[049]日経新聞が始める「電子版」課金モデルが成功する可能性はあるのか? 印刷
2010年2月7日

日本経済新聞が、4月からスタートする「電子版(Web刊)」に関して、各方面から危惧する声が上がっている。というのは、新聞の電子版の有料化がアメリカではことごとく失敗しているからだ。かろうじて『WSJ』(ウォールストリート・ジャーナル)の電子版『Wall Street Journal Digital Network)が黒字化に成功しただけで、なかには有料化したとたんにPVが急降下、申込者が100人も集まっていないというニューヨークの日刊紙『ニュースデイ』のような悲惨な例もある。

   このほど、2011年から有料化宣言した『ニューヨーク・タイムズ』も、この宣言前の2009年12月のウェブサイトのユニークユーザー数は1484万9000人と、前年同期比で18.4%も落ち込 んでいる。だから、「有料化などして本当に大丈夫なのか?」という声がほとんどだからだ。

   新聞の電子版の有料化は、『WSJ』の成功を見て、各社が再度挑戦する気になったという経緯がある。なぜなら、ニューヨーク・タイムズは一度課金制にして大失敗し、2007年にあわてて無料に戻しているからだ。では、なぜ、『WSJ』だけが成功したのだろうか?

 

   ニューズコーポレーション(News Corp)がこのほど発表した2009年会計年度第2四半期(2009年10月~12月)決算によると、『Wall Street Journal Digital Network』のオンライン広告売上は、前年同期比17%増となっている。しかも、『WSJ』本紙(プリント版)の広告売上も、なんと同5%増とプラスに転じている。苦境にあえぐアメリカの新聞のなかで、まさに一人勝ちという状況だ。

 ← News Corpの第2四半期決算

   だが、この状況をつくりだしたのは、電子版の課金モデルが成功したというわけではない。『WSJ』だけは特殊なケースだと考えなければならいと思うからだ。日経新聞が電子版有料化モデルの創設に踏み切ったのは、『WSJ』の成功があったことも大きいと思う。同じ経済専門紙ということもあり、やってみようという気になったのだと思う。

 

   しかし、『WSJ』は、とくに電子版は、読者は全世界にいる。アメリカだけで読まれているわけでない。ウォールストリート発の経済ニュースを必要としている人々は、じつはアメリカ国内より、国外のほうがはるかに多いのだ。だから、これまでプリント版を購入していた読者は、電子版が有料化されようとついてくる。かえって電子版のほうが便利である。また、電子版を無料で見ていた読者も、課金制になったとしてもついてくるのだ。

 そしてもうひとつ。『WSJ』は英語である。全世界に10億人以上いる英語人口を相手にしている。さらに、各国では他言語版も運営している。もし、私が個人投資家で、英語になに不自由なければ、『WSJ』の電子版の購読料を払うのに躊躇はないと思う。

 

   日経新聞の電子版は、PCとケータイの両方からアクセスでき、「My日経」と呼ばれるカスタマイズ機能も備えているという。購読料は、電子版だけを契約すると月額4000円で、月額4300円の紙媒体とあわせて契約した場合、「紙媒体プラス1000 円」で電子版も読めるという。これに対して、『WSJ』日本版の購読料は1980円である。

   東京発の経済ニュースを日本語で発するサイトを必要としている人々が、世界にどれほどいるだろうか? 

   日経新聞の2009年決算(単体ベース)は、売上高が前年比9.6%減の約1790億円であり、約60億円の営業赤字を計上している。大手新聞がみな赤字になるなかで、日経だけは大丈夫と言われたが、日経も例外ではなかったことがこれでわかってしまった。こうなると、もう「後に引けない状況」と思うが、巷の声の指摘どおり、電子版の課金モデルが成功するとはとても思えない。