[068]アメリカの電子書籍ついに全書籍売上の10%に!で、日本の電子書籍市場を考える 印刷
2010年 10月 26日(火曜日) 18:32

IDPF(International Digital Publishing Forum:国際デジタル出版フォーラム)と、AAP( Association of American Publishers;米国出版社協会)がこのほど公開した2010年8月データから推察すると、今年第3四半期(7月〜9月)の電子書籍のホールセール(卸売ベース)は約1億2000万ドルとなり、年間では4億ドルを超えそうだ。ただし、ここには卸売チャンネルを介していない電子書籍や電子学術書などはカウントされていないので、リテールセール(小売ベース)では2倍近くになっているという。

 下のグラフは、IDPFが公開した2002年から2009年までの電子書籍の年間売上高(卸売ベース)の推移だが、2009年から加速度的に売上が伸びている。これは、アマゾンのキンドル(Kindle)が売れ出したことと見事に一致している。現在、Kindleは米国の電子書籍市場の76%を占めており、Kindleの電子書籍の2011年売上は前年比195%増の7.01億ドルと予想されている。

      


 次の表は、AAPが公開した全書籍と電子書籍の年間売上である。今年は8月までの売上を示しているが、これを見れば、年間では4億ドルを超えるのはほぼ確実だ。ちなみに、全書籍売上のうち電子書籍の占める割合は、昨年が3.31%で、今年は8月までで約9%。とすれば、年内に10%をクリアするだろう。

     

 全書籍のうち10%が電子書籍で、そのうちの約8割がKindle。これが、アメリカでできあがってきた電子書籍市場である。今年は日本でも「電子書籍元年」と言われ、電子書籍へのシフトが進んでいるが、いまのところ、成功例はほとんど聞かない。しかも、日本ではKindleよりiPadが大きな話題になり、つくる側も消費者もそちらを向いてしまっている。
 しかし、iPadは電子書籍専用の端末ではないから、この市場の主役にはならないだろう。


 また、いまの日本の電子書籍市場は、アメリカとはまったく異質だ。アメリカ市場はKindleによって、一般の書籍(文芸書やノンフィクション)の市場が形成されたが、日本はまだ専用端末も売れていなければ、電子化した一般書籍はまるで売れていない。売れているのは、ケータイ配信の漫画だけだ。
 2009年の日本における電子書籍の売上は574億円(インプレスR&D調べ)。同年のアメリカの電子書籍の規模3億1300万ドル(便宜的に1ドル100円として約313億円)を上回っているが、574億円の8割以上がケータイ配信の漫画である。

 だから、日本の電子書籍市場は、電子書籍市場というより、単なるケータイ配信漫画市場なのである。

 さらに、日本の市場がアメリカと違うのは、ケータイ配信漫画といっても、売れるのはBLやTLものばかりという点だ。BLというのは、ボーイズラブ(Boys Love)の略。つまり、男同士の同性愛を題材とした漫画で、主に10代の少年(特に美少年)同士の間の恋愛を描いたものだ。また、TLは、ティーンズラブ(Teens Love)の略で、こちらは、主に10代の少女の恋愛漫画だ。
 恋愛漫画といっても、ほとんどがセックス中心のストリーであり、ときにはレイプや近親相姦、援助交際も描かれている。どちらも、読者はほとんどが10代の女性である。

    


 これほど違う市場をもって、なぜ「電子書籍元年」と言って、まるでブームに便乗するかのように、各出版社が電子書籍を始めたのか。最近、私は本当に疑問に思うようになっている。
 ケータイコミックを配信している私の知人に言わせると、「うちの読者はほとんど10代女性。それも、本屋など行ったことのないコばかりで、彼女たちは実際の紙のコミックは買わない」という。だから、ケータイでは大家も新人も関係なく、まして「ゴルゴ13」のような劇画はまったく売れない。
 しかも、このBL、TLケータイ漫画も2009年の暮れをピークに下降気味になり、「コンテンツが足りなくなってきた」という。


 こうして見ると、今後、日本でもアメリカのような電子書籍市場が生まれるかどうかは、非常に疑わしい。もちろん、ウェブの発展で紙市場は衰えていくだろうが、それを電子書籍が埋めてくれるわけがない。
 漫画に関して言えば、いまの若者たちは、過去のプリント版のコミックを自炊(自分で電子書籍をつくること)して、友人たちとファイル交換して読んでいる。また、新刊でもすぐに自炊してしまうから、紙はどんどん売れなくなる。

 それなのに、「2014年度における電子書籍の市場規模は、2009年度の約2.3倍の1300億円程度に拡大する」と、ほとんどのリサーチレポートが言っている。もし、本当にそうなるなら、それは一般書の電子書籍市場が立ちあがらなければならない。
 現状で、本当にそんなことが起こるだろうか? 最近聞こえてくるのは、紙で100万を超えたベストセラーも、電子化したら2万ダウンロードも行かない。30誌以上も電子雑誌を集めた会員サイトは、月額わずか数百円にもかかわらず、会員は1万人にすら達していない、という話ばかりだ。

[参照]
・2010年7月7日プレスリリース(株式会社インプレスR&D)
・Ebook sales grow 172% in August according to the IDPF(TeleRead: Bring the E-Books Home)
・AAP Reports Publisher Book Sales for August(the Association of American Publishers:AAP)