[077]日中GDP逆転、国債の格下げで、ますます加速する富裕層の海外脱出。資産フライトで、財政再建は不可能に! 印刷
2011年 1月 29日(土曜日) 03:04
中国に抜かれGDP世界第3位に転落、そしてスタンダード&プアーズ(S&P)による日本国債の格下げ……と、日本の衰退を象徴するニュースが続いている。どちらもあらかじめ予想できたこととはいえ、現実にそうなってみると、日本人としては悔しいし、情けない。

 しかし、世間のムードは違う。中国に抜かれたことに、はっきり悔しいと表明する識者もメディアもほとんどないし、一般の人間の受け止めかたも「やっぱり。仕方ないね」と言った感じだ。さらに、国債の格下げに際しての菅首相の発言ときたら、「こういうことに疎いので」である。これには、信じがたいとういか、正直、あきれてしまった。

 国債格付けとは国の信用を現す指数であり、なにより国債はおカネを借りた証書、借用書である。その借り主である首相が、「疎い」というのは貸し手をバカにしていないか。

 日本の場合、この貸し手というのは、国内の金融機関であり、そこにおカネを預けている国民である。もしかしかしたら、菅首相というのはこの程度の知識もないのだろうか? 

 

富裕層の「さよならニッポン」のほうがよほど重要な問題

 

 このようにあきれるを通り越して、論じる気も起こらない人々が政治を行っているから、民主党政権になって以来、この国では大きな変化が起こっている。それは、お金持ち(富裕層)が続々と海外に、資産を持って逃げ出していることだ。かつてキャピタルフライト(資本逃避)ということが言われたが、これにちなんで、私はこれを「アセット(資産)フライト」と呼んでいる。

 ここ数年、富裕層の人々と社会の二極化を取材してきたが、大手メディアは下流の人々の話ばかりを取り上げ、社会の上流にいる人々の動向をほとんど報じていない。だから、一般人には、いまなにが起こっているのかわからない。

 「無縁社会」「孤独死」「孤族」「派遣村」など、NHKや朝日新聞は、この手の話題が大好きである。しかし、それ以上に富裕層の「さよならニッポン」は、社会にもたらすインパクトからいって大きな問題だ。なぜなら、これによって日本の税収は減り、ますます日本は衰退してしまうからだ。富裕層の資産フライトは、じつはかなり以前から始まっていた。1997年の金融危機を境にして、資産を築いたお金持ちが海外に資産を持ち出すことが多くなった。最初は、資産100億円以上の超富裕層が中心だったが、最近は1億円から10億円の「プチ富裕層」までが、資産フライトをやっている。

 

海外投資セミナーが花盛り、そこでの話は?

 

 昨年、日本のプチ富裕層向けの海外投資セミナーをいくつか取材した。それは、海外不動産投資であったり、ヘッジファンド投資であったり、そのかたちはさまざまだが、いずれもオフショアに資産を移してからの投資方法を解説するものだった。たとえば、シンガポールや香港、あるいはカリブのケイマンなどにSPCを設立、金融機関にアカウントを開き、そこを通して金融商品に投資する。そうすれば、ほとんどゼロ金利の日本に比べて、驚くほど高いリターンを得られる。

 とくに円が1ドル80円台と史上空前のいま、それをやらない手はないというものだ。

 ベンチャー成功者の会合もいくつか取材したが、彼らの二次会での話題はきまって海外投資だった。たとえば、不動産にしたら「もう上海もマカオも天井だ。これからはクアランプールだろう」「ジャカルタもまだいける」「いやブラジルだろう」というような会話が飛び交う。

 実際、オリンピックとワールドカップを控えたブラジルには、日本ではまったく知られていないが、世界的には有名なリゾート地フロリパがあり、ここの不動産は確実に値上がりしている。すでに、ここに投資した者もいて、彼は「フロリパが最終デスティネーションですね」と、自信満々だった。

 

「金持ちはもっと払え」の民主党路線 

 

 なぜ、プチ富裕層までが、民主党政権になって、資産フライトに走るようになったのだろうか?

 それは、民主党の増税路線がはっきりしたからである。なにしろ、民主党に取り込まれた与謝野馨経済財政担当相が、国債の格付けの引き下げを「(消費増税を)早くやれという催促だ」と語るのだから、どうしようもない。

 もし、消費税を5%引き上げて10%にすれば、1億円の不動産取引には1000万円の消費税がかかる。これでは、ただでさえ下落している日本の不動産取引は壊滅するだろう。

 昨年末の政府税調の議論のターゲットは、「高所得者への課税引き上げ」だった。具体的には、一定率を経費として課税対象から外す「給与所得控除」を年収1500万円で頭打ちにする。また、23〜69歳の親族を扶養している場合の「成年扶養控除」を学生や障害者を除いて廃止するというものだった。これらの処置は中流層上部を狙ったものだが、すでに子ども手当の実施と引き換えに中学生以下の扶養控除は廃止されているので、こうなると、年収が高いと、子ども手当をもらった以上の所得増税が待っている。 

 さらに、富裕層にとっては相続税がターゲットにされた。相続した場合に遺産額から差し引くことができる「基礎控除」を大幅に引き下げる。現在の定額5000万円が3000万円になる。政府税調の論議を伝えた日本経済新聞の資産によると、妻と子ども2人が1億円を相続した場合、200万円の増税になるという。

 「金持ちはもっと税金を払え」------明らかに民主党政権は、これを指向している。

 

所得上位の人々が税金のほとんどを払っている

 

 ところで、この1月25日に行われた一般教書演説で、オバマ大統領は、富裕層向けの減税について、恒久化する余裕はないと強調。「富裕層の人々に減税措置をあきらめるよう求めるべきだ。彼らの成功を罰するわけではなく、米国の成功を促進するのだ」と語ったものの、昨年末に期限切れになったブッシュ前共和党大統領が導入した富裕層に手厚い減税措置は、延長を決定した。

 そうしないと、議会運営ができない面もあるが、金持ちが逃げ出して、法人税も所得税も減収になるおそれがあるからだ。

 実際のところ、資本主義経済社会は、富裕層の税金で支えられているところが大きい。「上位4%が富の80%を握っている」といっても、税金を払っているのはほとんどが富裕層である。

 日本の場合でも、国税庁の調査(確定申告をした納税者の属性調査)によれば、所得1億円以上の人は全体の0.2%にすぎないが、納税額の15.5%を占めている。所得5000万円超だと全体の0.7%だが、納税額は29.1%。1000万円超にまですると、納税額は80%に達する。

 ちなみに年収300万円以下の層の納税額は全体の3.3%にすぎない。

 日本の場合、給与所得者(サラリーマン)は独特の課税制度により、所得は全額補足され、会社が税金を給与から天引きする。この場合、給与所得1500万円以上のサラリーマンはどんなに稼いでも240万円の基礎控除(経費)しか認められないから、増税は相当こたえる。このような日本だけの特殊な税制を無視して、消費税を上げ、富裕層課税も強化するというのだから、なにが起こるかは明白だ。

 国境が事実上なくなったグローバル時代に、国民は国から逃げられないと考えていられるお目出度い人々がいることが、私には信じられない。これは愛国心の問題ではない。日本を愛することと、政府を愛することは別の話だ。

 

「国債はかたちを変えた税金」 とアダム・スミスも言っている

 

 ここで国債に話を戻すと、国債はかたちを変えた税金である。アダム・スミスははっきりとそう言っている。ということは、毎年40兆円も新規国債を発行し、100兆円近くの借換債を発行している日本は、いまこの時点で完全な重税国家である。これを消費税に換算したら、優に25%を超えているだろう。

 大手マスメディアは新規国債については書くが、借換債についてはあまりふれない。借換債というのは返す期限が来ても返せないので、また国債を発行して返済を先延ばしにするというもの。

 つまり、借金のたらい回しであり、クビが回らなくなった人間しかやらないことだ。日本は現在、この状態にあり、期限通りに国債を償還したら、予算は組めないばかりか、財政は簡単に破綻する。

   

 それで増税してしのごうということになるわけだが、そんなことをしたら、さらに借金を返せなくなる。民主党は2020年までに単年度のプライマリーバランスを達成させると言っている。しかし、デフレ下で増税すれば、その分以上に税収が落ち込み、嫌気が指した金持ちはどんどん国を出ていく。また、企業も日本を見捨てるだろう。すでに、多くの企業がそうしているし、海外で稼いだ収入を日本に戻さずに、ふたたび現地で設備投資に回している。

 

「最小不幸社会」は旧ソ連のような自由のない国のこと

 

 日本はいま、富裕層に国を見捨てさせ、優良企業の海外移転を促進させたうえで、政府のカネだけを頼りにする非納税者の貧乏人だけの国になろうとしている。こうすれば、確かに格差はなくなり「最小不幸社会」はできあがるかもしれない。

 しかし、それは旧ソ連のような赤い貴族が支配する、まったく自由のない国だ。言葉では「平成の開国」と言っているが、じつは鎖国に向かっていることに、民主党政権も大手マスメディアも気がついていない。

 いったいなぜ、こんなことになるのだろうか?

 日本人はいつから思考停止状態に陥ってしまったのだろうか?