[116] 出版デジタル機構の電子化100万点計画はうまくいくのだろうか? 印刷
2012年 2月 27日(月曜日) 19:41

  日本の出版社が大同団結する「出版デジタル機構」が、この4月から新会社として本格的に業務をスタートさせることになったことを、2月27日付の朝日新聞朝刊が伝えている。この記事によると、「講談社、小学館、集英社の大手3社を中心に複数社が計約12億円を出資する前例のない形で、書籍100万点の電子化をめざす。大日本印刷と凸版印刷にも各5億円の出資を求めている。出資総額は20億円規模になり、さらに上積みされる見通し。3月に正式決定する。」となっている。

 

 もともと出版デジタル機構は、アマゾンなどの日本上陸に対抗し、日本独自の電子書籍のインフラと流通を確保したい、との戦略でスタートした。さらに、プラットフォーム側に価格決定権を握られるのを阻止したいという出版社側の思惑もあった。いずれにせよ、現状では電子書籍の点数が増えないので、それを独自に増やしていく。そうしながら、最終的には日本の電子書籍のデジタル管理機構(これは音楽でいえばJASLAC)をつくるという構想を描いてきた。

  つまり、日本の電子書籍に関してはすべてここを介せば、なんでもわかるし、なんでもできる、そんな組織にしようというのだった。

 

参加出版社はどんどん増えて180社に

 

  そこで、まずは、出版社と流通側の間に立って電子データを管理する。それを電子取り次ぎ(流通会社)や電子書店に卸売りするという形態になった。それで、出版社は機構に書籍を提供するだけでよく、初期費用はゼロということを打ち出し、参加社を募ってきた。現在、その参加社は、日本の有力出版社のほとんどにおよび、180社になった。

  では、今後、この出版デジタル機構が、日本に本当の意味での電子出版時代をもたらしてくれるのだろうか?

 

既刊本100万冊はいいけど、電子版だけのときは?

 

 参加しているある中小出版社の社長は、「ここに参加したのは、自社でデジタル化すると費用がかかるから、それにうちには流通ノウハウがないから」と、本音をもらす。さらに「どうせ儲からないのに、いま本気になる必要はない。大手が参加してうまく回してくれたあとでついて行けばいいでしょ」と言う。

  ただ、デジタル化費用などタカが知れているので、本当に電子書籍を売りたいなら、こんな中間組織は必要ないという意見もある。また、「朝日記事では100万点デジタル化すると打ち上げているけど、それは既刊本の話でしょ。今後はプリント版などつくらず、電子版だけになる。そのときは、どうするんでしょうか? 」という関係者もいる。つまり、電子版だけの電子書籍も、そのデータを提供して管理してもらうのだろうか?

  いずれにせよ、日本ではマンガ以外の書籍の電子書籍市場は未開拓のまま、放置されている。じつは、この状態が続いていくほうが、出版社にとっては都合がいいから、今回のこともはたして本気なのか?といぶかる声もある。

 

電子書籍は自由価格でないと普及しないのでは?

 

  私がいま、いちばん気になるのは、ここを介すると、電子書籍の価格がどうなるか?ということだ。おそらく、参加社の電子版は紙版の定価に縛られて自由価格にはならないだろう。出版社同士が手を組む最大の目的は、価格決定権を握り、電子版の値崩れを防ぐことにあるからだ。

  そうすると、いくら点数がそろおうと、一般書の電子書籍は普及はしないのではないだろうか。現在、ベストセラーリストにある紙の書籍の上位20、30点が電子版でも出版され、それが平均500円ぐらいの価格で売られないことには、この市場は成立しないと思う。出版デジタル機構は、そんなことができるのか?

  単に日本の電子書籍の管理用データベースができるだけにならないといいのだが。