最後の女性差別国家[005]国連の「差別撤廃」勧告 印刷

■派遣禁止より男女間の賃金格差を解消すべきだ


国連の委員会から厳しい「差別解消」勧告

 以下は、読売新聞(2009年8月25日付け) の記事だ。とりあえず、全文引用させてもらう。
 
《国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が18日、女性差別撤廃条約の日本の実施状況について、勧告を盛り込んだ総括所見を公表した。
 勧告は雇用、暴力防止など26項目にもなり、前回(2003年)の倍以上。女性差別解消に向けた日本政府の取り組みが進んでいないことを、厳しく指摘する内容だった。

 結婚最低年齢の男女差、女性のみに課した再婚禁止期間、夫婦同姓強制などを定めた民法については前回も指摘があったが、今回は「即時改正すべき」と勧告。さらに雇用や公的活動などへの参画が進んでいないとして、暫定的特別措置(ポジティブ・アクション)を取るよう求めた。

 海外で問題視されている日本の性暴力ゲームやマンガについて「女性や少女への性暴力を当たり前のように扱い、肯定するものだ」として販売禁止を強く求め、児童ポルノ禁止法の改正を勧告している。

 国際人権法に詳しい弁護士の大谷美紀子さんは「民法について強い指摘があったのは、条約批准から24年もたつ日本が、法律上の女性差別を残していることへの強い警告といえる。所見は国会の責任にも言及しており、新しい政権は勧告を真剣に受けとめ、条約締約国としての責任を果たすべきだ」と話している。》



マスメディアの無関心と保守陣営の猛反発

 このニュースは、読売だけではなく、どの新聞にも載ったが、扱いは小さかった。そしてその後も、この問題を大きく取り上げたメディアはなかった。
 とはいえ、この勧告には、日本がかかえる深刻な問題が含まれているのは事実だ。しかし、総じてマスメディアの関心は薄い。そればかりか、日本人自体も、当事者である日本女性も関心が薄いのである。
 さらに言えば、この勧告を「国連の内政干渉」と反発してみたり、「フェミニスト左翼の煽動。日本は間違っていない」などという声も強い。これは、男女共同参画社会が「左翼の思想」として、保守陣営から猛反発を受けたのと同じ構図である。また、「従軍慰安婦問題」も含まれているから、よりいっそう、保守言論は反発する。

 しかし、そんなことでいいのだろうか?
 もちろん、私もそうした反発があるのは十分承知しているし、そういう反発を招く日本人の感情も理解している。ただ、それを理解し、いかにこの勧告が左がかって見えようとも、受け入れて早急に改善すべき点があることを指摘しておきたい。

「男女間の賃金格差」がもっとも重要な問題

 それは、勧告にある項目のなかの主に2つの点だ。

 今回の総括所見は多岐にわたっているが、日本のメディアが注目するのは主に、「女性へのレイプや暴力を含むビデオ、ゲーム機の禁止」「従軍慰安婦問題の解決のための努力」「夫婦別姓などに向けた民法改正」などにすぎない。
 しかし、本当に注目すべきは、「男女の役割や責任を巡る旧態依然とした考えをなくすための教育の徹底」や「雇用分野や政治的・公的生活への参加を促す暫定的特別措置」「同一価値労働同一賃金の原則を確認する規定が労働基準法にないこと」「セクハラなど職場の性差別への制裁」「女性にパート労働が集中する現状の改善」などだ。

 つまり、日本社会をもっともイビツにしている「男女間の賃金格差」が、私はもっとも重要だと考えている。これこそが、私が「日本を最後の女性差別国家」と呼ぶ理由だ。
 日本は、正社員でも女性は男性の6割しか給料がもらえない。この格差の大きさは、先進国では最高レベルで、いっこうに改善されていない。

欧米を知らないうえに「男と女は違う」と洗脳されてきた

 民主党が政権を取って、「派遣禁止法」ができようとしているが、問題はこちらのほうがはるかに大きい。派遣は雇用形態の問題だが、男女間の土一労働における賃金格差は、明らかに女性をバカにしすぎているし、間違いなく差別である。

 私が、この問題を再三訴えるのは、当事者である日本の女性の多くが、この問題に無関心だからだ。そればかりか、「日本に女性差別? 日頃、そんなに感じませんよ」という女性が、本当に多いからだ。
 そんなバカなと思うが、その原因は、彼女たちが、ほかの先進国、つまり、アメリカやヨーロッパの職場と社会を知らないからだ。また、小さい頃から、学校や社会で、「男と女の生き方、役割は違う」と、徹底的に洗脳されてきたからだ。

 また、機会を改めて書くつもりだが、いまの日本のような女性にとって差別的な職場は、ドイツなら確実に裁判を起こされるだろう。不況のせいで、欧州型のワークシェアリングが注目されているが、そんなことより、男女の賃金格差問題にもっと光を当てるべきだ。