[099] 出版界に衝撃!ハリポタ著者主導による完全自費出版の波紋 印刷
2011年 7月 27日(水曜日) 16:16

 『ハリー・ポッター』の著者J.K. ローリングさんが「Pottermore」という専用サイトを開設して、『ハリー・ポッター』の全巻E-Book版や関連グッズを直販していく計画を6月23日に発表 した。

 これは、出版界にとっては、出版社はおろか書店さえも通さず、アマゾン、アップル、グーグルも関係ない「究極の中抜き」だったので、その後、多くの波紋を巻き起こした。もし、このような電子書籍のダイレクト販売が成立すれば、もちろん、出版社はいらない。しかも、これまでアマゾンを中心に築かれてきた電子書籍ビジネスも、こういう著者サイトの登場で、大きなターニングポイントを迎える。

  

 

 そこで、このサイトがどんなものなか注視を続けてみたが、どうやら、落ち着くところに落ち着いたようだ。当初は、ローリングさんがどういうサイトをつくるのか憶測が乱れ飛んだ。しかし、蓋を開けてみると、ローリングさん自らがハリポタ世界へのこだわりを書き下ろす、ハリポタ関連のグッズが買える、本に登場する幻想世界をバーチャルな映像で見せるなど、よくありがちなファン中心のコミュニティーサイトだった。とはいえ、出版界が懸念したハリポタのE-Book版は、やはり、出版社も書店も関係ない「中抜き」であるのは間違いなかった。

  

 これに対して、とくに書店では不満が爆発。これまで、プリント版のハリポタを売ってきた実績はまったく無視されたかたちになったので、恨みつらみの声が広がった。ともかく、ハリポタのE-Book版はこのサイトでしか買えないのだから無理もない。

 ただし、出版社と映画会社は少しはマシか。出版社(英ではブルームズベリー、米はスカラスティック)と映画会社(ソニー)には、売上げの一部が支払われるということが明らかにされると、いったんは落ち着いた。とはいえ、それでもこれまでの販売から得られる利益に比べたら、その額はわずかなものになるのは間違いないだろう。

 

 いずれにしても、なにより出版界が驚いたのは、彼女がこれまでは電子書籍を軽視し、「紙の本を愛している」とたびたび発言してきた態度を豹変させたことだ。記者会見したローリングさんは、「(電子出版の)進化を止めることはできない」と興奮気味に語ったので、その態度に反発を覚えた出版人も多かった。

 J.K. Rowling Announces Pottermore

http://www.youtube.com/watch?v=i5DOKOt7ZF4&feature=player_embedded

  こうした動きを見て、グーグルは7月20日、ハリー・ポッターの電子書籍が、同社の提供する「Google Books」の電子書籍プラットフォームで読めるようになると発表した。全世界のすべてのコンテンツをグーグルのプラットフォーム上に集め、そこにアクセスできないようではグーグルの価値がなくなると判断したグーグルは、「Pottermore」と提携するしか道はなかったようだ。同じく、アマゾンも関係者が「Pottermore」と提携したことを、技術系ニュースサイトTechCrunchで明らかにした。

 

 このようにして、この騒動はなんとか終息に向かっているが、ここでの教訓は、J.K. ローリングさんのような超人気作家になると、ほぼなんでもできるということ。電子書籍時代は、既存の大作家の力をますます強化する。デジタルのなかでも、二極化が進むということだろう。

 「Pottermore」は、主人公ハリー・ポッターの誕生日に設定されている7月31日にサイトのベータ版が始動し、E-Bookの発売は10月に準備されているという。