[098] 東京国際ブックフェアと電子出版EXPOのガラパゴス化に唖然! 印刷
2011年 7月 10日(日曜日) 01:52

東京ビッグサイトで 「東京国際ブックフェア」が7月7日から開催されているので、足を運んだ。今回もまた「国際電子出版EXPO」が同時に開催され、会場はかなり込み入っていた。東京国際ブックフェアは出版社を中心に紙の書籍の商談が行われる場であり、同時に本の宣伝や販売促進の場でもある。

  しかし、今年は大手出版社に目立った展示はなく、講談社、小学館、集英社、角川など、いずれのブースも地味。文春などはブースを出していない。また、海外からの展示ブースも欧米主要国の参加はなく、今年の特別展示のスペインが目立つ程度で、盛り上がりに欠けていた。

 

 

  そこで、やはり、「国際電子出版EXPO」のほうに足が向くが、こちらも、国際といっても目立つのは中国の「方正」だけで、ほぼ国内勢の展示ブースだけ。人だかりはすごいが、完全にガラパゴス化していて、見るべきものはほとんどなかった。去年は「電子書籍元年」と言われ、iPadが発売されて間もなかったこともあって、アップル、グーグルなどのブースがあった。しかし、今年、彼らは日本をまったく無視。そのせいか、国内陣営の電子書籍向けデバイス、コンテンツ、ソリューションが展示されているにすぎなかった。

  

   

  そのなかで、もっとも大きな展示を行っていたのは、凸版印刷と大日本印刷の印刷大手2社。また、メーカー側では、パナソニックと楽天が組んだブースが注目を集めていた。というのは、パナソニックはこのブースで、日本市場再参入となる電子書籍リーダー「UT-PB1」を初めて展示したからだ。しかし、いちおう期待して手に取らせてもらったが、やはり余計な機能が多すぎて期待は見事に裏切られた。

  楽天は6月14日の時点で、ブックリスタと電子書籍サービスの連携で合意したことを明らかにしている。このブックリスタは、凸版印刷やKDDI、ソニー、朝日新聞社が電子書籍共通配信プラットフォームを提供する目的で昨年立ち上げた事業会社。つまり、この陣営に新書籍リーダーを携えてパナソニックが加わったことになる。これは、プレーヤーが増えて、一見すると市場が成熟してきたように見えるが、実態は逆だ。

 

パナソニック「UT-PB1」

  日本では、この1年間、電子書籍をめぐって、プレーヤーが乱立し、合従連合を繰り返してきた。それがかえって、電子書籍市場が確立されない原因になっているのだ。会場に来ている多くの関係者が、今後、電子書籍市場はどうなるのか?と思っていたはずだが、残念ながら、その答えはこの会場にはなかった。結局、いま日本にある電子書籍市場はマンガやエロコンテンツを中心にしたケータイ市場だけ。電子書籍リーダーが普及せず、iPadのようなタブレット端末も売れない。まして、PCで電子書籍を読むなどというライフスタイルはありえないから、このままでは一般書籍の電子市場ができるのはまだ先になる。こんな思いが強まっただけだ。

  電子書籍市場というのは、イノベーションの進歩、つまり利便性に富んだいい端末ができただけで確立するものではない。また、単に本を読むだけなら、端末にたくさんの機能はいらない。「Kindle」のようなモノクロでシンプルなもので十分だ。iPadや日本メーカーも参入し出したタブレット端末は、電子書籍リーダーとしては多機能すぎて使い勝手が悪い。実際、アメリカではB&Nの「Nook」は機能を落とした機種が売れている。また、コンテンツはできる限り多いにこしたことはない。

  つまり、電子書籍市場というのは、それに特化したサービスが整うことで成立する。そう考えると、現在の日本勢のあり方は、いくつものサービスと端末が乱立するだけで、ユーザーにとっては非常に使い勝手が悪い。

  

  有力電子書籍ストアのデバイス対応状況と支払い方法
 (http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1106/30/news113.html )  

  新しく発売された電子書籍端末を買い、新しくできた電子書籍ストアにアカウントを開くために個人情報を登録し、決済方法を選び、それから自分の読みたい電子書籍を探して購入する。こんな面倒なことを、シャープ、ソニー、パナソニック、富士通など、端末別の各陣営ごとにバラバラに行う人がどれほどいるだろうか? ユーザーとしては、いま持っているケータイ、スマホですぐに好きな電子書籍を買えればいい。だから、いまのところ大げさなリッチコンテンツ(音声や動画付き)など必要なく、小さな画面に適したシンプルなコンテンツがたくさんあればそれで十分だ。

 このままだと、日本の電子書籍産業はますますガラパゴス化し、どこも成功しないということまで考えられる。いずれ、アマゾン、アップル、グーグルが日本市場をオープンさせれば、そこに全部持っていかれるだろう。そのほうが、ユーザーにとっては便利だし、コンテンツを出す側(著作者、出版社など)も、いまのように面倒なことをしなくてすむからだ。

  現在、利口な会社は、リッチコンテンツなどつくらず、オーサリングをしてくれる業者にコンテンツ制作を頼まず、単に書籍データを社内に蓄積させている。いずれ、HTML5で全部制作するのだから、いまの時点で各陣営ごとに形式の違うファイルをつくっても仕方ない。

  要するに、いまはケータイ市場だけを相手にして、あとは市場ができてくるのを待つ。これが、いちばん賢い選択だ。また、ユーザー側も、乱立する電子書籍リーダーなど買わず、様子を見ているのがいちばん賢いと言えるだろう。