[086]日本製紙石巻工場の惨状を写真で紹介!被災地ではなにが起こっていたのか?そして、今後の日本はどうなるのか? 印刷
2011年 4月 02日(土曜日) 07:36

前回のこのブログで書いたように、現在、出版界は「本・雑誌をつくる紙が足りない」ということで、逼迫状態にある。その原因は、言うまでもなく東日本大震災。日本の製紙生産の約3割をになっていた東北地方の主な製紙工場が、今回の大震災で大きなダメージを受けた。なかでも、宮城県石巻市の日本製紙石巻工場は、主要出版社に大量の紙を供給していたが、現在、操業を完全に停止している。

 津波により、工場構内には土砂等が堆積しており、いまだに、設備の正確な被害さえ確認できない状況だ。

 日本製紙グループ本社は3月31日、石巻工場(宮城県石巻市)と岩沼工場(同県岩沼市)の2工場の従業員のうち、当時非番だった2人の死亡を確認、4人が行方不明になっていると発表した。ただ、工場内にいた従業員はいずれも無事だったという。

 この日本製紙石巻工場の状況を、日本文芸社の松原健一編集長が写真におさめて帰京したので、さっそく提供してもらった。松原氏は石巻市の出身で、震災後すぐに故郷に戻ったが、育った故郷のまったく違う光景に「人生観が変わった」という。幸い、ご両親は無事だったが、実家は被災してしまった。

 マスメディアはあまり伝えていないが、震災後の石巻では略奪が横行し、がれきのなかから金目のものを奪っていく人間が多かったという。気仙沼信用金庫では4000万円が消え、街の酒店からは高級酒があっという間になくなったという。宮城県ではすでに略奪による被害が1億円を超え、総額がいくらになるかわからない状況だ。

 

 海外メディアは、「日本人はこんな大災害でもパニックにならず、冷静に行動している」と称賛したが、それは彼らが現場を知らないからだ。また、現場の状況を日本のマスメディアが意図的に報道しなかったのを真に受けたに過ぎない。実際、日本のマスメディアは本当に悲惨な状況(たとえば遺体が転がっている写真)を、これまでいっさい伝えていない。しかも、最近は「お涙ちょうだい」式の報道ばかりになった。

 さらに、復興の掛け声をかけて読者に希望をもたせたいから、「日本には底力がある」「日本人には奇跡を起こすDNAがある。明治、戦後と2度も奇跡を起こした」「越えられない困難などない」などいう論調になっている。

 しかし、実際のところ、今回の震災の後遺症から立ち直るのは容易ではない。もしかしたら、というか、ほぼ確実に今回は3度目の奇跡は起きない。それは、今後、次第にはっきりしてくるはずだ。被害状況と、原発事故、電力不足を重ね合わせ、そこに現在の日本経済のリアルなデータを加えれば明らかである。

 

 いまは、震災直後で「力を合わせてがんばろう」ムードにあるが、じきに、梅雨がやってきて、冷房のない耐えがたい夏がやってくれば、東日本はどうなるかわからない。

 マスコミに登場する識者のなかには、これまで悲観論を唱え、鋭く日本を批判してきた人たちがいる。そんな人たちまでが、今回のことでくるりと論調を変え、「日本は必ず復活する」と繰り返している。信じがたい裏切りだ。これまでさんざん日本はダメと言ってきたのなら、今回のことで、日本はもっとダメになるはずではないのだろうか?

 この大震災で、メイドインジャパンは世界中で売れなくなった。一般のアメリカ人も中国人も、福島がどこにあるのか知らない。福島だろうと、東京だろうと、京都だろうと、みんな日本なのだ。日本製品への危険視は原発問題が続くかぎり、なくならない。これでは、日本企業といといえども、日本を出るしかない状況になる。とくに、東日本に生産拠点、流通拠点を置くことは、これからは大きなリスクである。

 

 じきに日本売りが始まる。そうなれば円安になり、ガソリンから日常品まで値上がりする。雇用は失われ、失業者があふれる。そこに、復興のための増税が行われれば、日本はどんどん貧しくなる。この悪循環を断つ「底力」が、日本にあるかどうか、メディアは冷静に計算すべきだ。ないとなれば、復興計画は、「がんばろう」などという精神論から脱したものにしなければならない。

 今回のことは、グローバル化に背をそむけ、国内で無益な政治争いをしてきた「失われた20年」の最後にやってきた大災害である。もともと、日本の「底力」は尽きようとしていたのだ。民主党の復興案は、日銀が国債を引き受けることまで踏み込んでいるが、そんなことをしたら日本は本当に破綻してしまうだろう。すでに、東京の地価はどんどん値下がりしており、外資ばかりか日本企業も富裕層も東京を脱出し始めた。 

 

 ただ、幸いなことはただ一つ。日本にはまだ西日本があることだ。

 

 すでにアジアの中心は中国に移っているから、今後、日本は西日本でやっていくしかない。西日本を東シナ海経済圏に強くコミットさせるしか、日本の選択肢はないように思える。今回のことで、香港、深圳、広州の広域経済圏は、東京メトロポリタンエリアをすぐにでも凌駕するようになるのは確実だ。上海の長江デルタ経済圏も同じく東京を凌駕するだろう。とすれば、これらの地域とつくる東シナ海経済圏が日本の生命線にならざるを得ない。

 その要にある沖縄で、普天間基地移転を巡って不毛の争いをしてきたのだから、なんと時間を無駄にしたことだろう。

「3.11」以前と以後では、まったく違った日本である。それは、もう始まっている。政府が復興計画をどう決めようと、昨日までと違う日本が私たちの前にある。