[249]トランプ大統領候補に日本人は感謝すべき 印刷
2016年 4月 21日(木曜日) 10:17

昨日、「ビートたけしのTVタックル」の収録(放映は24日)に出演して、言い足りなかったかったことがあるので、書いておきたい。この日のテーマは「トランプ大統領誕生で日本は?」というもので、トランプ大統領に反対か賛成かで議論するという趣向だった。 

 それで、トランプ反対派にパックンとケビン・メア氏。賛成派ということで私と藤井厳喜氏が出演した。しかし、あまり議論はかみ合わなかった。なぜなら、アメリカ人であるパックンとケビン・メア氏は彼が大統領としてふさわしいかどうかということを問題にしているのに対し、私は日本人として彼がこれまで日本に対して言ってきたことの価値を問題にしていたからだ。

 

■パックンとケビン・メア氏の意見

 

 ショーンKと違ってホンモノのハーバード卒業生であるパックンの意見は、素晴らしかった。パックンはトランプ氏を「アメリカの恥」と思っている。一言で言えばメキシカンはレイプ魔だなどと言い放つポピュリストには大統領になってほしくない。そんなことになったら、アメリカから逃げると言うのだ。パックンのようなアメリカの知的エリートにとっては、トランプ氏のようなお金持ちなのに、平気で暴言を吐き、知性なし丸出し(に見える)オジさんは許容できないのだ。

 元外交官で日米の安全保障問題の専門家であるケビン・メア氏は、トランプ氏のような単純極まりない安全保障論は、やはり許しがたい。「彼の世界観は古すぎる、時代遅れ。日米安保、核保有は彼が言うような問題ではない」と言った。これもまたその通りで、私が反論するようなことではない。日米安保は日本にとってもアメリカにとっても合理的な選択で、アメリカの傘の下で日本の平和が維持されてきたのは紛れもない事実だからだ。

 

■日米安保を「ディール」という意味

 

 では、なぜ私は言い足りなかったのか?

 それはトランプ氏がこれまで日本に対して言ってきたことは、本来、日本人自身が議論しなければならないことだからだ。それを彼は赤日の下に突きつけてくれた。

 いままで、日本に対してこれほどあからさまに、こんなことを言った大統領、大統領候補がいただろうか?

 “If Japan gets attacked, we have to immediately go to their aid, if we get attacked, Japan doesn’t have to help us.”“That’s a fair deal?(「もし日本が攻撃されたら私たちは直ちに救援に行かなくてはならない。もし私たちが攻撃を受けたら日本は私たちを助けなくてもいい。」「この取引は公平なのか?」)

  トランプ氏は、日米安保を取引(ディール)と捉えている。国際条約はビジネスのようなディールではないが、それでもディールと捉えることで、私たち日本人に「いったいどっちが得しているのか?」と、考えさせてくれる。

 少なくとも、これまでの日本はそんなことは考えなくてよかった。また、トランプ氏は「米軍撤退もありえる」「日本の核保有はありえる」とまで言っている。このようなトランプ氏の発言は、これまで「平和ボケ」という惰眠のなかで暮らしてきた日本人を覚醒させるものだ。

 

■日米関係は暗黙の了解があった

 

 最近のアメリカ大統領は、日本は「かけがえのない同盟国」とは言うものの、それは表向きにすぎず、日本はアメリカの属国にすぎないのだからと、ほとんど関心を持たなかった。

 クリントン大統領は「ジャパンパッシング」(日本素通り)だったし、ブッシュ大統領は拉致被害者に同情はしたがそれだけ。また、オバマ大統領はすきやばし二郎の寿司と引き換えに「尖閣は日米安保の範囲」と言ったにすぎない。ミッシェル夫人は子連れで日本を通り過ぎて中国に1週間も滞在した。

 そういうなかでも、日米安保、アメリカの核の傘、平和憲法と一部が信じ込んでいる憲法が続いてきたのは、日米の暗黙の了解があったからだった。もちろん、「安保ただ乗り論」などが言われ、一部の人々はわかっていたが、国民全体が理解していたとは言い難い。

 だから、日本の左翼は「辺野古反対」「米軍は出て行け」と旗振り運動を続けられたし、保守派は「日本独立」を標榜して「憲法改正」を唱導し、安倍首相は「戦後レジームの脱却」というスローガンを掲げられた。

 

■左翼も保守も目を覚ますときが来た

 

 しかし、トランプ氏が言うようなことがもし現実となり、日米安保と核の傘がディールとなれば、米軍は出て行ってしまうのだから、左翼は旗を振れなくなる。「米軍は絶対に出ていかない」ことを前提にした自己満足運動をやっていている意味はなくなる。国会議事堂前で、「SEALs」が「戦争させない」なんて叫んでも日本は平和にならない。

 保守側も、自衛隊戦力を大幅に拡充し、核開発も行わなければいけないので消費税増税は2%ではすまない。少なくともGDP5%25兆円、消費税になおして10%は必要だろう。そんなことになれば日本経済は持たない。

 パックンは「アメリカ人の40%が共和党。その共和党の40%がトランプ支持者。だから、トランプはアメリカを代表していない」と言ったが、それでもアメリカの一部は代表している。

 そしてトランプ氏のスローガンは「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」(偉大なるアメリカの再興)だ。トランプ氏が大統領になったらどうなるのかは予測できないが、すくなくとも現時点で、トランプ大統領候補は、私たちが考えないですませてきた問題を突きつけてくれた。

 この点をもって、トランプ氏がアメリカ大統領にふさわしかどうかは問題ではなく、現時点で、私たち日本人は彼に感謝すべきだ。