11/02/28●激変するメディアと電子出版、2月の主なニュースから見えてくることは? 印刷

 電子出版市場は、日々、大きく動いている。それにともない、メディアの動きも激しい。しかし、ほとんどどこもビジネスになっていないのに、なぜ、これほどいろいろな動きが立て続けに起こるのだろうか? 誰も、今後どうなるかわからないのに、「乗り遅れたら大変」と市場に参入しているとしか、私には見えない。とくに、この2月の動向は激しかった。そこで、以下まとめてレポートしてみたい。

 

■アメリカでiPad専用の日刊新聞アプリ「The Daily」が発刊

 

 2月2日、ルパード・マードーック氏率いるNews Corporationが鳴りもの入りで、デジタル日刊新聞アプリ『The Daily』をスタートさせた。これは、iPad専用のアプリ新聞で、アップルの新たな定期購読サービスを利用したもの。

 マードック氏は、これまでネットでのメディアビジネスの確立に腐心してきたが、結局はアップルと組むことになった。しかし、発表会見ではアップルのCEOスティーブ・ジョブズしに「病気療養」を理由に、袖にされた。この後、ジョブズ氏が「iPad2」の発表会見を自ら行ったことを考えると、『The Daily』のようなメディアにはあまり興味を抱いていないのではと思う。 

 その『The Daily』だが、その後現在までのアメリカのメディアでの評判を見ると、あまり芳しくない。定期購読会員も集まっていないようだ。

 さらに、最悪なのは、その後、2月15日、『The Daily』に用いられている定期購読サービスを、アップルが一般にも開放し、ガイドラインを発表したこと。これは、単体課金と違って、定期購読課金だから、メディア側として待ちに待っていたもの。しかし、アップルの条件は異常に厳しかった。

 

 

■アップルは横暴!メディアをコントロールするのか?

 

 アップルの「サブスクリプションサービス」によって、アプリ開発者はApp Store内で販売するコンテンツに対し、価格とサブスクリプションの継続期間(週、月、隔月、3カ月、6カ月、1年)が設定できるようになった。しかし、手数料がこれまで通り30%。まずこれが「ひどすぎる」という声が上がった。

 また、課金方法も評判が悪い。

 これまでも、アプリから外部のサイトに飛ばし、そこで課金する方法でコンテンツを販売ができたが、これが禁止された。今後はアプリ内にそうした外部課金につながるリンクを設けられなくなり、また、App Storeでの販売価格が外部課金を利用した場合と同額かそれ以下の価格にしろと、アップルは求めてきた。

 つまり、アップルは場所代だけで丸々30%を取るというわけだ。

 ユーザーからすれば、今後はApp Storeで一元的に購入できるので利便性は増す。しかし、コンテンツ提供側からすると、新規読者の開拓のための踏み絵としてAppleに売り上げの30%を渡さなくてはならない。しかも、その読者情報をアップルは渡してくれない。こんな、アホな話はない。アップルのメディアコントロールに、「独禁法違反ではないか」と告発する動きも出ている。

 

■ライブドアが電子書籍市場に参戦

 

 livedoorが電子書籍市場に参戦、販売を開始した。同社のオンライン書店「livedoor BOOKS」では、パピレスが提供する電子書籍販売システム「eBookBank」を利用し、4万5000点という比較的大量のラインアップで電子書籍の販売が始まった。ただしコンテンツの3割はアダルト系。

 新刊本や中古本との同一カート決済などが可能な点は、NTTドコモ、大日本印刷(DNP)、CHIの共同事業会社「トゥ・ディファクト」が進めるハイブリッド型総合書店と似たアプローチとなっている。

 

■「All About」も電子書籍販売

 

 なんと、生活総合情報サイト「All About」も独自の電子書籍ブランド「All About Books」を立ち上げ、パブーでの販売を開始した。またAll About に掲載された記事コンテンツを電子書籍にしたものを iPhone および iPad で閲覧できるアプリ7タイトルの販売を、「App Store」で開始した最初は数タイトルからのスタートで、ページ数は18〜24ページ程度とKindle Singlesのパクリ。これを電子書籍としてパッケージし直して売るというモデルだが、うまくいくどうか見物だ。

 

■作家・伊集院静氏が電子書籍レーベルを発足第1弾

 

 昨年の村上龍氏に続き、作家の伊集院静氏が電子書籍レーベル「デジタルブックファクトリー」を立ち上げ、2月17日に、設立記者会見が開かれた。あわせて、レーベル第1弾として、歌手の井上陽水さん、写真家の宮澤正明さんが協力した伊集院氏の電子小説『なぎさホテル』の配信が始まった。会見で伊集院氏は「電子書籍で儲けた人は正直いない。でも大事なのは誰が最初にやるか。だから(電子書籍の会社を昨年に設立した)村上(龍)さんは立派」と語った。

  

 ただし、『なぎさホテル』は、電子書籍とは言えない。書籍の枠を超えたリッチコンテンツで、1985年に急性骨髄性白血病で亡くなった前妻の夏目雅子さんとの当時の思い出に触れたインタビュー映像を収録。さらに、井上陽水さんの主題歌「TWIN SHADOW」も収録されている。価格は1000円だ。

 このようなリッチコンテンツが今後どんどんつくられていくのかどうか? 本当にユーザーはそういうものを欲しがっているのか? いまのところ、私にはまったくわからない。

 

■電子書籍ストア「BookLive!」オープン、クラウド型サービス

 

 株式会社BookLiveが2月17日、電子書籍ストア「BookLive!」をオープンした。この会社は株式会社ビットウェイが、グループ会社である凸版印刷株式会社から出資を受けて今年1月に設立した新会社。ストアのオープンにあたってはインテルコーポレーションが技術面で協力している。

「BookLive!」の特徴は“クラウド型電子書籍ストア”であること。購入した作品をクラウド上の「My本棚」で管理し、最大3台の端末と同期させることができる。専用ビューアー「BookLive!Reader」は複数の電子書籍フォーマットに対応。「BookLive!」のウェブサイト、もしくはAndroid向けのアプリストア「Androidマーケット」から無料でダウンロードできる。

 ラインナップはコミック、小説、実用書が中心。講談社が積極的に協力し、合計4997冊を提供するほか、小学館、文藝春秋など国内主要出版社の作品を提供するとしている。

 

■NTTプライム・スクウェア「FAN+」を3月14日に開始

 

 NTTグループと角川コンテンツゲートが共同で設立したNTTプライム・スクウェアは、延期していた「FAN+(ファンプラス)」のサービスを3月14日に開始すると発表。「FAN+」は、パソコンや携帯電話、スマートフォン(アンドロイド端末)などのデバイスからアクセスできる“クラウド型のコンテンツ配信”サービス。電子コンテンツ販売の「楽天」と思えばわかりやすいかもしれない。現在、亜紀書房の「談志市場」、角川コンテンツゲートの「お化け大学校 Fan+」、学研パブリッシングの「学研 音の鉄道博物館」など、22ショップの参加が決まっているという。

 

 インターネットを通じて会員登録(無料)すると、出版社や芸能プロダクションなどがネット上で運営する「ショップ」から、芸能、趣味、雑誌、歴史、スポーツなどの独自コンテンツを1番組あたり月額300〜1000円で購入できる。

 発表会見で、角川グループホールディングスの角川歴彦会長は「アップルやアマゾンのように自社端末に特化したサービスと異なるオープン型の配信基盤をつくり、幅広いコンテンツと利用者を集めたい」と話した。

 

■最後のまとめ「今後、電子書籍はどうなるのか?」

 

 これほど急速に、電子書籍化を進めたうえに、電子書店や電子書籍配信サービスが乱立すると、ユーザーはとまどうばかりではないだろうか。電子書籍は、紙に比べて確かに便利だが、まだ、これこそが電子書籍だというものがない。 そんななかで、紙の電子化、リッチコンテンツづくり、新配信サービスの確立、読者の囲い込みなどが、バラバラに進んでいる。

 とくに日本ではそうだ。このままバラバラに進めば、電子書籍市場は立ち上がらないばかりか、かえって混乱し、この先、アマゾンやグーグルが日本でのサービスを開始すれば、ユーザーは一気にそちらに流れていくのではないだろうか?