[004]100年に1度の危機はルールメーカーになれるチャンス! 印刷
2009年 2月 05日(木曜日) 06:19

2009年2月5日

『亡国から再生へ』が、なんと1年半で文庫化


 2月4日、徳間書店より、徳間文庫新刊『市場原理主義が世界を滅ぼす!』(高杉良・著)が送られてきた。
 この本は、私が一昨年、編集してペーパーバックスで出した『亡国から再生』の文庫版である。そこで、この本の内容に即して、いまの「100年に1度」大不況について、私の考えを述べていきたい。
 
 なぜ、まだ市場に出て1年半しかたっていない本が、文庫になったのか? 
 そのことにから説明してきたい。

 


 文庫化は、通常なら親本の出版から少なくとも3年を経ないとできない。また、親本が市場にあった場合は、さらに期間をおくのが常識だ。しかし、今回は、異例の早さで文庫化された。
 その経緯は、この文庫版の「あとがき」に、著者の高杉良氏が書いているので、ここでは省くが、異例のスピードで文庫化された理由は、ただ1つ。このタイミングがベストだからだ。

 文庫版の「あとがき」と「まえがき」で、高杉氏が主張されているのは、小泉・竹中コンビによる改革が今日の日本の惨状をもたらしたということ。つまり、タイトルにあるように、アメリカ流の行き過ぎた市場原理主義は、日本ばかりか、世界を破壊してしまったのである。このことに、いま、異論を唱える人はいないだろう。

 つまり、今回の文庫化の最大の理由は、ここにある。要するに、改めて私たちは、あの小泉改革の5年間をふり返らなければならない。いまこそ、それをすべきときなのだ。そして、そのためには、この本は最適の本だと思う。

小泉・竹中コンビを「亡国コンビ」と言ったのは高杉氏だけ

 昨年秋のリーマンショックから、世界は大きく変った。アメリカ発の金融危機が世界中を巻き込み、いまや日本経済も底なしの泥沼に沈んでいる。トヨタをはじめとする日本の有力企業の惨状を見れば、ここにいたる道筋で、なにかが間違っていたと言うしかない。

 では、なにが間違っていたのか? それは、アメリカの市場原理主義、新自由主義に、わが国の経済システムを合わせすぎたことである。つまり、それを「改革」と称した首相と改革の旗を振った経済学者の罪は、ことのほか大きい。実際、アメリカのコピーをやり続けたイギリスは、もはや日本以上に救い難い状況に陥っている。

 しかし、小泉・竹中改革に、異を唱えたメディア、評論家、エコノミストは、どれほどいただろうか? あの郵政民営化の熱狂のときをふり返れば、皆無だったのではなかろうか? そんななか、高杉氏は著名な作家のなかで、ただ1人、「2人は亡国コンビ」だとして、論文を月刊誌などに発表してきた。
だから、私としても、お願いしてペーパーバックスから『亡国から再生へ』を出させてもらった。

 手前味噌になるが、このペーパーバックスでは、一貫して日本の構造改革路線を批判する本を出し続けてきた。最初は、ベンジャミン・フルフォードの『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日』だったが、その後も、『2008年IMF占領』(森木亮)『国家破産以後の世界』(藤井厳喜)『小泉純一郎と日本の病理』(藤原肇)などを出し、郵政民営化総選挙後は、破れた小林興起氏による『主権在米経済』を出した。

 こうした編集部のスタンスを、アメリカ嫌いの「反米愛国右翼」と勘違いされたこともあるが、それは違う。私としては、グローバル化を前提とした多文化主義(マルチカルチャラリズム)に軸足を置くことにしていたので、なかなか理解されなかった。

 



メディアの仕事は「公共の利益」を追求すること

 個人的なことを言えば、私は、娘をアメリカンスクールに通わせ、アメリカの教育と文化で育てたから、アメリカが好きである。私の親戚もアメリカンスクールを出てアメリカの大学で博士号を取っているから、アメリカには知り合いも多いし、娘の恩師もいる。ただし、それと、私たちがすべき仕事とは違う。

 光文社ペーパーバックスは、日本の出版メディアである。民主主義のもとのメディアの仕事は、常に全体の利益(つまり、出版ジャーナリズムなら読者の利益)を考えることだ。そうすると、この時代は、グローバル化が大前提で、そのなかで、国も国民も自国の文化と伝統を維持しながら、変わっていかなければ、未来は開けない。

      The art of democracy is to ability to recognize the common good.
         (民主主義democracyの真髄は、公共の利益を認識する力にある)

 これが、私が常に心がけていたことだ。common goodとは、ここでは「公共の利益」としたが、平たく言えば、「みんなのためになること」、つまり、出版物はcommon goodでならなければならい。
こうした考えに基づくと、とてもじゃないが、小泉・竹中路線礼賛本など出せない。


改革路線をあおったマスメディアの罪も重い

 いまも思うが、小泉・竹中コンビは、common goodなどには興味はなく、ただ、徹底的にアメリカの言う通りのことをしただけだ。なにも考えず、市場原理主義で儲ける金融資本と結びついたブッシュ政権の言うとおりのことをやったにすぎない。そして、それを改革と称したのだ。

 笑えるのは、あれほどブッシュべったりだった小泉前首相が、退陣したブッシュ大統領から、感謝すらされなかったことだ。退陣にあたってブッシュ大統領は、1月13日に、ハワード前豪州首相、 ブレア前英国首相、ウリベ・コロンビア大統領の3人をワシントンに招待し、「アメリカに貢献してくれた」と叙勲している。
 イラク戦争の費用をもっとも多く負担し、円キャリートレードでアメリカ金融資本をたらふく儲けさせた日本のこの扱いは、もうマンガ以下である。

 高杉氏は、先日お会いしたとき、「やはり、私の考えは間違っていなかっただろう。こうなってみれば、多くの人間が理解してくれるはずだ」と言った。文庫版の「まえがき」で、高杉氏は、こう書いている。

「小泉ー竹中路線がまともな政治を行っていたら、サブプライム住宅ローンで深手を負った欧米先進国に比べて、日本経済はもっともっと比較優位であり続けたと断言できる.〈改革の手をゆるめるな〉〈構造改革総仕上げの年〉などと主張し、小泉—竹中路線を支持し続けた日本経済新聞を始め、同路線に与したマスメディアの罪も深く重い。」

 まったく、そのとおりだと思う。


なぜいま、財政出動(バラマキ)しなければならないのか?


 しかし、いま、私が愕然とするのは、日本のメディアの豹変ぶりだ。金融危機が起ってから、あれほど改革をあおり、バラマキを批判したにもかかわらず、アメリカが自国経済を救済するために国民の金をつぎ込み出すと、「日本もそうしろ」と主張することだ。
 「麻生政権の経済対策では話にならない」と言い、オバマの8000億ドル、中国の6兆元規模の「大型財政出動」をやるべきだと言うのだ。これは、自民党も民主党も経済学者も、いまやすべてのメディアと識者が唱えている。またしても、世界の「猿真似」である。

 しかし、日本はそんなことをすべきではない。これは、誰ひとりとして言わないので、ここで、私が書いておきたいことだ。

 なぜ、日本は財政出動してはいけないのか? 
 それは、そんなことでは救われないからである。日本は、いまなにもせず、黙って耐えることのほうが、この先の未来は開ける。財政出動で公共事業をやり、無理矢理雇用をつくり出してもムダだ。それは、バブル崩壊以後、何百兆円もつぎ込んで道路やハコものをつくり続けても、結局、なんにもならなかったことが証明している。

 あのとき、「ケインズは死んだ」と言った人々が、いまそれをやれというのだから、これも漫画だ。

 今後、財政出動(すなわちバラマキ)をした先進国には、日本と同じように「車が通らないハイウエイ」「誰も使わない公共施設」が増えるだけだろう。ただ、中国やインドは、まだインフラ未整備だから、効果はある。しかし、日本はもう限界を超えている。しかも、財政出動は国家財政の借金を積み上げ、将来世代の税負担を重くする。さらに、これ以上の借金は、国家破綻を招く恐れが強い。
 
 では、どうすればいいのか?


世界各国の公共事業を受注せよ!

 私の考えは、ほかの国がそれほどバラマキをするなら、そのカネを日本が取りにいけばいいのだ。日本企業が、バラマキをする国の公共事業を積極的に受注に行けばいい。

 アメリカはあれほど渋っていた、サンフランシスコ〜ロサンゼルス〜サンジエゴ間の新幹線(高速鉄道)をつくることを決めた。また、中国は、今後、北京〜南京〜上海を手始めに、高速鉄道網をつくる。高速道路網も、さらにつくり続ける。これらを、日本企業が受注すれば、日本人の税金を使わなくても景気対策はできる。
 中国の重慶では、都市交通としてモノレールをつくった(重慶は地盤が固く地下鉄はできない)が、これを受注したのは川崎重工、日立製作所、三井物産の日本コンソーシアムである(ただし、これは円借款のODAがつぎ込まれたが)。これと同じことを、日本企業は世界中でやればいい。

 バブル崩壊以後、アメリカは「内需を拡大をせよ」と、日本にさかんにけしかけた。そして、公共事業(バラマキ)をどんどん行わせ、その受注に、ベクテルなどの大手ゼネコンを参加させろと言ってきた。日本が拒むと、「日本は閉鎖的だ」と批判した。これと、同じことをやり返してなぜいけないのだろうか?
 しかも、いま、日本でバラマキを復活させれば、そのカネは日本から出て行くだけだ。


環境問題に本気で取り組むなら中国と組め!


 この前のブログ[002]でも書いたが、環境ビジネスが、世界各国の財政出動の対象になっている。これは、日本にとってはビッグチャンスだが、それを国内で粛々とやり、排出権を買い続けるのも未来はない。なぜなら、日本がいまのところ、世界一クリーンな先進工業国だからだ。 
 したがって、日本は環境技術を世界中に売り込める。
 とすれば、日本がいちばん損をする京都プロトコルから離脱し、排出権取引に参加しないことだ。

 むしろ、中国と2国間取引をしたほうが、はるかにお互いの利益になり、アジアの環境は改善される。欧米が決めたルールである排出権権取引は、欧米を儲けさせるだけで、日本のためにはならない。

 かつて、といっても2年前、ペーパーバックスから『日本よ、中国と同盟せよ!』という本を出した。著者は、『週刊現代』の副編集長の近藤大介氏だったが、彼と中国を取材しながら、この思いを強めた。日本人は、アメリカも嫌いだが中国はもっと嫌いだ。とくに、保守言論はそれで成り立っている。だから、この本はまったく売れなかった。
 しかし、いまや、欧米が崩壊した以上、この選択肢はありえる。環境問題を思うと、お互いにトクできるのは、中国だけだ。

 オバマ大統領の「グリーン・ニューディール」政策の正体は、前の記事に書いたので、それを参照にしてほしい。排出権取引は、サブプライムローンのCDSと変らない「金融詐欺商品」である。


市場経済でなくなったアメリカはルールを変える?


 さて、最後に述べておきたいのは、いまやアメリカは市場経済ではないということだ。だから、市場原理主義など、もう成り立たない。投資銀行は消滅し、銀行は政府が救ったから、みな国営銀行である。また、GMやクライスラーも国営企業である。この先、さらに、いろいろな企業が救済されれば、もはや、中国以上の統制経済国家に成り下がる。しかし、この状態は、独裁国家のように、ある意味でなんでもできる。

 それなのに、日本はまだアメリカのマネをしようというのか? 

 経済が国のコントロール化に入ったアメリカが、この先怖いのは、彼らがルールを変えてくる可能性があることだ。
 かつてアメリカは、BIS規制、時価会計、新株式会社法、三角合併、時価総額経営など、ありとあらゆるルールを押し付けてきた。しかし、いまや、自らそのルールを破っている。
 なぜそんなことができるかと言えば、それは彼らが「ルールメーカー」(あえて胴元と言う)だからだ。

 歴史を大きくさかのぼれば、欧米はいつもルールを自分たちで勝手につくり、それを世界中に押し付けることで繁栄してきた。大航海時代以後、ずっとそうだ。帝国主義時代は、すべて彼らがルールを決め、第二次大戦後の体制も、欧米主導でルールが決められてきた。それ以外の国(日本はもちろん)は、そのルールの上でプレーさせられてきたにすぎない。
 もし、市場主義経済がバクチなら、プレヤーは必ず負け、胴元だけが儲かる。

 新自由主義による市場原理など、そんなものははじめから、アジアには存在しないのだ。

 アメリカは20世紀の世界覇権を握ってから、何度か危機に陥った。しかし、その度に、ルールを変え、復活して世界をリードしてきた。だから、ドルが基軸通貨であり、アメリカに世界覇権があり続ける以上、ほぼなんでもできる。どんなにバラマキを続け、ドルを刷り続けてもかまわない。なぜなら、あのドルショックと同じように、借金が払えないとなったら、チャラにしてしまえばいいからだ。


100年に1度は、ルールメーカーになれるチャンス


 ドルショックは、ドルと金を切り離すことで、アメリカの借金をほぼチャラにしてしまった。産油国や日本などが貯め込んだドル資産は一気に目減りした。これと同じ手を使うなら、ドルを刷り続けて暴落しそうななったら、ドルを廃止して新通貨を発行してしまえばいい。そうすれば、ドル建てで発行されているアメリカ国債がデファールトしても問題はない。困るのは、中国と日本やサウジなどである。
 また、アメリカ国債をある日「100年債にする」と宣言して、償還を事実上先送りにする手もある。

 しかし、地域覇権すらない日本が、基軸通貨でもない円を刷り続け、国債を発行してバラマキを続ければ、どうなるか? もし、デフォールトとなれば、日本人の円資産はすべて吹き飛んでしまう。

 「100年に1度の危機」というからには、「100年に1度」のビッグ・チャンスかもしれない。だが、そう思う人は少なく、相変わらず、メディアも識者も、「世界に比べて日本の景気対策は遅い」などど、中身が空っぽの言説を振りまいている。
 
 私は、これまで、日本は明らかにピークを過ぎたと思ったきた。
 しかし最近は、この危機は、いつまでもプレヤーでいる状態から脱出できるチャンスかもしれないと思うようになった。
 ここ100年で、ここまで、欧米主導の秩序が壊れたことはなかったはずだ。そう思うと、これを機に、なんとか日本もルールメーカーになれる側に回ってほしいと思う。

最終更新 2011年 12月 30日(金曜日) 23:53