[070]「尖閣映像流出」に関する日本のマスメディアの報道はおかしい 印刷
2010年 11月 09日(火曜日) 01:42

中国漁船衝突事件の流出ビデオは、どうやら石垣海上保安部が流出先のようだ。5日にユーチューブにアップされてから、連日、マスメディアは大騒ぎしてきたが、その報道には大いに疑問を感じる。

 今日の報道では、「検察当局は福岡高検を主体とした捜査チームを設置し、国家公務員法違反などの容疑で刑事事件として捜査を開始した」ということを流しているだけだが、今後、流出ルート、犯人がもし特定できたとしたら、マスメディアはそれをどう扱うのだろうか?

 つい先日までは、菅内閣に対して「ビデオを公開すべきだ」という論調も見られた。それが、流出映像が流れてからは「国の情報管理が問われている」一辺倒になった。また、決まり文句で「民主党の外交姿勢が甘い」と言ってきた手前、さらにそのことを強調するようになった。

 しかし、本来なら、映像になにが映っているのか、そのことを徹底して明らかにするのが、マスメディアが率先してすべき仕事だったはずだ。真実追求という最大の使命を放棄して、起こっていることだけを報道する。最近の日本のマスメディアは本当に情けないとしか言いようがない。

ユーチューブの映像より

 

グーグルは日本の捜査当局に情報を渡すのか?

 

 ところで、グーグルはユーチューブに投稿した人物に関する資料を日本の捜査当局に渡すのだろうか? 中国政府にも屈したグーグルだから、そうするだろう。では、中国の件では中国政府を非難し、それに屈したグーグルの姿勢までも問うたマスメディアは、今回の件ではどうするのだろうか? 

 また、ノーベル平和賞を受賞した劉暁波に関して、西側メディアの尻馬に乗って中国政府を非難したのだから、ビデオ流出犯人が特定されたら、当然、弁護しなければならない。今回の件は、明らかに内部告発(ホイッスルブローイング)で、国民利益のためには正当化可能な行為だ。

 現在の日本のマスメディアは、見ていると、本当に混乱の中にある。基盤とする価値観がなくなり、自分たちがなにをしているのかわからなくなっている。マジョリティの利益のために、真実を追求するという姿勢に欠けている。だから、今回の尖閣諸島問題では、一般国民がどう考えているか、その意識を見誤ってしまった。

 あの映像は、本来なら国が率先して公開するべきだったものだ。そうして、どうすべきなのか国民の声に耳を傾けるべきだった。そもそも、映像は海保が国民の税金で撮っているのだから、当然だろう。

 

アメリカ海軍なら漁船を撃沈していた

 

 情報を隠すことは、この時代、もっともやってはいけないことだ。民主主義国家において、国民が知るということがどれほど重要なことか、民主党政府にはその自覚すらない。だから、政権運営のためにだけ国会内で公開し、それを見た議員たちは特権意識をむき出しにして、得意そうにメディアに印象を語っていた。

 たった数分に編集された映像を得意になって観ていた衆参の予算委員会の理事たちには、本当にあきれるしかない。「中国漁船の行動が思ったより穏やかだった」とか「かすっただけだった」とか言っていた議員がいたが、映像が流出してしまったいま、どう言うのか聞いてみたいものだ。

 映像を見たかぎり、あれは明らかにアタックだ。アメリカ軍艦艇なら、あの左旋回で突進してくる船を撃沈していただろう。立場を代えてみれば、ロシア海軍だろうと、中国海軍だろうと、そうしていたはずだ。とくに、同じ漁船が2度もアタックしてきているのだから、2度目は当然、そうしていい。もし、船首に爆弾が仕掛けてあるようなテロ行為だったら、どうしたのか?

 

無視された4500人の大規模デモ

 

 映像流出の翌日、11月6日、ノーベル平和賞受賞の劉暁波の釈放や衝突事件のビデオを公開しない日本政府の対応などを批判する集会が、「頑張れ日本」主催で、日比谷公園内の日比谷野外音楽堂で行われた。そして、集会後、デモも行われた。デモ参加者は、主催者発表によると過去に行われた同様の活動では過去最高となる4500人。なのにこれを、ほとんどのマスメディアが報道しなかったのも不思議だ。日本のマスメディアは、これまで反政府デモなどは好んで報道してきた。しかし、少しでも右翼がかると報道しない。

 この秋の「頑張れ日本」の一連の集会とデモは、右翼活動というより、一般国民を巻き込んだものになっている。だから、最初の10月2日のデモの様子を、米『ウォールストリートジャーナル』は、「従来にない国家意識の高まり」とカラー写真入りで報道した。

 

マスメディアに代わってネットメディアが主役に

 

 いま、世界的に既存マスメディアは衰退している。真実追求、内部告発、暴露は、ネットメディアのほうに移った。ユーチューブには、約1年前、ロシアの警察官が署内の過酷な勤務実態などを告発する動画が投稿された。また、10月には、インドネシア国軍兵士が住民を拷問している映像も投稿された。

 内部告発サイト「ウィキリークス」も、最近大いに注目されている。この7月には、アフガニスタン戦争に関する米軍関連の機密文書7万5000通以上を公開して、物議をかもした。

 先週、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏は、近く公表する多数の機密文書について、日本や中国に関するものも含まれることを明らかにしている。また、今後は、ロシアに関する文書も公開するという。いずれ、告発者がいれば、中国も対象になるだろう。

 今回の尖閣映像流出をこうしたなかで捉えていくと、菅内閣が決断すべきは、全映像の国民への公開しかない。そうしないで、犯人逮捕、情報管理の徹底などを計れば、それは中国共産党と同じことになる。マスメディアは、そのことをきちんと指摘すべきだ。そうでないと、マスメディアとしての健全性も、国民の利益に立つという立場も失いかねない。