[124] 愛国者なら「即刻国家破産せよ!」と主張すべき。財政破綻を逆手に増税を画策する財務省、支持する大メディア、破綻はないとする識者は、みな「反・愛国者」。国民を地獄に導く! 印刷
2012年 4月 21日(土曜日) 05:27

今回は、いつも「なぜこうなってしまうのか?」と思っていることを、整理して書いてみたい。それは、「増税して財政再建を」「財政破綻はありえない」「日本は強い国」「日本は必ず復活する」と主張することは、じつは、国民を裏切っているということ。そして、この国をますます悪い方向にもって行ってしまうということだ。

   この国を愛するなら、けっしてこんな主張はできないが、実際は、この手の主張が主流であり、そう主張する識者の本が山のように出版されている。さらに、若い層が、こうした言論に染まり、日本の現実を見失っている。これが、私には信じられないのだ。

   私は、昨年『資産フライト』(文春新書)を出し、今年になって、その背景にある日本の財政破綻問題を書いた『円が消滅する日』(日文新書)を出した。この2冊の本に対して、読者の反応は真っ二つ別れた。「なるほどそうだ」と言ってくれる人は少なく、多くの読者が嫌悪感を露わにした。それは、たとえば「あなたのような人はとっとと国を出て行けばいい」「いまこの国で真面目に働いている人を馬鹿にしている」という反応で、私のことを、日本を愛していない、つまり戦前の言葉で言えば「非国民」として捉えているのだ。

私の心情はまったく別なのに、「この国はもう再生しない」「国家破産は目前だ」「国をあてにせず個人としてこの危機を乗り越えるしかない」と主張すると、彼らは<日本の悪口を書いている=日本を愛していない>というふうに、単純に捉えるのである。残念だが、こんな捉え方をすると、ものの本質を見誤ってしまう。

私と逆の主張、つまり「国家破産はない」「日本は再生する」などと言っている人間のほうが、よほど日本を愛していないからだ。しかも、彼らの主張は、国民の目を厳しい現実からそらさせるのでたちが悪い。なぜ、こんな単純なことに気がつかないのだろうか?

   とくに、「日本は再生する」などと根拠のない主張を繰り返す識者こそが、結果的には「非国民」になることに、なぜ、気がつかないのだろうか?

   できもしない改革を唱える政治家、増税を画策する財務省、「増税はやもう得ない」と唱える大メディア、「富裕層にもっと課税せよ」と言う学者、識者なども、みな非国民である。彼らは、本人が自覚しているかいないかは別として、結果的に国民に誤った選択をさせる。そうして、最終的に地獄に行く列車に乗せてしまう。ではいったいなぜ、そうなるのか? 以下、順を追って説明していこう。

 

「こんな本を出版した著者と出版社の良識を疑う」と書かれて

 

   まず、財政破綻は確実であり、いまや時間の問題。日本は、すでにポイント・オブ・ノーリターン(引き返せる点)を越えてしまったと思って書いたのが『円が消滅する日』だが、このような言い方が、一部の人間にはよほど腹に据えかねるらしい。アマゾンのレビューで、「日々汗水たらして歯を食いしばって働いている人の気持ちをわざわざ損ねるような本を出すとは何事か」と、私は説教をされてしまった。そして、最後には、「こんな本を出版した著者と出版社の良識を疑う」とまで書かれてしまった。

   これは、明らかな感情的な反発だ。第一、レビューになっていない。嫌悪感むき出しである。別に嫌われるのはかまわないが、どうしても指摘しておきたいのは、このような反応を示す人間の多くは下流層、よくて中流層に属しているということだ。

   現在、日本の下流層の多く(とくに若者)が思っているのは、「日本はそんな国家破産するような国であるわけがない。実際、オレたちの周りではなにも起こっていないではないか。なのに、不安を煽るなんて許せない」ということだろう。だから「財政破綻リスクを回避するために、富裕層はすでに資産フライトを終えている」と聞くと、「そんな話があるのか」と、信じない。それでもあると知ると、「そんな日本を愛せない金持ちはとっと国を出て行けばいい。どうせ、オレたちはなんにもできないのだから」となる。

 

持たない者は失うものがないのだから財政破綻は歓迎

 

   しかし、金持ちは日本を愛していないから出ていくのではない。また企業も同じだ。いまのままの日本では、金持ちから企業まで、みんな国を出て行かざるをえないのだ。そうして、みな出て行ってしまえば、自分たちの暮らしが成り立たなくなる。このことをもっと考えるべきだろう。

   しかも、実際は、日本が財政破綻してしまったほうが、なにも持っていない若者には都合がいい。財政破綻は資産価値の大幅な減価を招くから、持っている者と持たない者では衝撃度が違う。持たない者はもともと失うものがないのだから、財政破綻の影響は少なく、物価が上がるので生活は苦しくなるが、職さえあればなんとか暮らしていけるだろう。しかし、持っている者は、富裕層も中流層も下流に転落してしまう可能性が強い。

   下流層は、現状のままなら、今後の増税と社会保険料のアップで、ますます苦しい生活を強いられる。しかも、この暮らしには希望がない。それに比べたら、財政破綻後は、年金などの負担がなくなるうえ、希望も持てる。

   だからなぜ、彼らが「日本は国家破産する」と言う人々を敵視するのか、私にはわからない。とくに、ネトウヨとか言われる若者、愛国言論に染まった若者たちの頭の中がわからない。彼らは合理的な計算ができていない。

 

「デフォルト待望論」と「アメリカ出産」

 

   週刊誌の『AERA』は、2012年1月16日号で「資産も職もない絶望感 若者にデフォルト待望論」という記事を載せた。最近の若者の一部は、「この国を早く潰してほしい」と願っているというのだ。これを「リセット願望」とも呼ぶらしい。「リセット」=「財政破綻」=「国家破産」である。

   こうした若者のほうが、よほど合理的だ。これ以上、高齢化社会の老人たちを支えるために働くなんてバカらしい。私だって20代ならそう考える。このまま日本が借金財政を続けるなら、そのツケはすべて自分たちの世代に回るからだ。

   最近、出産を控えた中流層主婦の間でブームなっているのが、アメリカ出産だ。彼女たちは妊娠がわかると、臨月前にハワイやロサンゼルス、シアトルなどに行く計画を立て、現地の病院で子供を産む。こうすると、自動的にアメリカ国籍が得られるからだ。

   これは、すでに韓国や中国では常識で、中・上流層の主婦たちは、子供をアメリカで生んで二重国籍者にする。グローバル社会では、これが有利だからだ。しかし、日本の主婦がアメリカ出産を選択する理由はもっと切実である。それは、「日本人として生まれてきただけで莫大な借金を背負うなんて耐えられない。自分の子供にそれを背負わせたくない」という理由だからだ。

 

生まれてすぐ700万円、生涯を通して8000万円以上の赤字

 

   先日、日本の人口は1億2779万9000人、総人口が1年間で25万9000人減少したと発表されたが、今後はこのスピードで人口が減っていくのだから、生まれてくる子供は大変だ。

   現在の日本国の借金総額は、財務省によると943兆8096億円である。これは、昨年の7月の統計(2011年6月末時点)で、国債と借入金、政府短期証券を合計したものだ。そこで、この借金を人口で割ると、1人当たりの借金はなんと約738万円となる。いまこの時点で日本で生まれてくる赤ちゃんは、マイナス738万円から人生をスタートさせなければならないのだ。

   また、一橋大学の小黒一正准教授が試算した「一生を通じた負担と受益の収支」は、「60歳以上は4000万円の黒字、20歳未満は8300万円の赤字」である。

   つまり、いま生まれてくる日本人は、生まれたときにすでに700万円以上の赤字を背負い、そのうえ生涯を通して8000万円以上の赤字をかかえるのだ。しかも、もし生涯を非正規雇用やアルバイトで過ごすとすれば、生涯収入は1億円に達しない。現在のままの日本国が続けば、非正規雇用者になると、一生政府債務の奴隷で終わってしまう。

   これでは、財政破綻して、債務が整理された後に新しい政府ができたほうが、よほどましだ。現在の霞が関中央集権体制を維持するほうが地獄だ。

 

人口がどんどん減る社会では、どんな企業も成長しない

 

   少子高齢化社会と言われてから何年もたつが、加速度的に人口が減る局面に入った現在、毎年積み上がる借金をどうやって返すのか、膨れ上がる年金などの社会保障費をどうやって工面するのか、政府・財務省はまったく示していない。というか、示せない。どんな優秀な政治家、官僚、財界人、識者が集まっても、この答えは出ない。なぜなら、どこにも金のなる木はないので、人口減社会では破綻するしかないという結論になるからだ。しかし、これは発表できない。

   政府債務は今後も年間約50兆円ずつ積み上がる。社会保障費は年間1兆円ずつ確実に増える。それなのに、年間数十万人ずつ人口は減少するのだ。

   このような状況なら、どんな企業でも海外移転を考えるだろう。現在の日本の税制は優遇措置を受ける一部の大企業をのぞいては、あまりにも過酷だ。年間利益の50%以上も税金で持っていかれては、シュリンクする市場での企業経営などできないし、社員を食べさていけない。この国をいくら愛していようと、会社が倒産し、社員が路頭に迷う選択をする経営者がいるはずがない。ここまでくれば、これまで大企業傘下で国内にしか工場を持たなかった中小下請け企業も国を出る。

   こうして自民党も民主党も支持基盤を失っていく。

 

破産処理を引き延ばせば延ばすほど結果は悪くなる

 

   野田政権が財務省のマペットだということはすでに周知の事実だ。野田政権ばかりではない、これまでの日本の政権は多かれ少なかれ官僚体制の上に乗っただけの官僚主導政権にすぎなかった。だから、こうした体制を一刻も早く壊さないと、さらに借金が膨らみ、最終的に破産(国債のデフォルトとは限らない)したときは、その被害は、いま以上に深刻なものになる。

 だがいまこの時点で、破産宣告して破産処理に入れば、少なくともインフレ・円安になっても、物価は2、3倍、1ドル200円ですむだろう。

   しかし引き延ばして、国債が先物市場で投げ売りされ、国債金利が急騰する局面、つまり、市場が強制的に破産を強要してくる局面になると、国家破産の被害は国民を地獄に突き落とす可能性がある。政府は役人の給料も払えなくなるから、必ず、国債を日銀に直接引き受けさす。こうなると、円は紙くずだ。インフレも抑えが利かないハイパーインフレになるだろう。

 

国家破産は単に「現在の日本政府の破産」にすぎない


   「国家破産はない」などと、いまはまだ言っていてもいいが、その日(ドゥームズデイ)が来たときはどうするのだろうか?

   下流層に限らない、日本を愛すると称する人々(仮に「愛国派」と呼んでもいい)が誤解しているのは、国家破産(財政破綻)を日本の破滅と考えていることだ。だから、そんなことを起こしてはならない。そんなことを主張するだけでもよくないと、嫌悪感を露わにする。また、もう死滅したはずの左翼的な人々も、同じく嫌悪の感情を抱く。右も左も、自分に都合のいいことしか見ようとしないし、受け入れようとしない。

   そこで、国家破産というと大げさに聞こえるので、あえて別の言い方をすると、これは単なる「現在の日本政府の破産」である。つまり、財務省中心の官僚支配体制が借金をつくりすぎて倒れるだけのことだ。こんなことは、歴史上日常茶飯事で、徳川幕府も大日本帝国も破産して、その後には新しい体制ができた。つまり、前体制が破産しても、日本の歴史は途切れず、文化も伝統もコミュニティも連綿と続いていくのだ。

   だから、私は「破産するなら早く破産してほしい」「引き延ばすなんて時間の無駄だ」と言ってきた。そのほうが、国民にとっては新しい時代を希望を持って生きられるのだから、現状維持よりずっといいはずだからだ。

 

徳川幕府も大日本帝国も結局は国家破産して滅んだ

 

   いま私たちが払う税金で、財務省支配の日本政府は維持されている。しかし、この政府は、いまや増税一辺倒となり、この先、国民の財布からお金を巻き上げることで生きながらえようとしている。

   ずばり書いてしまうと、消費税増税は今後増える社会保障費にはほとんどまわらず、霞が関の体制維持費と公務員の生活維持(給料)に回るだけだ。だから、そんなことはバカバカしいから早急に止め、彼らを破産させてしまおう。それで、違う日本にして出直すべきだと、私は主張しているに過ぎない。実際、いまの日本はもう破産しているのと同じだ。

   260年間も日本を支配した徳川幕府が倒れたのは、幕藩体制が時代にそぐわなくなったこともあるが、財政的にも破綻したからだ。武士階級は力を失い、幕府は武士を食わせることもできなくなくなって、維新政府に取って代わられた。

   大日本帝国の崩壊も国家破産である。あんな大規模な戦争は、当時の日本の国力(経済力)ではファイナンスできるはずがない。国民資産をほとんど収奪したうえ、特攻で若者たちの命まで奪って、体制崩壊した。

   1942年6月のミッドウェー海戦以後は、すべて負け戦なのだから、もっと早く負けを認め、停戦を求めるべきだった。つまり、いまで言えば破綻宣言すればよかったのである。そうすれば、大空襲と原爆で焦土と化すまで被害を甚大にすることはなかっただろう。

   現在の財務省がやっていることは、旧軍部がやっていることと同じだ。ここまで国債を発行して、日本の産業を支える金融をズタズタに詰まらせ、さらに今度は増税で国民から収奪する。「このままでは日本は戦争に負けます。財産を差し出してほしい」と言った軍部と、「このままでは日本は財政破綻します。増税させてほしい」と言う財務省と、どこが違うのだろう。

   戦争中、「この戦争は負ける」と言った人々を、一般国民は「非国民」とののしった。いま、「財政破綻する」と言う人々を非難する人々は、かつての日本国民とどこが違うのだろう。

 

日本を愛することと現在の日本国政府を愛することは違うこと

 

   日本を愛することと、現在の日本国政府を愛することは同義ではない。それは、日本を愛することと徳川幕府を愛することが違ったのと同じだ。そうでなければ、倒幕運動など起きなかっただろう。同じく、日本を愛することと大日本帝国を愛することは同義ではない。

   四季がある美しい島国、そこに暮らす人々、故郷、家族というものが総体となった日本と、現在の日本政府とは別物だ。そう考えれば、なにがいちばん合理的な選択かわかるはずだ。かつての時代と違うのは、いまはグローバル化時代であり、世界経済はほぼ一体で、一国経済モデルはあまり意味をなさず、人もモノもカネも国境を自由に越えられるということだ。

 

円はいま、海外に約605兆円も流出している

 

   話を戻して、私の二つの本に対して「説得力がない」という批判があった。

   そこで、少々弁明しておくと、資産フライトに関して言えば、富裕層がいったいいくら持ち出したかなどという統計は、存在するわけがない。また、実際にそうした金持ちが、「私は○○億円をこのように分散投資している」などと具体的な話をするわけがなく、また話してくれたとしても、私がそれを詳細に書くだろうか。

   とりあえず、日本のマネーが海外にどれくらい流出しているかは、日銀が発表している「わが国の資金循環表」を見るしかない。これは、家計、企業、金融機関、政府、海外の5部門で、マネーがどのように流れているかを集計したものだ。日銀のHPにアクセスすれば、図解された資金循環表が見られるので、これを見ると、円は海外に約605兆円流出している(これを対外投資と言う)。なんと、日本の1年間のGDPを超える額が海外にある。

   この対外投資に対して、海外からの日本への投資は346兆円だから、対外投資からこの額を差し引くと259兆円となり、これが日本の対外純資産となる。

  「財政破綻しない」論者は、この対外純資産を示して「これほどの対外債権を持っている国が倒産するはずがない」と言う。しかし、現在の税制では、この対外債権が日本に戻ってくるとは考えずらい。日本が危機だからといって605兆円の日本から流出したマネーが戻ってきて、財政を救ってくれるわけではない。

 

一口に1500兆円という個人金融資産とはなにか?

 

  次に、財政破綻するということが「説得力がない」というなら、やはり資金循環表の家計部門を見ればいいだろう。日本には約5000万の世帯があり、この世帯が蓄えた金融資産が1476兆円もある。一口に1500兆円の金融資産と言っているのが、これだ。

   2012年2月に金融広報中央委員会(事務局・日銀)が発表した「家計の金融行動に関する世論調査」(2011年)によると、金融資産がある世帯の平均保有額は1659万円で、非保有世帯も合わせた平均保有額は1150万円となっている。

  一方、2人以上の世帯で、預貯金や株などの金融資産を「保有していない」と回答した割合は、前年比6.3ポイント上昇の28.6%となっている。金融資産を持つ世帯と持たな世帯の二極化が進んでいるが、いずれにしても、日本国の財政はこの個人金融資産でファイナンスされている。

 家計資産(個人金融資産)がふんだんにあるから、国は国債を発行して借金を重ねてきたのだ

 

あとわずかで国債を買える資金が枯渇する

 

   この個人金融資産が、これまで金融機関をとおして国債を購入にしてきた。ところが、これがじきになくなろうとしている。仮にこれがなくなると、国債を買い支えることができなくなるので、国債金利は上昇する。そうすると、政府は利払いができなくなり、財政は破綻するということなのだ。

   現在、政府の債務(国債とその他の借金を加えた債務)は(2011)9月末現在で約954兆円。これに企業や海外の負債を加えると1075兆円となる。

   これが日本の債務の全体だから、これが個人金融資産を上回ってしまえば、日本国債はもう買い手がいないということになる。とすると、まだ1476兆円あるのだから大丈夫ではないかと思うが、じつは個人金融資産は負債を336兆円抱えている。これは主に住宅ローンで、これを1476兆円から引くと1110兆円ということになる。ということは、日本全体の負債が1075兆円だから、もはや、わずかしかしか猶予はないということになるのだ。

 

どうなっているのか?みんなの党幹事長の江田憲司氏の説

 

   ところが、最近出たみんなの党幹事長の江田憲司氏の本『財務省のマインドコントロール』(幻冬舎)には驚いた。この本で、江田氏は財務省を「野田政権と国民を洗脳し、増税をたくらむ」組織とし、「国民よ、だまされるな!」と警告したうえで、財政破綻は単なるプロパガンダとしているのだ。

   江田氏によると、日本の国民金融資産は1500兆円だが、国や企業が持っている金融資産全部あわせると5600兆円に上るという。さらに、経常収支が17兆円の黒字のうえ、外貨準備高がいまや100兆円ある。だから日本は安心だと言うのだ。しかも、江田氏は、「国の借金はGDPの2倍? それがどうした!」とまで言いきるのだから、空いた口が塞がらなかった。

   彼はいったい、誰にこのようなことを吹き込まれたのだろうか? 現在の政府が財務省のコントロール下にあるのは事実だが、財政危機はプロパガンダではない。事実だ。仮に金融資産の総計が5600兆円あろうと、それは帳簿上の話にすぎない。もし、みんなの党が政権をとって財政のフタを開けたとき、そこにあるべきはずの資産がなかったらどうするのだろうか?

 

大阪維新の会「船中八策」の中身は共産主義化政策

 

   橋下徹大阪市長の大阪維新の会運動にも、最近は空いた口が塞がらない。当初は、破産都市・大阪に乗り込み、管財人として破産処理を進めていることに、感心した。これまで彼が大阪でやってきたことは、政治というより、倒産会社の整理である。それをスピード重視で進めていくので、さすがは弁護士だと思った。

   しかし、次期衆院選の公約として「維新版・船中八策」の骨子が発表され、その中身を読んだ瞬間から、私の考えは変った。なんと、そこには、共産主義政党が掲げるような政策が並んでいたからだ。すなわち、資産課税、相続税100%、ベーシックインカムなどだ。

   これらは、庶民の金持ちに対する嫉妬心を満足させるだけで、実施すれば、逆に庶民自身のクビを締める。この人は、どこかまだ学んでいないところがある。そう思わざるをえないのだ。それに、政治がすべてにおいて優位に立ち、人々の行動をコントロールすることを理想としているように思える。自由な経済活動というものを、はなから認めようとしていない。

  彼が、これまで会見などで述べたことをまとめてみたのが、、以下の箇条書きだ。

 

相続税100%とは、いったいなにを考えているのか?

 

・資産を持っている人間は年金はいらない。資産がない人間に年金がいる

・資産の有無は問わず、年金は20歳から強制加入させる

・年金額は月6万円程度ではなく、生活できる金額にする

・国民総背番号制で個人の所得と資産を全部管理する

・資産課税をする

・相続税は100%にする

・自由な経済活動は容認するが、所得再分配は厳しくしやる

・富裕層は税金をもっと払う義務がある

・アメリカみたいな格差社会では社会は安定しない

・単年度の所得再分配ではなく、数十年単位での所得再分配をする

  これは民主主義、資本主義の発想ではない。現在の日本が、たださえ重税国家であり、それが自由な経済活動を阻害し、グローバル経済から取り残されたうえ、国内だけの国債消化によるいびつな国家をつくりあげているという自覚がない。おそらく、彼は、日本は改革しなければならないが、その方向は規制強化をすることだと勘違いしている。日本が財政破綻に向かって一直線に進んでいるという自覚も、ないのかもしれない。

 

グローバル経済を知らない妄想による政策

 

  これ以上、企業や富裕層に税金を課したらどうなるか?

  たとえば、相続税100%ということは、いくら資産をつくっても最後にはすべて国に取られるので、資産は現役のうちにすべて使われる。だから、消費が増えるというが、これはグローバル経済を知らない妄想だ。そんなことをしたら、資産ができた人間から順に日本を出ていってしまうだろう。また、ただでさえ人口減で下がり続けている日本の土地や住宅には、買い手さえいなくなるだろう。

  働いて所得税などの税金を払ったうえで残ったのが、資産である。その資産を最後にすべて取り上げられるとなったら、誰もこの国で働かないだろう。こうした政策を掲げるのは、じつは庶民受けを狙っているからだと思うが、もし、本気でこう考えているとしたら恐ろしいことだ。それは、結果的には完全に庶民を馬鹿にしており、一見愛国者のように見えて、最終的には日本を破滅させるからだ。

 

日本は世界一の重税国家になろうとしている

 

   真面目に働いている者にとって、日本ほど懲罰的な税制を持っていて、働くのが報われない国はない。資産をつくると、すぐ税金で持っていかれるのだ。富裕層にとっても、こんなに居心地が悪い国はない。

   なにしろ所得税の最高税率は45%(現在40%だが引き上げ決定)と世界で4番目に高い。そのうえ、今回の消費税増税法案が通ったら、復興増税と合わせて 2015年には56%となる。これは、現在世界最高税率のスウェーデンと同じだ。

   しかし、スウェーデンには相続税そのものがない。それなのに、北欧大好きな格差社会反対論者、福祉社会大好き論者は、けっしてこのことを言わない。

   しかも、日本では、相続税も、消費税とともに税率が引き上げられることになっている。世界一高い最高税率の55%にされ、基礎控除も5000万円から3000万円にまで下げられる。これは、富裕層の課税強化ではなく、一般庶民の中流層からも取ろうとするとんでもない課税強化策だ。まさにドロボー国家そのもので、こんな政治体制を愛すること自体に無理がある。健全な国民なら、日本に愛想を尽かすだろう。

 

「国政を一回ぶっ潰さないといけませんよ」と浜松市長

 

  みんなの党も大阪維新の会も、なにかをはき違えている。また、民主党は相変わらず福祉のばらまきをしながら増税を推進し、自民党は増税して公共事業を復活させるケインズ政策に回帰しようとしている。これでは、どんなことをやっても日本は復活しない。まだ、財政破綻まで猶予があるので、勝手なことを言ってられるが、そんな政策で政権を取って、いったいなにが面白いのだろうか?

今週の『週刊文春』(2012/04/26日号)に『政経塾一期生が語る「理想と現実」-政経塾出身初の首相は増税しか頭にない』という記事がある。そのなかで、浜松市長の鈴木やすとも氏は以下のように語っている。

<なぜ政経塾出身の総理が増税論者なんだと思われるでしょうが、前提が違うんです。こんなに多くの借金を抱えてしまっては、もう歳入の道筋をつけるしかない。僕も国会にいたから分かりますが、国の財政改革は無理です。やはり道州制を実現しないと。今からでも遅くはない。国政を一回ぶっ潰さないといけませんよ>
  

まさに、そのとおりである。

 

財政破綻が現実になったときの仮想風景

 

   最後に、財政破綻が現実になったときの仮想風景を書いておきたい。

   財政破綻、国家破産の引き金を引くのは、国債の暴落である。これはまず先物市場で起きる。ヘッジファンドはすでに日本国債の暴落に向けての仕込みを終えており、タイミングをつかめば、いっせいに売り浴びせる可能性がある。

   国債が暴落すると、日本政府は国債の金利が払えなくなり、デフォルト宣言をするところまで追い込まれてしまう。これを回避するには、日銀に国債を直接引き受けてもらうしかない。

   借換債約150兆円、新規国債40~50兆円。日銀は200兆円もの紙幣を発行することになり、当然、このマネーは国債以外の投資先に向かうことになる。いずれにせよ、巨大なキャピタルフライトが起こり、円は暴落し、日本の対外資産も大挙して売られるだろう。

   おそらく、円は対ドルで200円以上になり、日経平均株価は5000円割れをし、物価は3倍ほどに値上がりする。さらに、円が暴落してハイパーインフレになる可能性もあるが、そこまではいかないだろう。これは、かつてのアルゼンチン、いまのギリシャを見るとわかる。こうしたなかで、資産を失うのは持っている者であり、持っていない者は失うものはないから、かえって希望が見出されるからいいかもしれない。

したがって、最後にもう一度書くが、財政破綻論者を「非国民」などと非難するのは間違っているのだ。