[088]電子自費出版がついに大手出版社の脅威に!アメリカで進展する電子書籍革命 印刷
2011年 4月 21日(木曜日) 17:06
『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』(4月21日)に、「安価な電子書籍がベストセラーに―価格面で大手出版社に圧力」という衝撃的な記事が載った。これは、アマゾンの「キンドルストア」を通してセルフパブリッシングしたジョン・ロック氏というスリラー作家の作品が、ベストセラーリストの上位50位に7作品もランクインして、大手出版社の電子書籍の脅威になっているという記事だ。

 アメリカでは、セルフパブリッシングが大流行となり、そのなかで中堅作家から成功例が出てきた。この前は、そういう作家のなかの1人、SF作家のトバイアス・S・バッケル氏の失敗例を「メディアニュース」で取り上げたが、今回はその逆。本物の成功例である。

 まったくの無名作家は別として、中堅なら、自身の作品を大手出版社を通さずに直接アマゾンで販売し、大手ではできない価格破壊的な値段をつければ、売れるようになってきたということだ。

 

 Now & Then (a Donovan Creed Novel) by John Locke (Kindle Edition - Apr. 22, 2010)

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 ジョン・ロック氏は、ケンタッキー州ルイビルのビジネスマンで、副業にスリラー小説を書いてきたが、電子出版の作品の価格をすべて0.99ドルに設定。このうち、0.35ドルがロック氏の収入となるが、この3月の同氏の出版収入はアマゾンを通じてだけでも12万6000ドルになったという。1ドルを便宜的に100円として、これは1260万円だから、作家としては相当な高収入だ。書籍をデジタル出版するための費用は約1000ドル。ただし、それ以外に編集者を雇うコストもかけたというが、それを差し引いてもものすごい利益だ。

 アマゾンでの3月のロック氏の作品のダウンロード数は36万9000回で、1月の約7万5000回、昨年11月のわずか1300回から急増したという。価格破壊というのは、これほどの効果があるということなのだろうか。

 

 セルフパブリッシングでの成功例は少ないという例を、私はたびたび取り上げてきた。しかし、それはまったくの素人の場合で、ロック氏のようにある程度の実績があれば、価格破壊すれば売れるということになってきたようだ。となると、今後、出版社が完全に中抜きされる例が続出するだろう。

 キンドルによって電子書籍市場が形成されたアメリカの変化は、いずれ日本にも確実に訪れる。そのことを思うと、電子書籍はやはり従来の紙のビジネスモデルを完全に破壊していくのは確実だ。

 アメリカでは、大手出版社はエージェンシーモデルを採用して、アマゾンと交渉し、自らの価格設定権を維持している。ハードカバーの場合25ドル以上する書籍を電子版の場合はなんとか11.99~14.99ドルに抑えている。しかし、こうした大手出版社を通さなければ、価格は勝手に著者が決めればいいわけで、 0.99ドルでバカ売れするなら、名のある著者ならそちらを取るだろう。

 

 この記事のなかで、アマゾン担当者はこう言っている

「エージェンシー出版社とのわれわれの事業は増加しているが、アマゾンの全体的な伸びを下回っている。最も成長が大きい出版社は、われわれの側で価格設定している業者だ」

  まさに、「大手出版社を無視して、ウチで直接やったほうが得ですよ」と、作家に呼びかけているとしか思えない。

 

 さらに、出版社にとって脅威なのは、電子書籍になると、ほかのデジタルコンテンツとの競合から、競争が激化することだ。記事からふたたび引用させてもらうと、こうなる。

《また書籍は、タブレット型端末を通じて容易にアクセスできる安価なデジタル上の娯楽との競争にも直面している。これらは電子書籍専用端末にはない選択肢だ。つまり、個人の自由時間をめぐる争いの中で、出版社は今、月額7.99ドルで映画やテレビ番組を無制限でネット配信するネットフリックスや、テレビ番組を放映1回につき最低0.99ドルでレンタルできるアップルの「iTunes(アイチューンズ)」とも直接対決している。》

 というわけで、アメリカでは電子出版は猛スピードで進展し、状況が日々変わりつつある。今後は、電子書籍自体もデジタルコンテンツとしてかたちを変え、音楽や映像コンテンツと融合しいくだろう。活字だけの書籍コンテンツはそのまま生き残るとしても、これは他のコンテンツとの競合から価格は1ドルが相場になるはずだ。つまり、日本では100円である。しかしこれで、やっていける既存の出版があるとは、私にはとうてい思えない。

 

 いずれにしても、電書籍革命は、デジタルコンテンツ革命の一側面にすぎない。出版ビジネスだけの話ではない。アメリカでは今年は「ネットテレビ元年」となったようで、Youtubeなどの映像コンテンツに押されてキー局の番組の価値がどんどん低下している。デジタルコンテンツ革命は、すべての既存メディアのあり方を変えていくことになると思う。