G1予想[161]第152回天皇賞の予想(2015年11月1日) 印刷
2015年 10月 30日(金曜日) 13:45
ショウナンパンドラの単と馬単、馬連総流し

 

 何十年も競馬をやってきたが、わからないことは多い。たとえば、今週の京都の日曜日のメインレースは「カシオペアステークス」、東京の土曜日のメインレースは「アルテミスステークス」だが、このレース名は、いったいどうやって、どんな基準で付けられているのだろうか?

「天皇賞」や「有馬記念」「ダービー(東京優駿)」などのG1レース、そして「NHK杯」などの冠名レース、「札幌記念」「九十九里特別」などの地名レース、「晩秋特別」などの季節名レースなどは、それとなくわかる。しかし、なぜJRAは、カシオペアやアルテミスなどというギリシャ神話由来の星座名をレースに付けているのだろうか?

 

 実際、ギリシャ神話由来の星座名レースはものすごく多い。たとえば、「シリウスステークス」「プロキオンステークス」「ベテルギウスステークス」「オリオンステークス」「アンタレスステークス」「スピカステークス」など。しかも、阪神競馬には「セントウルステークス」(ちなみにセントウルはケンタウロスの英語読み)があり、阪神競馬場には敷地内に「セントウルガーデン」という噴水がある庭園があり、そこにはセントウル像まで建っている。

 

 こうなると、JRAは、競馬とともに、ギリシャ神話と星座を伝道しているのかとさえ思う。とまあ、これはジョークとして、なぜ星座名をつけているかはわからないが、その季節に合わせた星座、つまり「冬の星座ならオリオン」というように選んでいるのは間違いないだろう。

 今週の京都メインレース名となった「カシオペア」は、ペルセウス座、アンドロメダ座と並んで、日本では秋の星座とされるからだ。

 

 というわけで、まず、カシオペアの話を書いてみると、カシオペアは古代エチオピアの王妃で、アンドロメダの母。カシオペアは、自分の娘の美貌を自慢しすぎたため海神ポセイドンの怒りに触れ、天に上げられて星座になったと伝えられている。

 あるとき、カシオペアは「私の娘アンドロメダの美しさは、海の妖精、ネレイドの50人の姉妹たちなんか相手にならない」と放言。ネレイドは海の神ポセイドンに遣える妖精だったため、かんかんに怒って、ポセイドンに泣きついた。なにしろ、人間の女性にバカにされたのだから、この怒りは収まらない。

 ポセイドンも怒って、化けくじらをエチオピアの海岸に差し向け、エチオピアは津波に襲われて大災害を被る。この災害を鎮めるために、ゼウスは、アンドロメダを化けくじらの生贄に差し出せというお告げをする。

 

 こうしてアンドロメダは海岸の岩に縛り付けられ、そこに化けくじらが現れる。しかし、そのとき天空から天馬ペガサスにまたがったペルセウスが現れ、メデューサの首を化けくじらに向けると、化けくじらは岩になって海底に沈んでいった。この後、アンドロメダとペルセウスは結婚し、天に帰って末永く幸せに暮らしたというのである。

 

 カシオペアは、北斗七星とともに北極星を探す指標となる星座として知られているが、日本では、星座のかたちから「山形星」「錨星(いかりぼし)」とも呼ばれている。しかし、「山形星ステークス」ではやはりレース名として変だ。

 

 続いて、東京の土曜日のメインレース名となったアルテミスだが、こちらも、

ギリシャ神話に登場する女神で狩猟・貞潔の象徴、のちに月の女神である。つまり、この土日は、ギリシャ神話の2人の女神が、JRAのレース名となり、そのなかで注目のG1天皇賞が行われるというわけだ。

 

  と、ここまできて、やっと天皇賞の話になるが、出走馬のなかでギリシャ神話馬がただ1頭いる。しかも、唯一の牝馬、ショウナンパンドラである。パンドラと言えば、ほぼ誰もが知っているのが「パンドラの箱」の話。パンドラの箱の中には、人間に不幸をもたらすすべての厄災が入っているので、それを開けてはいけないとされたのに、パンドラが開けてしまった。

 ちなみに、パンドラは女神ではなく、ギリシャ神話では人類最初の女性である。さて、すべての厄災が飛び出した箱の底にたった一つのものがあった。それは「希望」。その希望が最後に飛び出しために、人類は救われたというのが、この「パンドラの箱」の話の美しい結末である。

 

 しかし、この話には諸説があって、じつは希望は飛び出さずに残ったとする説、さらに、本当は箱の中には祝福がいっぱい入っていて、それが飛び出してしまったという説だ。いずれにせよ、「箱は開けてはいけない」というのが、この話の結論である。となると、ショウナンパンドラは「厄災」なのか「祝福」なのかどちらかわからない。勝ったら希望が飛び出すのか、それとも災いがもたらされるのか?

 非常に迷うところだ。

 

 ところが、スポーツ紙『スポーツ報知』は、「紅一点 パンドラの箱が開く時」という記事を今週4回にわたって連載している。ショウナンパンドラの応援記事である。ショウナンパンドラが勝てば、春秋を含めて史上16頭目、秋の天皇賞が2000メートルになって以降、5頭目となる牝馬Vと囃し立てている。

 記事によれば、ショウナンパンドラは絶好調で、厩舎の期待も大きいという。

 

 さらに次のようなデータも紹介している。騎乗する池添謙一のデータだ。

《JRAのG1レース20勝を誇る池添はクラシック3冠&春秋グランプリ3連覇などオルフェーヴルで6勝を挙げているが、G1初勝利となった2002年桜花賞のアローキャリーをはじめ、牝馬で8勝。牡馬混合G1を牝馬で制したのは2005年宝塚記念のスイープトウショウ、2011年スプリンターズS、2012年高松宮記念で秋春短距離G1連覇を飾ったカレンチャンがいる》

 

 というわけで、結論は、ショウナンパンドラの単と、馬単、馬連総流し。澄み渡る秋の夜空を星座はめぐる。カシオペア、アルテミスに、パンドラも加わってもらおう。 厚めはもちろん、ギリシャ語で「冠」の意味のステファノス。ギリシャ神話のアポロンとダフネの物語に由来する「月桂樹の葉」を戴冠してもらうためだ。

 そう言えば、牝馬ヘブンリーロマンス(天国の恋)も、この天皇賞を勝っている。天皇賞は「天」に捧げる競馬と思えばいい。あまりに久しぶりに、このようなロマンチックな予想を書いてみたが、いつもよ違うので書き終わってとてつもなく嫌な気分になってきた。