[115] 日本破綻の引き金を引くのは経常赤字への転落。そのときはいつか? 印刷
2012年 1月 31日(火曜日) 02:43

2012年最初の1カ月が終わった。この1カ月間、毎日のように、日本の将来が暗いというニュースが続いた。なかでも極めつけは、日本が31年ぶりに貿易赤字国に転落したというニュースだろう。

  増税国会が始まったタイミングで、このニュースほどインパクトがあるものはなかった。なぜなら、この先、貿易赤字ばかりか所得収支も赤字になる可能性があるからだ。つまり、日本は経常赤字国に転落してしまうのである。それまでにどれくらいの期間があるかはわからないが、もしそうなったら、日本は間違いなく財政破綻するだろう。

   所得収支で貿易赤字が埋められなくなると、経常収支は赤字になる。これは政府と民間を合わせた日本全体の家計が赤字ということだから、事態は深刻だ。これまでは政府債務の大きさが問題視されてきたが、これはあくまで日本政府の借金である。今日までの日本は、いくら政府の債務が大きくとも、経常収支の黒字によって、市場からは信認を受けていた。

 

経常黒字がなくなると日本は外から借金するしかなくなる

 

  なにしろ、経常収支の黒字国というのは、世界に3カ国しかないのだ。ドイツ、中国、そして日本である。しかも、日本は対外純資産を251兆円(2010年末時点)も持っている。そこで市場は、「これならいくら国内財政が大赤字でも、まだ借金を払える余地がある」と見てきた。これは、赤字企業でも潤沢な資産さえ持っていれば、まだ借金できるのと同じことだ。しかし、所得収支で貿易赤字の穴を埋められず、対外資産を取り崩すようになったら、市場の信認は一気に崩れる。

  経常黒字がなくなると、日本は外から借金するしかなくなる。はたしてそのとき、世界最悪の借金大国におカネを貸す(つまり日本国債を買ってくれる)国があるだろうか? ありえないはずだ。したがって、間違いなく、日本国債は暴落するだろう。これまでは、個人金融資産を国の借金総額が上回るときとされてきた「ドゥームズデイ」だが、経常赤字への転落がその引き金を引きそうだ。

 

「経常赤字転落2015年」「早ければ2年後」

 

  では、経常収支の赤字転落はいつごろ起きるだろうか?

  現状の政治停滞、空洞化の進展、日本企業の総崩れ状況から見て、かなり早いという見方が有力だ。私もそう思う。貿易黒字を稼ぐ日本の基幹産業は、いまや総崩れだ。ソニー、パナソニック、トヨタといった大手電機・自動車メーカーはいずれも大幅な減収、赤字、リストラに見舞われている。トヨタはとうとう日産・ルノーにも抜かれ、世界第4位に後退した。ここに、今後増大するであろうエネルギーコストが襲いかかる。

  次は、電力5社の赤字額(日経報道による)だ。合計すると、1兆円を超えてしまう。

   東京電力 6000億円
   東北電力 2500億円
   九州電力 1500億円
   中部電力 1100億円

  そこで、電気料金も値上げとなるのだろうが、そんなことをすれば企業はもっと出ていくだろう。こうした状況から、「経常赤字転落2015年」を唱える人間もいる。ここ数日、何人かの市場関係者と話したが、「崩れるときは一気かもしれない」という人間もおり、「早ければ2年後」と言った人間もいる。

 

輸出が20%以上、大幅に減少しているのは大きな問題

 

  ここで、30日に発表された1月上旬(1~10日)の貿易統計(通関ベース、速報)を見ると、輸出が-20.7%(6602億円)、輸入が+24.3%(1兆5763億円)となっていて、9163億円の赤字である。つまり、今年になって最初の10日間でもう約1兆円も赤字なのだ。昨年、2011年度の貿易赤字は年間で2兆4900億円だから、今年に入って赤字は大幅に増えていることになる。

  輸入の増加はそれほど問題とは言えないが、輸出が20%以上、大幅に減少しているのは大きな問題だ。日本企業の海外移転、富裕層の資産フライト、外資の日本撤退などが加速している、なによりの証拠だからだ。

 

経常赤字が見えてくると国債金利がじわじわと上昇

 

  貿易赤字を埋める所得収支だが、これは海外資産からの利子・配当金収入である。これは、企業の場合、その主体が日本にあるから入ってくる。仮に企業が海外移転してしまえば、配当収入は計算上は入ってこない。この配当収入も、それを国内の赤字を埋めるために使うとなると無駄な支出になり、結果として企業の体力を落とす。そこで、やはり、海外資産、海外売上が多い企業は、海外移転したほうが合理的な選択となる。

  経常赤字が見えてくると、おそらく国債金利はじわじわと上昇を始めるだろう。現在、対外純資産から生まれる所得収支は約10兆円以上あるから、これを食いつぶすには一定の時間がかかる。それでも、貿易赤字額が増加すれば、限界は見えてくる。

  限界が見えたらもう政治混乱などしていられない。増税でも歳出カットでも死に物狂いでやらないと、市場は反乱を起す。すでに、ヘッジファンドのなかには、日本国債暴落のポジションを組んでいるところがある。

 

日本国債を売り崩そうとするヘッジファンド2社

 

  日本国債を売り崩そうとしているのが、ニューヨーク「グリーンライト」とテキサスのダラスを本拠とする「ヘイマン・キャピタル・マネジメント」だ。彼らを日本のメディアは敵視しているが、これは大きな間違いだ。

  たしかに、ギリシャやイタリアの国債暴落を仕掛けたのは、ヘッジファンドである。しかし、ヘッジファンドが仕掛けたから国債が暴落したのではない。悪いのは、無制限に政府債務を積み上げた政府のほうだ。

  ヘッジファンドはその弱点を突いて、国債のカラ売りポジションを仕込み、そのうえでCDSのプレミアムを上げる売買をする、というような方法を取ったにすぎない。本来、財政がしっかりしていれば、いくらヘッジファンドといえども投機は仕掛けられない。これは、日本国債でも同じことだろう。

 

国債を買うか、ヘッジファンドを買うかの「究極の選択」

 

  ここで、究極の選択が生じる。信用できない政府が発行する国債とヘッジファンドのどちらに虎の子のマネーを預ければいいのか? 経済合理性から言えば、当然、ヘッジファンドだろう。市場の動きと関連しない、上がろうと下がろうと儲ける絶対リターンの追求は、ヘッジファンド以外にはできない。

  現在、世界の年金資金の多くがヘッジファンドに集まっている。当然、日本の年金資金の一部も、そして世界で2番目に富裕層が多い日本の富裕層マネーの多くも、ヘッジファンドをとおして運用されている。

  「グリーンライト」と「ヘイマン・キャピタル・マネジメント」にも日本人富裕層のマネーが当然入っている。日本人だから日本国債を買って日本を守らなければならないという理由などないのだ。

  「ヘイマン」のカイル・バズ氏は、日本のメディアのインタビューにたびたび応じている。気さくな人柄だが、投資には自信を持ち、「日本国債は必ず暴落する」と断言している。

  現在、日本の国債はほとんどが国内で持たれており、海外勢が持っているのは約8%だ。しかし、これは現物市場であり、先物市場となると約40%が外国人である。さらに証券会社の自己売買を除くと、外国人の市場参加率は68%にまで高まる。

  日本国債の暴落は、まず先物市場で始まり、それとの裁定で現物が暴落するとうプロセスになるだろう。

 

日本国債は誰が持っているのか? ゆうちょが最大の保有者

 

  日銀が発表している資金循環統計によると、2011年9月末時点の国債保有者(国債・財融債のみ、国庫短期証券は含まず)は、一番手が民間預金取扱機関となっており、金額にして284兆2743億円、全体に占める割合は38.0%となっている。

  続いて、民間の保険・年金が185兆4285億円の24.8%、公的年金が70兆3370億円の9.4%、日本銀行が63兆6166億円で8.5%、海外が47兆4040億円の6.3%、投信など金融仲介機関が39兆8137億円の5.3%、家計が29兆4916億円の3.9%、財政融資資金が8817 億円の0.1%、その他26兆9444億円の3.6%となっている。

 ここでいう民間預金取扱機関とは、預金を取り扱っている金融機関、つまり銀行である。このなかには、ゆうちょ銀行も含まれる。2011年3月末時点でゆうちょ銀行は 146兆円の国債を保有しており、民間預金取扱機関の約半分程度をゆうちょ銀行で占めていることになる。

 

日銀の国債引き受けは「借金を返さない」宣言と同じ

 

 国債暴落が起ると、ゆうちょをはじめとする日本の金融機関は、国債の投げ売りをするしかなくなる。CDSのリスクプレミアムの上昇、それに続く国債先物市場の暴落、そして現物市場の暴落と来て、国内金融機関による「売りが売りを呼ぶ」パニック状態が想像できる。

  こうなると、政府は日本の金融市場を閉じざるを得なくなる。預金封鎖を行い、日銀に国債を引き受けさせて、金融機関を救済する。しかし、日銀による国債引き受けは、デフォルトと同じだ。財政法で禁じられているだけに、それを強行するのは最悪の選択だ。

  日銀が国債引き受けるということは、際限なく紙幣を刷るということだ。つまり、日本政府は「借金を返さない」と宣言するのと同じことなのである。当然、市場の信認はなくなり、ハイパーインフレがやってくる。政府債務は圧縮されるが、国民生活は吹き飛ぶ。年金が定額支給されても、そのときの物価がいまの何十倍なら、それは1、2日の生活費ぐらいにしかならないだろう。

 

ゴールドマンサックスのオニール氏も日本国債暴落を指摘

 

  この1月18日に、ブルームバーグが配信した記事が波紋を呼んでいる。その記事は、「ゴールドマンのオニール氏:円は25%過大評価-日本の黒字は終わりか 」というタイトルで、ゴールドマンサックス・アセットマネージメントのオニール会長をインタビューしたもの。以下、引用させてもらう。

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  《ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのジム・オニール会長は、円が恐らく25%過大評価されていると指摘し、日本が貿易・経常収支で黒字を確保できる時代が「終わったように見える」と述べた。同会長は10年前に中国など4大新興国を「BRICs」と命名したエコノミストとして知られている。

  オニール会長はブルームバーグテレビジョンの番組「インサイド・トラック」のインタビューで、「日本は経常黒字を維持する能力を失いつつあるように見 える。さらに1%の国債利回りや公的債務のGDP(国内総生産)比率が200%であることを考えると、円は恐らく少なくとも25%過大評価されている」と 語った。

  同会長は、日本国債のショートポジション(売り持ち)が利益を生む日が「ますます近づいている」と予想。「欧州の状況よりもずっと興味深い。欧州情勢は18カ月前には興味深いものだったが、今はそれほどではない」と付け加えた。》

 

ダボス会議での間抜けスピーチと増税のお約束

 

  それにしても、こんななか、スイスのダボス会議で菅直人前首相が「反原発スピーチ」をしたのだから、日本は末期症状だ。1月26日、東日本大震災をテーマとした会合に登場した菅前首相は、「原発の安全管理の必要性」を訴えた。

 しかも、このスピーチに先立ち、『ウォールストリート・ジャーナル』(電子版)のインタビューに応じ、「日本の前首相、反核活動家に転身」という記事を書かれている。世界中が、政府債務の問題で行き詰り、ドイツのメルケル首相、イギリスのキャメロン首相、アメリカのガイトナー財務長官、IMFのラガルド専務理事らが世界の経済情勢の討論をしているというのに、この人はなにを考えているのか。

  野田佳彦首相も、1月28日に、都内のスタジオからテレビ会議方式でダボス会議に参加した。そして言ったのは、バカのひとつ覚えになった増税論。消費税率引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革について国際社会に説明し、「先送りしない政治を実践する。持続可能な社会保障制度を構築し、財政規律を維持するため、消費税引き上げを含む改革を必ずや実現する」と強調した。

  もう、こういうことを言わないと、市場は納得しない。日本国債は暴落寸前まで来ていると思うしかない。

 

欧州、アメリカと防護壁を築いて危機が止まれば、残るのは日本だけ

 

  世界はいま時限爆弾を抱えている。ダボス会議の話に戻ると、G20の議長国を務めるメキシコのカルデロン大統領は「経済危機の時限爆弾が欧州にある。爆発する前に止めなければならない」と、訴えた。

  そして、ガイトナー米財務長官は「より現実的で、より強固な防火壁を持つことが必要だ」と言った。すでにアメリカは、向こう2年間の実施質セロ金利政策を取ることをバーナンキFRB議長が表明している。いずれ、QE3も実施されるだろう。欧州が片付くかどうかはまだわからないが、アメリカが崩れるなどということはありえない。この国は、世界覇権国である。

  欧州、アメリカと防護壁を築いて危機が止まれば、残るのは日本だけだ。