11/09/30●三一書房が著者に無断で約200点の本を電子書籍化して委託販売。その本当の問題点とは? 印刷

9月30日の朝日新聞夕刊が7段のスペースを割いて、三一書房の前経営者が、著者の許可を得ないで200点以上の作品を電子書籍化して委託販売していたことを伝えた。これらの電子書籍は、凸版印刷の子会社「デジブックジャパン」を通して、大手の電子書籍販売で半年以上にわたり販売されていたという。

 三一書房の関係者らによると、同社の岡部清・前代表は昨年9月、凸版印刷子会社のデジブックジャパン(東京)に対し、三一から出版された本を電子書籍化し、販売を委託する覚書を交わした。しかし、 その約230点の書籍の大半は著者の許可を得ていなかった。これらの電子書籍が販売されていたのは、シャープなどが運営していた「ツタヤ・ガラパゴス」(現「ガラパゴス・ストア」)ソニー運営の「リーダーストア」などで、9月に停止されるまで約 80万円の売り上げがあったという。

 

  朝日記事は、三一書房の内紛が背景にあったことを伝え、岡部代表の「不適切だという認識はあったが、許諾を取る時間がなかった。著者には申し訳ない」というコメントを載せている。また、無許可販売された著者の一人、高橋幸春氏の「今回の問題は、盗品が堂々と店で売られているのと同じで、電子書籍という新しい市場が広がる状況に水を差す行為だ。契約状況の管理徹底など、業界全体で防止に努めてお欲しい」というコメントも掲載している。

  また、こうした事態が起きた原因として、「書籍の電子化でコンテンツ獲得競争が熱を帯びるなか、出版業界の古い体質のほころびが露呈した」と書き、昨年来の電子書籍ブームにより、「業界内の激しいコンテンツ争奪戦がある」としている。

 

  しかし、私の見方はまったく違う。まず、激しい争奪戦をしているのは一部で、すでに業界内には「やはり日本では電子書籍は進まないし、なにより儲からない」という諦めムードのほうが強くなっている。要するに、売れないものを、著者と手間ヒマかけて交渉してもまったく見合わないのだ。朝日記事が伝えるように、200点以上も配信したのに、その売り上げは半年で、たかが80万円である。とすれば、1点あたり4000円である。

  岡部氏が許諾を得なかったのは明らかに問題で違法である。だが、かといって著者との契約に時間と手間をかければ、日本で電子書籍市場など永遠にできない。ということで、私に言わせれば、岡部氏というのは、法を犯してまで、わざわざ売れない本を電子書籍化したボランティア人間になる。

 

  著者は違法が発覚した時点でそれを指摘し、デジタルデータを引き揚げればいいだけだ。著者としては、なにもしないで自分の本が電子書籍になったわけで、今後それを直接売ればいいことになる。とすれば、今回のことは、痛くも痒くもない。

  すでにアメリカでは、キンドルが79ドルになったことで、電子書籍はアマゾンが独占することが見えてきた。こうなると、出版社は中抜きされるのは確実だし、日本市場もいずれアマゾンに席捲されるだろう。著者と出版社、そして、電子書籍配ストア、端末メーカーなどが、それぞれの権利を主張、コンテンツをめぐって争っている場合ではない。