[044]2009年を回顧して思う「今後日本はさらに貧しくなる!」 印刷

2009年12月28日

  有馬記念が終わり、今年も暮れようとしている。ミヤビランベリから買った馬券は、本線が勝ったドリームジャーニーだったが、紙くずになってしまった。思えば今年はことごとく予想(競馬だけの話ではない。公私ともに)が外れ、その対応に追われ続けてあっという間に1年が過ぎた。過去何年かをふり返ってもこんな年はなかった。

  年の瀬にいつも思うのは、来年はどんな年になるだろうか?ということだが、正直、まったくわからない。わかるのは、今年よりさらに混迷化した1年が始まるということだけだ。経済は2番底に向い、政治は混乱し、世界がどう変化しようと、日本は漂流を続ける。人々の暮らしはさらに悪化し、いま以上に多くの希望が失われるのは間違いない。

 

借金で予算を組み、さらに景気刺激でカネを使えば地獄が待っている

 

 民主党が混乱の末に決めた予算案が、それを象徴している。「公共事業を削りながら、国民の命を守る予算に変えた。いままでのバラマキ予算ではない」と、鳩山由紀夫首相は語ったが、わかったのはバラマキをする財源もないことだった。あれだけマスコミが注視した事業仕分けも、捻出できたのは1兆円にも満たない約6800億円だった。

 予算案では、国債発行は当初の目標である約44兆円以下に抑えられたが、税収は予算の半分にも満たないのだから、本来、こんな予算など組めないはずだ。それを、無理やり組んでしまったのだから、今後の反動は大きいだろう。これで、国と地方の借金の合計である長期債務残高は2010年度末で862兆円と、GDPの1.8倍に達する見通しが確実になった。言うまでもなく、先進国では最悪だ。

 日本の国債はほとんどが国内で買われているから問題ない。日本には個人資産1400兆円があると、借金財政を問題視しない向きがある。この人たちは、デフレ対策として、大型の景気刺激策を借金してまでやれと主張する。いわゆるヘリコプターマネーだが、そんなことをしたら、その反動で日本は確実に沈没するだろう。

 亀井静香大臣は吠えまくって威勢がいいが、地獄への道に国民を誘導しているだけだ。目の前の苦しんでいる人々は救えても、未来は救えない。もっと悲惨なことになる。

  

 

社会福祉予算をどんどんつぎ込んでも失業も雇用も回復しない

 

 国民資産1400兆円のうち、住宅ローンなどの資産を引けば、実際に金融機関などにあるのは1000兆円で、国債発行残高が862兆円となれば、あと2年もすれば国内の均衡さえ崩れる。そのときは、もう国債の買い手がいないから、激しいインフレになってもおかしくない。これは経済成長がもたらすインフレではなく、国が信用を失ったことで起こるインフレだから、日本経済は破綻する。

 失業率がどんどん上昇し、就職も超氷河期入り。これを解決する手立てはない。福祉予算でこれを解決できないのは明らかなのに、なぜ、雇用対策をやれと主張する人々がいるのだろう。派遣労働者の待遇を改善し、最低賃金を引き上げるなどしていけば、企業は日本を見捨てる。実際、もうほとんどの企業が日本に見切りをつけているから、来年からはどっと国外に出ていくだろう。雇用が増えるのは、企業が進出した地域(中国やほかのアジア諸国)だけだ。なぜ、企業減税をやらないのだろう。

 中小企業が日本経済の核。ものづくりが日本の底力などと言っている人々も、そのうち、そう言うこともできないほどの悲惨な現実に、自分の主張の間違いを思い知るだろう。日本の高いとされる技術力も、投資資金も市場もなければ、あっという間に崩壊する。すでに日本は、売れる技術をほとんど持っていない。誰も必要としていない高い技術があるだけだ。

 そのことをマスコミは書かない。

 

アメリカが怒っていると演出したい勢力に加担する大メディア

 

 それにしても、最近のマスコミは、全体的な視点が欠けている。さらに、どこかにコントロールされているのではないかと思われるほど、ねじ曲がった視点でニュースをただ垂れ流しているだけだ。

 普天間基地移転問題から発生した「アメリカは怒っている」式の話は、まったくのデタラメだ。アメリカにもっと怒ってほしい人々が日本にいて、その人々の主張が大新聞を動かすのを見ていると馬鹿らしくなる。アメリカは、海兵隊をグアムまで引くうえで、日本に移転費用を高くふっかけたいだけだ。海兵隊は、辺野古などまったくほしがっていない。

 クリントン米国務長官が、普天間基地移設問題で藤崎一郎駐米大使を呼び付けたと、大新聞は書きまくった。藤崎大使が記者たちにそう語ったから、記者たちはそう書いたのだという。「駐米大使、異例の呼び出し」「米国が強い不快感」という報道は、翌日、クローリー国務次官補が会見で「呼んでない。(藤崎)大使が立ち寄った(stop by)のだ」と明かしたため、大使のでっち上げだったと判明した。しかし、なぜこうなったかを検証するマスコミはなかった。

 

地球は温暖化などしていない。大失敗に終わった「COP15 」をちゃんと報道しろ

 

  環境問題もまたそうだ。地球温暖化問題を、これまで日本のメディアは真剣に取材してこなかった。単に「地球を救え」というスローガンに乗って、垂れ流し報道を続けてきただけだ。だから、今回のコペンハーゲンでの国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP15)が、大失敗に終わったというのに、逆の報道をする始末だ。

  たしかに、今回の会議では合意文書が採択された。しかし、その中身はからっぽで、具体策はなにもない。大まかに言えば、各国が(地球温暖化対策=CO2の削減)に留意する(take note)というだけだ。

 つまり、2週間も各国首脳が話し合ったことは、壮大な無駄に過ぎなかった。しかも、直前に、温暖化はヤラセであるというクライメートゲートが起こり、次々とデータのねつ造が明らかになってしまった。そのため、会議は紛糾し、結局、決まったのは数値目標ではなく、先進諸国による発展途上国援助だけだ。今後、先進諸国は発展途上国の温暖化対策のために資金や技術を提供し、その資金(Green Climate Fund)の財源や使途を決めるために国際的な高官協議体(High Level Panel)を設立するといういのだから、バカバカしくて話にならない。

 もし、今後、温暖化が人為的な産物ではないとされたら、この資金はどうなるのか?しかも、資金は、全世界の国際金融取引に対して微少な比率の課税を行う「トービン税」で賄われる可能性が強い。これは、国家ではない世界機関が全世界に対して課税を行えることを認めたことだから、今後の世界の構造は大きく変わる可能性がある。

 しかし、日本のマスコミは、「合意」という言葉にふり回され、このような重大な事実をほとんど報道しなかった。

 

アメリカも日本もダメ。とくに日本は死んでも内需拡大はできない

 

 リーマンショックから1年と4カ月。クリスマスイブ(12月24日)のNYダウは、5日続伸し、1万520.10ドル、ナスダック総合指数も2285.69ポイントと今年年初来の最高値となった。まさに、クリスマスプレゼントだが、アメリカ人自身は、ボーナスが史上最低となった日本人と同じように、どんどん貧しくなっている。アメリカ商務省によると、全米の11月の新築住宅販売件数は11.3% も下がり、今年3月以来の最低を記録している。

  住宅がダメだと、アメリカ人は住宅を担保にしたリファイナンスで買い物ができないから、貧しくなるだけだ。

  結局、消費は戻らず、もはや日本はアメリカ頼りの経済運営はできない。

「内需拡大を」という声があり、そうしなければならないと民主党政府も識者も言うが、これはハナからできない。明治以来、日本の近代化は、すべて外需拡大によって行われてきた。それを急にやれると信じている方々は、お目出度いと言うしかない。日本には、もともと内需などないのだ。

 成熟社会という言葉も虚しい。成熟社会には、それなりの内需があると考えているようだが、外からおカネが入ってこなければ、社会は成熟しない。

 

日本、アメリカが貧しくなる分、中国など新興国が豊かになる

 

 ドルの暴落も依然としてささやかれている。たしかに、アメリカの力は衰えている。それにより、日米関係もおかしくなっているから、普天間基地移転問題のようなことが起こる。冷戦が終結したとき、わずか20年前だが、ポスト冷戦におけるスーパーパワーとなったアメリカの世界戦略は、日、英を従え、中国を包囲し、ロシアの台頭を抑え込み、中東の原油を確保する、というものだったはずだ。

 しかし、いまやイギリスはアメリカから離反しつつあり、日本の民主党もその素振りを見せている。民主党の「アメリカとの関係を危うくする」というマスコミから袋叩きの姿勢がじつは高等戦術だとしたら、評価できなくもないが、どうやらお人よしだけのようだ。

 COP15を見ても、G8に代わるG20を見ても、もはや新興国、中国、インド、ブラジルなどの興隆は、世界を変えつつある。いくらなんでも中国があと20年も同じように成長していくとは考え難いが、あと10年は成長が続くだろう。そのときは、沿海部の2億人ほどは日本人と変わらない生活レベル、給料レベルに達する。

 まさに、世界はフラット化するのであり、日本人やアメリカ人が貧しくなる分、新興国の人間が豊かになるのは当然だ。それがイヤなら、国を閉じ、グローバル経済に背を向けるしかない。

 

アメリカ、中国の間でずっと漂流を続ける可能性が強い

 

 今後の日本は、アメリカを取るか、中国を取るかの選択に迫られる。小沢一郎は「米中とイーブンなトライアングルの関係」を理想としているようだが、それは幼児発想か、あるいは、本心は違う表向きのプロパガンダだ。千年、二千年のスパンで見れば、日本はアジアの秩序のなかで暮らしてきたので、当然、中国に回帰しなければならない。歴史的に見れば、こうなるのは間違いない。

 このアジアにアメリカがやって来たのは、たかだか150年ほど前のこと。日本人は黒船が日本に開港を迫るために来たと勘違いしているが、黒船の日本寄港はアメリカの対中国政策の一部にすぎない。 だから、日本がもたもたしていると、アメリカは日本を捨て、中国に大接近することも考えられる。

 しかし、多くの日本人は、中華秩序の中に入るのを嫌う。どうしてもアメリカを捨て切れない。どちらかと言えば私も、気持ちのなかでは、アメリカと仲良くしたほうがいいと思っている。

 アメリカか中国か? このジレンマに、今後の日本人は悩み続けなければならない。

 ただ、多くの日本人が、英語も中国語もダメ、両国の文化もよく理解できていないことを思うと、漂流国家になる可能性がいちばん強い。

 

円より人民元のほうが信用できる時代がやってくるのか?

 

 今年、私の周囲では、強くなる人民元を見越して、人民元口座を開いた人間が何人かいる。オフショアである香港のHSBCでスマートバンデッジなどの口座を開くのはもはや当たり前だが、最近は、上海などで中国銀行に直接口座を開く。中国の主要銀行は、いまは、外国人でも簡単に口座を開ける。どの銀行も面倒な書類は必要でなく、身分を証明するもの(パスポート)と少額のお金(人民元)があば、あとは1枚の申込書に氏名や住所などの記入をするだけですぐに開設できてしまう。

 人民元がやがて国際通貨になるかどうかには賛否があるが、あと10年成長を続ければ、そうならざるを得ない。また、国際通貨になるかどうかは置いておくとしても、今後、さらに強い通貨になるのは間違いない。ドルにペッグしているので、現在の円高からみたら不利かもしれない。しかし、人民元投資は、私の周囲では日常化してきた。そういう目で見ると、民主党の「東アジア共同体」も違った見方ができる。

 日本の株価はいま1万円台維持がやっとだ。これは、1984年のバブルが始まる前の水準である。また、名目GDPはこの20年間で約100兆円増えただけ。経済成長率は、過去20年間の平均がほぼ1%である。つまり、この国では、過去20年間、いくら貯金しようと投資しようと、おカネは増えなかったのであり、今後もずっとそうだろう。

 いや、下手をすれば、今後はインフレによる資産の目減りで、円は紙くず化するかもしれない。

  

 

「コンクリートから人へ」は「今後もっと貧しくなる」という意味

 

 こんな日本を救う方法は、本当はいくらでもある。それは、大型経済対策ではない。開国だ。規制の撤廃である。日本をガラパゴス化させてしまった壁を思い切って破壊しないと、本当にガラパゴス島になってしまう。

 外国人労働者の受け入れ、金融市場のさらなる開放、大幅な企業減税、農業補助金の停止(バカみたいにコストのかかる農業はやらない)、各国とのFTAの積極的な提携、自由貿易ゾーンの設置、原子力発電の推進、役人の大量解雇など……挙げていったらきりがないが、ともかく、思い切った開国をしないかぎり、日本は衰退するだけだ。

 民主党はなぜか、イギリスが大好きで、議会のお勉強に議員たちが出かけている。イギリスばかりか、社会保障や福祉となると、民主党は欧州が大好きだ。しかし、欧州のような社会は、まったく日本向きではない。イギリスやフランス、そして北欧諸国など、日本がまねればまねるほど失敗するだろう。

 いずれにせよ、「コンクリートから人へ」をやりたくても、財源がなければできない。つまり、この民主党の政策は、日本は今後もっと貧しくなるということを言っているにすぎない。

 

競馬の売上も出版産業の売上も1996年をピークに減少。なぜかぴったり符合

 

 さて、私がいる出版業界に移るが、今年は、大変な年だった。そして、来年はさらに大変な年になるのは間違いない。もはや、このブログや連載記事に何度も書いたように、紙メディアは限界に達し、オフラインからオンラインへ、ブロードキャスティングからネットワーキングへと、もっと激しいスピードでメディアは変わっていくだろう。

 そのなかでなにができるか?

 じつは、そのことを新年になったら、真剣かつ具体的に考えようと思っている。

 最後に、このブログの冒頭に書いた有馬記念だが、今年の売上は約404億4410万円。 前年比94.3%と、リーマンショック後の昨年より、さらに大幅に落ち込んでいる。有馬記念の売上がピークだったのは約875億円を達成した 1996 年で、以来ずっと売上は減少してきた。出版界の売上も1996年の約2兆6000億円をピークに、以来ずっと減少して、今年はとうとう2兆円を割り込んだ。

 有馬記念に象徴される競馬の売上と出版界の売上は、不思議なことに符合している。それは、日本経済の衰退と、日本全体が貧しくなっていく過程と見事に一致している。

   

  第54回有馬記念優勝馬のドリームジャーニー(photos by asako mori)

 *使用した図表は「社会実情データ図録」のものです(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/index.html)