最後の女性差別国家[003]終身雇用という最悪の制度 印刷

■終身雇用制度が打ち砕く女性の人生


日本は世界でも唯一の「企業社会主義国家」


 世界同時不況に突入してから、日本では「派遣切り」が問題化し、雇用問題がさかんに議論されるようになった。また、「ワーク・シェアリング」「ワーク・ライフ・バランス」なども議論されるようになり、労働者の労働のあり方が、いままでのどんな時代よりも注目を集めるようになった。

 しかし、女性労働者のあり方につては、いまでも、ほとんど問題にされていない。

 私は、1990年代以降、日本が衰退を続けている原因を、日本というシステムそのものが機能不全に陥ったことだと思っている。日本という国は、世界でほとんど唯一の「企業社会主義国家」で、日本国民のほとんどは、どこかの企業の一社員として一生を送るようになっている。
 このシステムが、グローバル化とIT革命によって機能しなくなったから、日本は衰退を続けてきたのだ。
 
 では、この日本の企業社会主義システムの根幹にあるものは、なんだろう?
 それは、「終身雇用制度」と「年功序列」である。この2つを根底から変えない限り、日本は活力を取り戻せない。



リスクが大嫌いだから終身雇用にすがる



 日本企業は、正社員を解雇できない。いったん受け入れたら、ほぼ終生面倒を見ることになっている。これが、終身雇用制度だ。終身雇用制度は、企業が成長している間(つまり日本が経済成長と人口増加をしている間)は機能し、人々に安心と富をもたらした。

 年長社員に比べて給料が半分でも、若手社員が我慢できたのも、「終身雇用」が保証されたからである。だから、いまも、日本では、終身雇用に80%以上のの人々が賛成し、若者はいまでも「正社員になる」ことを目指している。ともかく、日本人はリスクが大嫌いで、少しでもリスクがないものを選択しようとする。それが、終身雇用制度をつくってしまった。



日本の年輩社員の生産性は新興国の労働者以下



 しかし、終身雇用は、もう機能しない。IT革命が起こり、グローバル化によって世界がネッワークで結ばれたいま、今後も30〜40年にわたって、このシステムが機能すると考えるほうがどうかしている。
 いまや、どんな大企業でもいつ潰れるかわからないし、若手社員が、ただ年上というだけで、ITも使えこなせず、マーケティングもできない年長社員を支える理由はなにもなくなった。

 現在の日本企業がかかえる年輩社員は、世界に目を転じれば、新興国(中国やインドなど)の労働者より、生産性が低い。これを抱え続けていたら、日本企業はやがてすべて潰れてしまうだろう。
 だから、いま、日本で問題化している非正社員問題も、正社員の終身雇用を崩壊させない限りは解決しないのだ。

 グローバル化した世界では、雇用に流動性がなければ、企業活動はやっていけない。したがって、終身雇用はこの先、必ず自然崩壊するが、いまの日本の状態だと、まだまだ続きそうだ。
 「派遣切り」にあれだけマスコミが同情し、政治家も識者も「企業は雇用を守るが第一」などと言っている以上、そう考えざるをえない。

 ただ、これは、日本人が自ら自分のクビを締めているとしか言いようがない。 
 そして、この終身雇用制度の最大の犠牲者が、いまも昔も、日本の女性たちなのである。



終身雇用の下では女性を活用できない



 日本は国全体としての労働生産性が著しく低い国である。日本の生産性は、アメリカの約7割、OECD諸国平均の8割しかない。これは、いったん会社を辞めたら次の就職先がないので、誰もがダラダラと残業を重ね、ともかく会社のために生きるしか道がないからだ。もし、終身雇用が保証されないなら、誰も残業などせず、てきぱきと仕事をこなし、自らのキャリアを向上させる道を選ぶだろう。

 このようなシステムの下では、本来活用すべき女性の力など、活用できるわけがない。なにしろ、男性正社員たちは、一生その会社にいるつもりで働いているのだ。そこに、同じ意識で女性が加わったとしたら、そのコストは男性社員よりはるかに高くなる。

 なぜなら、女性には出産・育児があり、この期間を1〜3年とすると、その間、会社は給料から社会保険費など、すべてを払わなければならない。また、この間の仕事ギャップを埋めるのに、別の人間を雇う必要も生じる。
 こうなると、初めから女性を雇わないか、雇っても男性より給料を抑え、さらに、出産などを契機にやめてもらうことを奨励するようになる。



世界的に見て日本女性だけが異常な労働環境にある



 世界各国の女性の年齢別就業率という統計がある。
 これは、どの世代の女性のうち何%が働いているかを調査したもの(ILOの「LABORSTA」)で、日本だけが異常なかたちになっている。

 たとえば、アメリカでもドイツでも、20〜24歳の女性の就業率は70〜80%に達し、以後、25〜29歳、30〜34歳、35〜39歳と世代を上っていっても、この数字に大きな変化はない。しかし、日本だけは、最初は同じものの25〜29歳、30〜34歳代では、ガクンと比率が落ちるのだ。日本では、25〜29歳、30〜34歳代の女性の就業率はなんと50%を割り込んでいる。

 これは、なにを意味しているのだろうか?

 言うまでもないが、この期間は、女性が出産・育児に費やす期間である。つまり、日本の女性は、妊娠・出産したらいったん会社を辞める。そうしないと、出産も育児もできず、その後、仕事に復帰しようとしても、同じ会社には戻れないように仕向けられているのだ。
 これでは、女性がいくらキャリアを積み重ねようと、出産・育児ですべてがゼロになってしまう。

 それでも、会社に踏みとどまり、できるだけ少ない期間で復帰しようとすれば、年功序列の男性社員以上の長時間労働をするはめになる。



「アラサー」「アラフォー」という流行語のバカバカしさ



 出産と育児で会社を辞める。そして、子育てが一段落して、社会復帰しようとしたら、女性に残されているのは、パートの仕事ぐらいしかない。これでは、女性がかわいそうだし、なにより、人口の半分を占めている女性の力を社会に活用できない。
 また、少子化も進むばかりだ。

 日本が衰退を続けているのは、じつは、こうしたところにある。しかし、このことを指摘しているのは、いま売れっ子評論家となった勝間和代さんぐらいで、多くの識者、政治家は問題の本質さえわかっていない。

「アラサー」とか「アラフォー」という言葉が、最近は流行語になっている。
アラサーは「aroun30」の略で、アラフォー「around 40」の略というわけで、この年齢をはさんで女の人生は揺れ動くことを言外に含んでいる。
 かつての女性は「仕事と結婚」の間で、二者択一を迫られていた。しかし、いまのアラサーやアラフォー世代は、男女雇用機会均等法のもとで社会進出を果たしたことから、仕事と結婚を比較的自由に選択できるようになったと、一部で解説されている。

 しかし、現実は、自由な選択などない。それは、終身雇用という日本の企業システムが続く限り、単なる幻想にすぎない。