2013/08/17●「電子書籍拡大に弾み 講談社5割増1万7000点に」という日経記事に違和感 印刷

814日付けの日経新聞が、講談社とKADOKAWAの電子書籍への取り組みが進展しているという記事を載せている。それによると、「講談社は、電子書籍のタイトル数を大幅に拡充する。コミックだけでなく単行本の電子化にも力を入れ、2014年1月までに今年初めより5割多い17千点に増やす。KADOKAWAも同6割増の15千点にする方針」という。

 また、「大手2社だけでなく、コンテンツ拡充の動きは広がっている。学研ホールディングスも現在、約2500点の電子書籍を扱うが、年内に3千点を上回る見通し。小学館も文庫本をすべて電子化する方針を打ち出している。文芸春秋が6月に司馬遼太郎氏の著作「竜馬がゆく」の電子版を発売するなど、人気作品もそろい始めた」と伝えている。

 

 このような記事を読むと、電子書籍市場は大きく広がっているように思えてくる。しかし、それは単なるイメージだ。実際は、点数が増えたにもかかわらず、売上はそんなに上がっていない。講談社にせよKADOKAWAにせよ、電子書籍の売上は全体のわずか5%程度にすぎない。 

 先日、アップストア中心に、インデペンデントで電子書籍アプリを制作してきた会社の社員を中心にした飲み会があり、それに参加した。集まったのは、約20名。2時間半、ぼやきが続いた。

「売れなくなって困っている」「なんか打開策はないですかね」という話ばかりだった。ガラケーからスマホへ市場が移行するなか、明らかにBL,TLものの売上は落ちている。さらに、アップストアの単体アプリとしての電子書籍市場は、アップルの方針転換と審査が一気に厳しくなって、ほぼ崩壊した。

 このようなことから、言えるのは、紙市場でなんとか売上と収益を確保できる大手出版社は、電子書籍は一部門としてやっていける。しかし、中小出版社や電子書籍市場だけにコンテンツを提供するようなインデペンデント会社は,先行きが見えなくなっていることだ。

 

 現在、日本の電子書籍市場は迷走状態にある。それなのにメディアは、このことに触れようとはしない。はたして、日本特有の紙出版の流通が維持されたままで、電子書籍が進展していけるだろうか? 私にはそうは思えない。また、電子書籍と紙書籍は別ものということも、そろそろ気がつくべきだ。アマゾンが成功させた「キンドルシングルズ」が、今後、紙を電子化しただけの電子書籍にどんな影響をもたらすかもわからない。

 日経新聞は、この後も電子書籍の記事(8月15日、16日)を掲載し、そのなかで大物作家が電子化を許可しないことも、タイトル数が増えず、そのために電子書籍市場が進展しない原因の一つになっているとしている。本当にそうだろうか?

 インプレスの推計では電子書籍の12年度の国内市場規模は729億円。17年度には現在の3倍の2400億円に拡大するというが、本当にそんなことが起こるのだろうか。