最後の女性差別国家[004]「最低限の義務」とレッドベター法 印刷

■「先輩女子社員を見ていて夢がないと思った」と会社を辞める 

本当に情けない麻生総理の「最低限の義務」失言

 少々話が古くなるが、先日の麻生総理の失言から、いかに日本の男性(とくに古い世代)が、女性を蔑視しているかを考えていきたい。
 2009年5月7日、衆院予算委員会で、日本で少子化が進んでいることについて民主党の西村智奈美議員から「社会全体が子育てに優しくないからでは」と質問された麻生総理は、「私は43歳で結婚し、子どもは2人いる。最低限の義務は果たしたことになるのかもしれない」と答え、あわてて発言を撤回した。

 さすがの総理も、「子供を生むことが(日本国民の)義務」であるかような言い方は、まずいと思ったのだろう、この撤回は素早かった。
 しかし、いくら撤回しようと、内面ではそう思っていたに違いないと思う。そうでなければ、質問後、すぐにあのようには答えられない。本当に、情けない人である。



 失言問題というのは、メディアにとって格好のネタだが、なかには、これが失言かと思うものも多い。しかし、女性に対する失言は、おおむね、メディアが指摘するとおりで、これを突き詰めていくと、日本の男性が女性をどう思っているのかが、ほぼ見えてくる。
 その顕著な例が、かつて、柳沢伯夫厚生労働相(当時)が「女性は子どもを産む機械」と発言し、安倍首相(当時)が陳謝したことではないだろうか。

女性社員にお酌させて平気でいる男性たち

 つまり、日本の古い政治家たちは、女性をどうしても一段下の存在として見ているのだ。政治家がこうだから、職場の男たちもだいたいにおいて、同じ意識を持っていると考えていい。
 さいわい、私の周りにはそういう人は少ないが、ときどき、そういう人間に出会うとがっかりする。

 たとえば、会社の宴席で、女性社員にお酌させて平気でいる男性たちを見ると、いつもイヤな気分になる。これは、欧米社会ではありえない光景だ。いや、中国ですら、こんなことはない。自分の飲み物は、自分で注ぐのが当然だ。

少子化の本当の原因は女性の労働を軽視したから

 このブログは、女性差別とはいっても、フェミニズムのような女性差別反対運動に加担するためのものではない。実際にある差別を、そのまま書いていきたいと始めたものだ。
 とくに日本の労働現場で、女性がまったく軽視されているのは、なぜななのか?を考えてみたいと思って始めた。だから、冒頭に書いた麻生発言は、かなり深刻だ。

 日本の少子化は、義務を果たす人と果たさない人がいて、果たさなくなった人が少なくなった結果起こったわけではない。日本経済が低迷を続け、女性が家計を支えるために、外で働くようになったから加速化したのだ。
 しかも、女性の職場は単純労働などのようなものに限られ、たとえ男性と同じ働きをしても賃金は男性の6割にも満たない。

 ところが、前にも書いたが、日本経済の低迷をあの程度で押さえてきたのは、女性たちの力などなのだ。新興国の安い賃金による競争力低下を、日本企業は国内の女性労働者の安い賃金で補ってきた。

日本の会社で働く女性たちには夢がない


 自分の娘と同世代の若い女性たちを見ていると、なんで、こんなに悲惨な状況にあるのかと、いつも思う。
 大学を出て就職し、2、3年で、彼女たちは、現実の厚い壁を知る。つい先日も、娘の友人が会社を辞めた。それは、名の通った一流企業で、その友人は総合職で入社したのにもかかわらず、結局は補助的な仕事しかやらせてもらえなかった。

「辞めようと思ったのは先輩の女性社員を見て夢がないと思ったから。これなら、どこでもいいから海外で働いたほうがまし。大学院に行き、海外で就職する」
 と、日本を出て行った。

 この娘の友人はアメリカの大学を出て、日本に戻って流通の大手に入った。しかし、英語もメジャーのマーケティングもまったく考慮されず、地方の現場でパート社員と一緒に働かされた。それでも、1年ぐらいは下積み期間だと思って働いたが、2年目も同じ。3年目に本社に上がったが、同期入社の男性のアシスタントの仕事しか与えられなかった。

 いまの若い女性たちには、やりたいことがある。麻生総理はハローワークを視察したとき、派遣切りにあった若者に「やりたいことがないから」と説教をしたが、これは大きな誤解だ。
 若者たちは、学歴にかかわらず、みな夢を持っている。それを叶えられる職場は少ないが、少なくとも、性別や学歴で差をつけてはいけない。

オバマ大統領が署名した賃金差別の撤廃法案


 私は、オバマ大統領には批判的だが、今年になって、彼は画期的な賃金差別の撤廃法案に署名している。
 2009年1月29日、オバマ大統領は、女性らへの賃金差別に対する労働者の告発権限を拡大した法案に署名し、同法は即日成立した。
 この法案は、勤務先企業と裁判闘争をした女性労働者を記念して、「リリー・レッドベター公正賃金法」と呼ばれる。
 いつは、大統領選挙中から、オバマはこの裁判闘争を支援し、大統領になったら成立させることを訴えていた。

 この法律は、賃金差別をめぐる企業告発の期間(180日以内)について、労働者に有利な解釈を明記した内容だ。男性従業員との賃金額で「差別待遇を受けた」として、大手タイヤメーカーを相手取り賠償金を求めた元従業員、レッドベター氏が連邦最高裁で敗訴したことを受け、2007年から民主党が立法化を進めていた。

レッドベターさんの賃金差額は、20年間で20万ドル


 アラバマ州のリリー・レッドベターさん(70)は、20年近くタイヤ会社のグッドイヤーに勤めていたが、1998年、同じ仕事をしている男性社員より低い賃金しか支払われていないことに気づいた。それで、補償を求めて会社を提訴。しかし、連邦最高裁は2007年、こうした提訴は、差別的な賃金が最初に支払われた日から180日以内でなければ無効との判断を示したのである。

 これに怒ったのが、民主党議員たちだった。彼らは、直近の給料日から180日以内であれば提訴可能とする「公正賃金法案」を議会に提出し、オバマ大統領は大統領選中から法案支持を表明していたのである。

 いまや、夫よりはるかに人気が高いファーストレディ、ミシェル夫人は、夫が法案に署名した日に行われた「リリー・レッドベター公正賃金法」の成立を祝う式典に出席し、レッドベターさんを祝福、大きな拍手を浴びた。
 ちなみに、レッドベターさんの賃金差額は、20年間で20万ドルに達していた。

「同一労働における男女間の賃金格差禁止」はかたちだけ


 このようなニュースを見ると、やはりアメリカはこの分野では先進国だと思う。日本でもこうした現実はあるだろう。法的には、この差別は日本でも認められないはずだ。しかし、もともと、日本企業はあらゆる理屈をつけて、女性と男性の仕事を分けている。同一労働同一賃金は、この国では名目だけにすぎない。

 労働基準法第3条には、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」とある。さらに、第4条では、「「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」とある。
 しかし、第3条は、差別的取扱禁止の対象とする理由を限定列挙したものにすぎず、たとえば、学歴、能力、勤続年数、雇用形態などを理由とした個々人の賃金の違いは、適法であると解釈されてきた。

(ILO)は、すでに半世紀以上前、1951年に同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約を採択し、同一価値労働について、男女間での賃金格差を禁止している。
 しかし、これが完璧に実施された国は、いままで世界に一国もないと言っていいだろう。

 世界経済フォーラムは2006年、世界各国の男女差別の度合いを指標化した「男女格差報告」(Global Gender Gap Report 2006)を発表した。
 これによると、日本は世界115カ国中、なんと79位だった。