななか、庶民がそれほど貧しく感じなかったのは、物価が下がるデフレだったからだ。しかし、今回のデフレはもう慢性化しており、今後は、収入もどんどん減り続けるなかで、デフレスパイラルに陥っていく可能性が強い。

 しかも、日本経済は構造的な欠陥を拡大させてしまった。

 いま、内需拡大が叫ばれているが、それは夢物語である。というのは、ここ10年間、名目GDPがなんとか横ばいで維持できたのは、輸出の拡大があったからだ。1997年に約50兆円だったGDPに占める輸出は、2007年には90兆円代まで拡大した。そして、その輸入拡大をもたらしたのは、中国の成長である。つまり、日本はいまや中国なしでやっていけない状況になってしまった。

  

   「社会実情データ図録」より

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4400.html

  名目GDP(Real GDP)と実質GDP(Nominal GDP)の推移

   

 

経済を中国に依存し、安全保障をアメリカに依存するという矛盾

 つまり、こういうことだ。

 日本は中国で稼がせてもらったおカネをアメリカに貢ぎ、自力による国防(独立)を放棄して国家を運営している。そのアメリカは、国債を中国に買い支えてもらい、中国の顔色を見ながら、世界覇権を維持している。しかし、いまや世界は多極化に向かっており、日米同盟が本当に必要かも疑わしい。このように、日本はいままったく、矛盾した構図のなかにいる。

 この隘路からどうやって抜け出すか、それが、今後、日本人がどんどん貧しくなっていかないためにも、いまいちばん考えなければいけないことだろう。

 

国民1人あたりの借金約678万円をどうしようとしているのか?

 しかし、民主党はどう見ても、お人よしにしか思えなくなってきた。

 いちおう国債発行は44兆円に抑えるとしているが、この程度の事業仕分けでは、この先、どうなるかわからない。景気悪化で、国債増発もやもうえないということになるのではないだろうか?

 財務省は11月10日、国債と借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」の総額が9月末時点で864兆5226億円に達したと発表した。これは、6月末に比べて4兆2669億円増え、過去最大額を更新。10月1日時点の推計人口の1億2756万人で計算すると、われわれ国民1人あたりの借金は、なんと約678万円である。

 日本の名目GDPは、約500兆円だから、もはや返すあてなどない。最近は永田町に行かないので、民主党議員がどのように考えているか、私にはわからない。ただ、以前に何人かの民主党議員を取材したことから思うのは、彼らの多くが楽観的であるということだ。

「自民党が焼け野原にしたあとに政権を取るのだから、死ぬ気でやってよ」と、ある議員に言ったことがあるが、「焼け野原」という言葉にきょとんとされたことがあった。

 

日本がアルゼンチンのようにデフォルトしてもおかしくない

 

 日本経済は一時的に調子が悪いのではない。景気も一時的に悪いのではない。「いずれ持ち直す」なんて考えていても、そんなふうにはならない。日本国債の金利はじょじょに上昇している。あまりに楽観的だと、国債がデフォルトすることもないとは言えないだろう。

 2002年、私はベンジャミン・フルフォードの『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日』を出した。アルゼンチンの国債がデフォルトしたので、日本もその二の舞になってはならないと、あのタイトルを付けた。しかし、いまの状況は、あのときの状況より悪い。

 日本は本当に、アルゼンチンタンゴを踊ってしまうのではないだろうか?