[082]入試ケータイ投稿事件で思う。日本政府は「留学生30万人計画」を即刻中止すべきだ! 印刷
2011年 3月 03日(木曜日) 04:57

京大などの入試で、ケータイ投稿事件が発覚し、大騒ぎになっている。この予備校生は、最後の英訳問題を真っ先に投稿していたというので、私には思うことがある。
 メディアは、「入試でケータイ持ち込みを禁止すべき」「監督体制が甘い」などと言っているが、そんなことは些細なこと。カンニングは昔からあり、その方法が変わっただけのことで、ここまで大騒ぎしても仕方がない。それより、本当に論じなければいけないのは、「ヤフー知恵袋」で解答が得られるような試験問題のあり方であり、もっと大きく言えば、大学教育そのもののあり方だ。
はたしていまの日本の大学に、ここまでして合格しようとする価値があるのだろうか?

 最近は、都内のコンビニのアルバイト店員はほぼ中国人になった。また、居酒屋、ファミレス、スーパーなどでも、中国人店員の数が圧倒的に多くなっている。もうそんなことは当たり前と思うようになったが、これが、じつは、いまの日本の大学教育の問題に大きく関係している。というのは、彼らはほとんどが中国から日本の大学にやってきた留学生たちだからである。

 私の娘は、ときどき仕事の疲れを癒すため、深夜まで開いているマッサージ店に行く。そこにいるのは、ほぼ、中国人で、聞くとたいていの店員が中国からの留学生だという。娘は中国語が話せるので、そんな留学生の話を私に教えてくれる。

 

本当はアメリカに行きたい中国人留学生

 たとえば、六本木で深夜まで営業している中国式足裏マッサージ店で働く20代の女性店員は、都内の有名私立大学に通う黒龍江省出身の中国人留学生。「マッサージ店では午前3時まで働き、その後、帰って寝て、朝9時半から学校。午後は3時からコンビニでバイトして、夜8時にまたマッサージ店に来る」という生活を送っている。
「なんでそんなに働くの?」と聞くと、「早くアメリカの大学に行きたい。その留学費用を稼いでいる」とのこと。じつは、留学生の就業は週28時間を超えてはならないという規定があるが、「それを守っていたら、次のアメリカ留学の費用が貯められない」のだそうだ。

 こうした中国人留学生が増えたのは、2008年に日本政府が鳴りもの入りで「留学生30万人計画」を始めたからである。当時の福田康夫総理はグローバル戦略の一環として「2020年までに留学生を30万人に増やす」ことを提唱、文科省は実現に向けて2009年度から国の予算を投入した。海外の学生が留学しやすい環境への取組みを行う「拠点大学」を選定し、これに財政支援。審査で選ばれた東大、京大、早稲田などに、年間 2~4億円交付するとともに、留学生に奨学金を出すようになった。


中国人留学生は留学生全体の60%を超えている


 政府が投入した予算は年間約220億円。これを国費留学生1万人で割ると、1人当たり年間220万円。その内訳は、奨学金を学部生で月額12万5000円給付、授業料を国立大なら免除、私大なら3割限度の減免などである。

 この日本政府の政策で、中国では日本留学ブームが起きた。2009年4月の留学ビザ取得率は前年同期より12%、留学希望者そのものも20%増加。日本大使館でのビザ取得率も倍増した。日本留学斡旋所も連日大盛況で、日本語学校は学生が2倍になったところもある。

 独立行政法人日本学生支援機構によると、現在、日本には約14万人の留学生がおり、うち中国人は約8万6000人で、しつに全体の60%を超えている。次いで韓国(約5%)、台湾(約4%)、ベトナム(約2.5%)で、欧米圏からの留学生はほんのわずかしかいない。つまり、「留学生30万人計画」といっても、その実態はアジア人留学生ばかり、とくに中国人のための留学制度と言っても過言ではない。


中国のエリート学生は日本に見向きもしない



 娘はジョンズホプキンズのSAIS時代、南京大学に留学していたが、そこで出会った中国人学生たちは、みなアメリカへの留学を希望していた。日本へ留学したいという学生はほぼいなかった。南京大学は、中国のトップ5に入る大学なので、彼らはみなエリートたちだ。

 中国で人気の留学先はアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアという英語圏が中心。アジアでは香港とシンガポール。日本はその次で、資金力がある富裕層の子女は日本には見向きもしない。六本木のマッサージ店でバイトする留学生の場合は、実家が貧しく、奨学金が出るので日本に来たが、本当はアメリカに行きたかったのである。

 今年の正月、中国人の留学生たちは、ヤマダ電機池袋店の「初売り福袋」目当てに、元旦の夜から行列に並んだ。福袋で行列ができることは珍しくないが、元旦の夜から、それも行列の先頭はほとんどが中国人ということに、取材に行ったメディアは驚いていた。
 福袋の中身は超格安の製品で、これを彼らは中国からの観光客に転売して、お金を稼ぐ。「正月の数日で10万円も儲けた」留学生がいたという。

 

青森大学で発覚した大量の「ニセ留学生」

 中国人留学生が激増するなか、青森大学で2008~2010年度に、通学実績のない中国人留学生140人を除籍処分にしていたことが発覚した。処分された学生のほとんどは入学後、青森県外に出て働いており、その実態は「偽装留学」だった。
 ことが発覚した1月14日、青森大学の末長洋一学長は「授業にまったく参加せず、アルバイトばかりしているために除籍処分にした」と記者会見で語り、「なかには東京に出て働く者もいた」と、つけ加えた。

 東京の有名大学と違い、地方大学では学生数が激減して経営が悪化。その穴埋めとして、国から補助金がもらえる留学生受け入れは、恵みの雨だった。しかし、その実態はニセ学生。中国で出回っている偽造証書を日本の地方大学が見抜くのは難しいという。そんな状況を説明しながら、末長学長がこう言ったのには、驚かされた。
「留学生に青森県内のアルバイトを紹介すれば、ある程度問題を防げたかも」
 このようなことが起こる背景を考えれば、この発言は的を射ていないばかりか、問題をうやむやにしかねない。


本当の問題は日本の大学のレベルが低いこと

 では、本当の問題とはなんだろう?
 それは、そもそも日本の大学が、中国人学生にまったく人気のないことである。こちらのほうが、より大きく深刻な問題だ。実際、東大、早稲田ですら、中国人学生の二番手、三番手の層か、奨学金目当ての層しか集まらない。一番手と富裕層の子女は、前述したようにほとんどが欧米に留学をしてしまうため、それができない層しか、いまの日本にやって来ない。まして、日本の地方大学には、三番手ならまだいいほうで、ニセ学生が大量に来てしまったわけだ。
 青森大学の事件は、2002年に起こった酒田短大生不法就労事件とまったく同じ構図で、日本政府は税金をドブに捨てているのと同じだ。

 たとえば、「留学生30万人計画」で拠点大学に選ばれた早稲田大学は、2004年に国際教養学部を開設し、いまでは日本一留学生の多い大学になった。この国際教養学部は、全授業を英語で行うというので、日本人学生にも人気が高く、実際に受験偏差値も高い。

 しかし、国際的評価は、アジアでも低く、早稲田大学自体が昨年9月に発表されたタイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングで200位以内にも入っていない。
 このランキングに200位以内に入った日本の大学は5校で、中国本土の6大学に及ばない。ちなみに、東大はアジア1位となった香港大学より低い26位、京大が57位で、私大の雄とされる早稲田も慶応も200位以内にも入っていない。



早稲田大学国際教養学部の情けない実態

 早稲田大学国際教養学部は帰国子女が多いことでも知られるが、彼らに話を聞くと、「ICU(国際キリスト教大学)や上智よりSAT(米大学進学適性試験)が低くて入りやすい。1500点(満点は2400点)ぐらいでも入れる」と言う。
 アメリカの一流大学、たとえばアイビーリーグ各校は最低でもSAT2000点は必要なので、早稲田は明らかにレベルが低い。そのため、いまでは小学校から英語教育を施されている中国人学生なら、二番手、三番手の学生でも簡単に入れるし、彼らの英語力は日本人学生よりはるかに上である。

「国際教養はまだましです。早稲田の他の学部の日本人学生とは英語で会話もできません」と、早稲田の中国人留学生たちは嘆く。これは、早稲田にかぎらず、東大でも、今回の事件の舞台となった京大でも同じ。中国人留学生は、日本の学生の英語力のなさにあきれている。あるとき、早稲田で学内アンケートがあり、「なぜ日本に?」という質問があったので、正直に「アメリカに行けなかったから」と書いたら怪訝な顔をされたという中国人留学生もいる。
 
 学力レベル、英語力を除いても、日本の大学は留学生に魅力がない。それは「学期が4月始まりと世界とずれている」「卒業しても就職先がない」「欧米のようにオンキャンパスの寮がない」などの点だ。とくに、なぜ9月新学期にしないのか、私にはまったくわからない。
 このようなことを改善しないで、ただ予算をつけて奨学金を用意しても、かえって日本の大学の評判を落とすだけだ。
 それでも中国の一番手の学生ならまだいいが、二番手、三番手の学生にこうまで言われるのだから、情けなくなる。



日本は中国の「落ちこぼれ学生」で溢れる

 ここで、思い出すのが、今年の初めの中国の胡錦涛主席の米国公式訪問の際のできごとだ。1月19日、ミシェル・オバマ大統領夫人は、「近年、アメリカでは、中国への留学人数が大幅に増加している。これは、夫の計画である。今後の4年間で中国に10万人の米国留学生を派遣する。この目標を実現するため、米中両国政府はより多くの留学生に奨学金を提供するなどの一連の政策を打ち出してきた」と語っている。

 それでは、日本がこのまま「留学生30万人計画」を続けると、どうなるだろうか? 単純に予測して、それが達成されたとき、中国人留学生の数は、現行の比率のままなら約18万人になる。日本は、中国の二流、三流の学生、悪く言うと「落ちこぼれ学生」で溢れることになる。しかし、彼らのほうが、今回のカンニングで騒がれた日本の学生よりレベルが高いのだから、笑い事ではすまないと思う。このままデフレ不況が続いていけば、奨学金を出しても来てくれなくなる可能性もないとは言えない。

 そんな大学に、日本の受験生はケータイで不正までして入ろうとしているのである。

 日本政府は即刻この計画を中止し、自国の大学と大学生のレベルを引き上げることに注力すべきだろう。そのためには、初等教育から、日本の教育全体を見直さなければならない。とくに、世界標準語となった英語と、ITリテラシーの教育は、いまの時代は必須だ。
 そこに予算を使わないというのは「亡国政策」にも等しいと思う。入試の不正で騒ぐより、こうした問題の背後にある大学の教育をなんとかしないと、日本はいずれ中国にも相手にされなくなる日がくる。