[059] 英語も経済もITもわからない、そんなリーダーはいらない! 印刷
2010年 6月 29日(火曜日) 21:10

今夜はサッカーW杯の日本―パラグアイ戦とあって、大きくは報道されていないが、日本の将来にとって深刻なニュースがある。それは、カナダで開催されたG8、G20を終えた菅首相の「総括会見」。ここで、管首相は、次々と言い間違えをしたというニュースだ。
 まずは、「G8」を数回「G7」と発言。さらにインドやインドネシアとの首脳会談に触れるなかで「エマージング・カントリー(新興国)」と言うべきところを「エマージェンシー・カンパニー」と言い放った。これでは、「非常事態の会社」だ。続いては、人名。韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領の名前を「イ・ミョンビャク」、ロシアのメドベージェフ大統領を「メドメージェフ」という有様。これでは、漢字が読めなかった麻生元首相よりひどい。

 どの報道を見ても、首相としての初外交で「相当お疲れだった」ということで終わらせているが、ことはその程度のことだろうか? いくら疲れていても、ここまでの間違いをおかすだろうか? 酩酊会見でろれつがまわらなかった中川昭一状態だったわけではない。疲れたぐらいで、人間は人名を間違えない。とすれば、はじめからこの人は、G8とG7の違いも知らず、もちろん、英語もわからず、他国の首脳の名前も詳しくは知らなかったことになる。

 

人がいちばん好きな言葉は自分の名前だから、間違えてはいけない

 

 外国人と付き合うとき、いちばん大事なのは、まずはその人の名前を正確に覚えることだ。そして、それを発音できるかどうか常に気にする。なぜなら、名前はどんな人間にとってもいちばん大切な自分そのものであり、それを言い間違えられたら、気分を害するからだ。発音まで気にするのは、名前はその人の親が付けたものであり、子どもの頃、親からそう呼ばれて嬉しかったからだ。


 だから、人間はいくつになろうと、親から呼ばれていた名前を言われると、素直にうれしい。この私も、名前が「順」で、子どものときは「順ちゃん」と呼ばれていたから、この年になっても「順ちゃん」と呼ばれると素直にうれしい。
 つまり、人がいちばん好きな言葉は自分の名前で、優秀なセールスマンは相手の名前を一回で覚え、その後、それを連発する。そのほうがモノは売れるからだ。

 日本は他者をいたわる「おもてなしの文化」が発達した国だという。ところが、外国の地名や人名を、日本語文脈のなかで勝手に日本語表記に置き換えてしまう。英語はカタカナにし、中国語は漢字を日本語読みにしてしまう。そして、このことになんの罪悪感も抱かない。外国語を学んだ者だけが、常にこのことを意識して正確な発音を心がけてきたが、一般はそんなことなどおかまいなしだ。

 ジェニファー・ロペスをジェニロペ(本当はジェーロー)と略してみたり、中国首相・胡錦濤はフージンタオなのに「コキントウ」と漢字の日本語発音で通してしまう。管首相の今回の発言は、日本記者団に対してだから救われるが、もし、目の前に本人がいたら大変なことになる。人名はともかくとしても、「エマージング・カントリー」を「エマージェンシー・カンパニー」といいうのはひどい。これで英語がまったくダメであるということのほかに、国際感覚、経済感覚もまったくないないということがわかってしまった。こんな首相では、日本は持たない。

 

なぜ日本だけ例外的に「財政再建しなくていい」のか?

 

 ここ2、3年が日本にとっての正念場で、ここで失敗すると奈落の底に沈む、とものをわかっている層は考えている。とくに富裕層はそうだ。それは、前回のこの欄に書いたとおりだ。
 そういう視点で、さらに今回のサミットを見ると、日本だけが財政再建の例外とされたことは、とんでもないことだ。これをしたり顔で、「日本の国債は引き受け手の95%が国内だから、ギリシアや欧米各国とは違うため」と解説する向きがあるが、要するに、日本の財務省が懇願して例外にしてもらっただけである。もっとはっきり言うなら、「そんなら勝手にすれば」と相手にされなかったわけで、日本の立場が尊重されたわけではない。

 今回のサミットは、「成長に配慮した財政健全化」との基本原則を打ち出しことが大きな成果だ。つまり、性急な財政引き締めに動かないよう配慮したうえで、先進国については「2013年までに少なくとも財政赤字を半減させる」との数値目標を明記した。ところが、日本については目標達成を強制しない「例外扱い」とし、数値目標を当てはめないことになった。もし、当てはめれば、当然、国債発行を大幅に減らさなければならず、来年からの予算は組めない。世界の先進国で、こんな国は日本だけだ。

 以上2点が本当にやりきれなくなるニュースだが、日本の一般感覚ではそうでないようだ。どうやら、一般国民は「おカネなど多少なくとも、心が豊かならいい」「豊かさより格差が少ないほうがいい」と考えているようだ。そして、世界の動き、IT情報革命の動きなどを見て見ぬふりをしている。

 じっくりと世界を見れば、中国の成長は言うまでもなく、経済は最悪期を脱して企業業績も回復してきた。日本企業もその恩恵にあずかっているが、世界企業と比べたら業績回復はヒトケタもフタケタも違う。アメリカのIT産業やサムスンなどが数千億円という回復を見せているのに、日本企業は数十億円、数百億円単位だ。
 しかも、グローバル経済のなかで、日本企業の業績回復は、そのまま日本人の幸福にはつながらない構造になっている。

 

経済再生提言に欠けている「クラウドコンピューティング」時代の視点

 この5月に読売新聞が発表した「緊急提言 経済再生」という小冊子を、改めて読んでみた。

 <日本経済は今、衰退の縁に立たされている。一部に景気の回復傾向は出てきたものの、深刻さを増す「10年デフレ」に克服のメドは立っていない。経済は低成長にあえぎ、財政は破綻の瀬戸際にある。一刻も早く鳩山内閣は財源なきバラマキ政策を改め、成長を促す政策に転換しなければ日本は危機から脱することはできない。法人税実効税率の20%台への引き下げを目指すとともに、新たな通商戦略を策定するなど、読売新聞社は経済再生に向けた5項目の緊急提言をまとめた。>

 とあるように、ここには相当な危機感がある。しかし、一般国民は、ここまでの危機感はないようだ。

読売新聞社が提言する「経済再生」の小冊子と、デイリーヨミウリの同じく別刷り英文論文

 この読売の提言は、かなり現実を直視していて、それなりに説得力がある。しかし、成長戦略で一つだけ、大きく欠けている部分がある。それは、現代がコンピューティングが全産業を動かす情報時代という視点で、それにどう取り組んでいけばいいかほとんど触れていないことだ。
 クラウドコンピューティング時代に突入し、あと数年でそのデファクトがアメリカ勢(グーグルやマイクロソフトなど)に握られてしまうというのに、そんな危機感はゼロだ。アメリカはすでにA.I.を本気で開発する段階に入っていて、ここまでいくと全国家、全産業、全人類が、アメリカの情報ベースに組み込まれる。そういう社会は目前に迫っている。それなのに、単に、官民一体で鉄道や水などのインフラ技術を輸出するとか、アジアの成長を取り込めなどと提言しているだけだ。

 日本には、クラウド時代に、すべての情報を一元化できる巨大なインフラが必要で、それに積極投資しなければ、情報化時代の国家は成り立たなくなる。中国がグーグルと決裂したのは、そうした時代への生き残りを賭けてである。

 

管首相はもしかしたらIT分野でも無知なのではなかろうか?



 若い世代ほど(もしかしたら一部かもしれないが)、来るべき時代が予見できていると、最近思っている。それは生まれたときからデジタルで育ち、バブル経済のような最後のアナログ好況を知らないからだろう。また、若ければ、アニメ映画『時をかける少女』『サマーウォーズ』などを見ただけで、直感的に理解できるからだろう。


 大人たちは、いまだに日本のIT産業を世界最高水準にあると思い込んでいるが、世界経済フォーラムのICTランキングでは、日本は韓国にも抜かれて10位以下である。クラウドコンピューティング時代の覇者はどこかという競争が行われている時代に、私を含めて年輩世代はまったく対応できていない。そこで、話を戻すが、管首相は、こうした点もほとんど理解できていないと思われる。
 経済も英語もITもダメな人間が、今後の日本の舵取りをできるわけがない。この点では、鳩山前首相のほうがマシで、彼は就任間もないときに、幸夫人と『サマーウォーズ』の試写会に出かけている。

 いまの日本の若い世代は、本当に不幸だと思うことがある。高齢化社会の弊害で、上には時代がわからない大人たちがひしめき合い、今後の人生に必要なことはなにひとつ教えてくれない。政治家から企業トップ、学校教師にいたるまで、旧来の世界の話しかしない。そして、就活や婚活では、旧来のマニュアルを叩き込まれる。
 とくに、日本の若者たちが不幸なのは、英語を意図的にしゃべれなくさせられる教育を子どものときから強制的に受けさせられていることだ。日本の英語教育は英語を話せなくさせる教育だ。

 中国も韓国も母国語と英語とのバイリンガル国家になろうとしているいま、日本の次世代だけが母国語のモノリンガルでは、就職などない。

 

いまや日本の若者ですら日本企業には就職できない

 

 今年は、大学生の就職難が深刻化し、超氷河期になっている。この時期、街でリクルートスーツに身を包み、会社回りをしている大学生を見かけると、胸がきゅんとなる。というのは、私の娘もつい3年前、同じように就活し、「どこか私を採用してくれる会社があるかな」と、毎日、不安でいっぱいの生活をしていたからだ。いまや就活のマニュアルは全面的に書き換えられるべきだ。
 そうしないと、今後、日本人は日本企業にすら就職できなくなる。

 たとえば、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングでは、2010年の国内新卒採用者約200人のうち、外国人が約100人。2011年も国内新卒採用約600人のうち、半数を外国人にするという記事が先日出ていた。すでに、楽天は社内言語を英語にしたし、パナソニック、ローソンなども外国人学生採用を大幅に増やしている。楽天は2010年度の国内新卒採用者約400人中、外国人が17人で、現地採用では中国で15人、インドで21人を採った。2011年度は国内新卒採用450~500人のうち、70人程度を外国人で増やすという。 

 パナソニックの場合、2010年度新卒採用1250人のうち海外で外国人を採用する「グローバル採用枠」は750人。2011年度は外国人の割合を増やし、新卒採用1390人のうち、「グローバル採用枠」をなんと1100人にする。残る290人についても、日本人だけを採るわけではないという。  
 ローソンは、2008年度から外国人留学生の新卒採用を始め、2010年度は新卒採用者88人中17人が外国人。これまでに中国、ベトナム、韓国、台湾、インドネシアなどの留学生を採用した。2011年度は60人中20人が外国人となる予定という。

 こんな状態だから、日本の大学生は、外国企業(外資)となるともっとハードルが高い。外資といっても欧米企業ではなく、たとえば韓国のサムソン、インドのインフォシスなどでもとても無理だ。サムスンはTOIECで900点以上が要求されるし、英語ができなければインフォシスなど相手にもされない。

 

外資企業にも見捨てられ、日本企業も出ていくという現実

 

 この欄の前の記事でも書いたが、いま、日本は本当に空洞化しようとしている。日本企業はこの先、どんどん国を出ていく。経済産業省の調査によると、日本の製造業283社のうち、生産機能の海外移転を検討している企業は90社にのぼり、「移転しない」とした84社を上回っている。さらに、研究・開発機能でさえ38社が検討中と答えている。


 当然、外資はとっくの昔に日本を見捨てている。ノバルティスは2008年、茨城県つくば市にあった研究所を閉鎖した。P&Gは、2009年、アジアにおける商品開発やマーケティング拠点を神戸からシンガポールに移してしまった。私はつい先日シンガポールに行ったが、日本のゴールドマンサックスのバックオフィスにいた人間の多くが、東京から移ってきていた。

 

英語も経済もITもわからない、そんなリーダーはいらない

 参議院選を前にして、民主党の政策がバラバラの中身のないものだとバレてきた。管首相の消費税発言は党内合意に基ずくものではないこと。小沢前幹事長が、「マニュフェストをいまさら変えるのはけしからん」と発言したことなどが、報道されている。


 みんなの党の渡辺喜美代表は6月28日、日本外国特派員協会で講演し、民主党の枝野幸男幹事長が参院選後のみんなの党との連携を示唆していることを痛烈に批判した。「民主党から見れば、実に賢い党改革派のイメージアップ作戦。みんなの党の支持層の引っぱがしだ」と述べたうえ、「みんなの党から見れば、悪質な選挙妨害だ。顔を洗って出直してこい」と言う始末である。

    『FREE』by Chris Anderson

 今夜のW杯は、日本を全力で応援するが、菅直人ジャパンだけは応援どころか、一刻も早く消えてほしい。英語も経済もITもわからない、そんなリーダーはいらない。私は、いま新しく挑戦する「電子書籍とソーシャルメディア」ビジネスのために、クリス・アンダーソンの「フリー」を、娘から借りて必死で読んでいる。そして、つくづくIT世界と英語に遅れてしまったことを後悔している。IT関係の英語(テクニカルターム)の概念がわからず、読みながらPCで検索をくりかえしている。バイリンガルの娘はこの本を2、3日で読んだが、私は悪戦苦闘している。