[052]官民合同で電子書籍の話し合いが始まったが、本当にまとまるのか? 印刷

 2010年3月18日

 3月17日、総務、文部科学、経済産業の3省は合同で、電子書籍の普及に向けた官民共同の懇談会の初会合を開いた。これは、今後の電子書籍の普及を見据えて、統一規格、流通、著作権等の整備を話し合っていこうというものという。

 しかし、こんな話し合いが本当にまとまるのだろうか? 少々考えてみたい。

 

あと3カ月ほどでなにができるのだろうか?

 

  この会合の座長は、末松安晴・東工大名誉教授。参加メンバーは、権利者(作家)からは阿刀田高・日本ペンクラブ会長、新聞界からは内山斉・読売グループ本社社長、出版界からは相賀昌宏・小学館社長、書店からは大橋信夫・日本書店商業組合連合会代表理事など。これに、通信は鈴木正俊・NTTドコモ副会長、村上憲郎・グーグル名誉会長、メーカーからは安達俊雄・シャープ副会長などが加わった。

   この状況を、新聞各紙は「米国ではア マゾン・ドット・コムの情報端末「キンドル」が急速に普及する一方、日本での電子書籍への対応は遅れている。国が関与して国内ルールを整えることで、中小の出版業者の保護を図る狙いがある」(日経新聞)などと伝え、「6月に中間報告をまとめる」と書いている。

  しかし、6月といえば、あと3カ月ほど。中間報告とはいえ、結論らしきものなにも出ないのではと、私は思う。

 

 参加メンバーの利害は衝突している

 

 電子書籍が普及すれば、出版社も流通も書店も中抜きされるのは、ほぼ間違いない。「資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」(総務省幹部)という通りのことが起こる。とすれば、出版社などのコンテンツメーカーを守るためには、これまでの著作権・出版権のあり方(著作権は著者に帰属する)を変えなければならない。しかし、それは著作者側の権利を縮小することになり、ここでメンバーの利害は衝突する。たったこれだけでも、まとまりそうにない。

 内藤正光総務副大臣は会合後の記者会見で「(電子書籍事業で先行する)アマゾン・ドットコムやアップルに勝る魅力のある市場をつくっていきたい」と意欲を語ったが、この意味するところは、オールジャパンでプラットフォームと統一規格をつくるということなのだろうか?

  すでにアメリカではアマゾンをのぞいてePub方式でまとまってきている。それなのに、日本はまた別方式をつくるのだろうか?「そんなことは無駄だ」という声が強い。

 

なぜ、使う側、ユーザーが参加していないのか?

 

  また、この会合に、ユーザー側、つまり電子書籍を購入する側がまったく参加していないのは、どう考えてもおかしい。ユーザーにとっては、書籍が電子化することのほうがはるかに利便性がある。不便な紙の書籍を高い定価で買わされている現状からすれば、電子書籍は大歓迎である。つまり、ユーザー側もこの会合参加者の利害とは対立してしまう。

  ということは、この会合は結局、まとまらないのではないかと思う。

  ああでもないこうでもないと話し合っているうちに、アマゾンもアップルもどんどん先行し、気がつけば日本はまたしてもガラパゴス化しているのではないだろうか? アマゾンがいつキンドルストアを日本でオープンするか? アップルがいつiBook Storeに日本を入れるのかはわからないが、それにしても、日本の対応は遅すぎる。

  すでに、キンドルでは日本語のコンテンツがアップされている。

 

電子書籍でもガラパゴス化する日本

 

  そしてもうひとつ、心配な点がある。それは、メンバーのほとんどの方の頭にあるのが、現在ある書籍コンテンツのデジタル化であることだ。今後の書籍を考えると、それは紙という制約を受けないから、音声、映像も取り込んだものに発展していくのは間違いない。そのときも見据えて、規格も権利関係も考えなければならないが、どうやら議論はそこまでいっていないようだ。

 いまや、欧米ばかりか、中国でも電子書籍化は進んでいる。韓国もそうだ。このままでは、アジアからも日本はガラパゴス化してしまうのではないか?